第十七話 昇格試験
オババの薬屋を出て今度はギルドへ。
ギルドマスターのアルさんから呼び出されてたんだよね。
アルさんにはまだ誓約書破いたことも言ってないし、内密に話をさせてくれるんだろうな。
ギルドの扉を開けると、ゴッツさんが待ち構えてた。
「来たなコボルトF。待ってたぜ」
「こんにちは、ゴッツさん」
「おう。それで、こいつは昨日の礼だ。死ぬとこだったからな。受け取ってくれ」
そう言ってゴッツさんは一本の片手剣を渡してきた。
「これは?」
「使い古しで悪いが、いい剣なんだ。ちゃんと整備もしてある。使えねぇようなら売ればそれなりの額になる」
「ええっ! そんなの貰えないよ!」
「いいから貰ってやってくれよ。こいつ、フィーアちゃんに指輪買うっつって他に用意する金がねぇんだ」
横からラースさんが楽しそうに笑ってる。
「ははっ、なら仕方ないね」
「それに俺たち【斥候】は短剣がメイン武器だ。確かに片手剣があって楽になることもあるが、なくて困るほどじゃねぇ」
「わかった。ありがたく使わせてもらうよ」
「ふっ、やっぱりな。ただの【すっぴん】じゃねぇと思ってたが、まさか『夕暮れの空』の知り合いだったとはな」
ああ、昨日アカツキに飛び付いて行ったの見られてたんだね。それもそうか。
「ゴッツ! それは見なかったことに、って言われてるでしょ!」
「フィーア、すまん。だから落ち着いてくれ」
「これだよ。ゴッツが完全に尻に敷かれてやがる」
「普段からは想像もできないね」
そう言って私とラースさんが笑うと二人揃って照れてる。
ちょっとだけ、イラッとした。ちょっとだけね。
「それじゃフィルナさん、ギルドマスターがお待ちですよ」
「はい。昨日呼ばれました」
「では、奥へ」
フィーアさんに付いてギルドマスターの部屋に入る。
「失礼します」
「来ましたね。では、そちらにどうぞ」
アルさんに促されてソファーに掛ける。
「ギルドマスター、なんですかその話し方」
「これからもう一組客が来る。その客にこんな話し方はできんからな」
「そういえば騎士団の団長さんともアカツキが来たときもこんな感じでしたね」
「外ヅラだけはいいのよ」
「フィーア?」
「はいっ! 人のことは言えません!」
「ふむ。まぁ、その客が来るまではいいか。フィルナ、まずは今回の報酬とポーション代だ」
「あの……」
ポーション代が約10万ギルでそれに報酬……なんだけど、これ……100万ギルくらいあるよ!
「黙って受け取れ。あの『裁きの雷』は本当に助かった。あの特異個体を倒す手段は他になかった。それ込みの報酬だ」
「わかりました」
ノーとは言えない、言わせない威圧感が凄い。
「それと、フィルナさんはこれでランクアップ試験の受験資格を得たわ。Eランクへの昇格試験は職員との模擬戦。いつでも言ってね。空いてる職員がお相手するから」
「えっ?」
「そうだったな。要はモンパレへの参加は討伐クエストと同等の扱いということだ。実際にオークジェネラル討伐に参加しているしな。まだ客も来ないようだしこれからどうだ? フィルナの相手は私がよかろう」
「あー……フィルナさん、あの誓約書破っちゃいましたよ?」
「そうか。だが、それでも下手な職員が相手をするよりいいだろう」
あれ? 意外とあっさり。そうすると思われてたのかな?
「アルさんがよければ私はいいですよ」
「ふ……では、裏手の訓練場へ行こうか」
「ギルドマスター、「アルさん」って呼ばれるたびにニヤつくの気持ち悪いですよー」
「うるさい。お前にこの喜びがわからんのか」
「う……ちょっと否定できない」
フィーアさんも私が普通に話すと顔に出るもんね。
そして、二人に連れられて訓練場に出た。
「そこに木製の武器が一通り揃っている。好きな武器を選べ。なに、力を見るだけで勝敗は関係ない」
「アルさんはその木剣ですか?」
アルさんが手にしてるのは片手剣サイズの木剣。
【鑑定士】って剣も使えるのかな? そんなイメージないんだけど……。
「ああ。【鑑定士】には適正武器というものはない。だから武器技は使えないが、自分で『鑑定』した武器を使いこなせるという特性がある。まぁ、武器に限った話ではないし、当然それを使うには訓練が必要だがな」
『鑑定』で使い方も知れるっていう感じなのかな?
「それじゃあ、私はコレで」
「ほう、二刀流か」
私が選んだのは片手剣と短剣。
短剣は言わずもがな、【すっぴん】になってから一番振ってきた武器。
片手剣はその前まで一番練習してた武器。なんたってアカツキと同じ武器だしね。今朝も同じ感じの木剣を振ってたよ。
まぁ、アカツキは大剣も使ってたけどね。私には全然振れなかった。
二刀流は初めてやるんだけど、ゴッツさんから剣貰ったし試してみたい。
それじゃ、私も鑑定してみよう。
木の片手剣
全て木で出来ており、斬撃力は皆無だが、打撃は当たるとそれなりに痛い。
バランスは見た目通りで扱い易く、練習に最適。
うん、短剣も同じ説明。
色々試すにはピッタリってことだね。使い方っていうよりその武器の特徴がわかる感じだったよ。
まずは短剣は守り重視で片手剣で攻める感じでやってみよう。
「いきますよ!」
「ふっ、いつでも来い」
「はっ! ほっ!」
「どうした? それではただ二本の武器を振っているだけだ」
確かにしっくりこない。
これじゃ、盾を持って剣だけ振った方がマシなくらい。
両方とも当てるつもりで振って、相手をよく見るんだ。
ダメな方をフェイントにして……。
距離を詰めるか離れるか、相手に二択を迫りつつ、こっちはより有利な方を。
短剣でアルさんの剣を捌いたこのタイミング!
「武器技・『一刀両断』!」
剣閃がアルさんの片手剣を上から叩き落とした。
「ホントに出ちゃった……」
昨日のアカツキの見様見真似で動きだけ、のつもりだったんだけど……。
「なんだ? 習得してない武器技だったのか? ああ、昨日のアカツキ殿のアレを見たからか」
「は、はい」
「本当に君は規格外だな。いや、いい一撃だった。その前の流れもよかった。これならばEランクの討伐クエストも問題ない。合格だ」
「ありがとうございます!」
「だが、『一刀両断』は隙の大きい技だ。使い所には気をつけろ」
「使いこなしてみせます!」
「いい返事だ。では戻って昇格の手続きをしよう」
「すっごい……ギルドマスターが武器を落とされるとこ初めて見たわ……」
「ううん、アルさんの左足は一歩も動いてないし、左手も使ってないからね」
本来片手剣を使うなら左手には盾を持ってるはずだもんね。剣だけで対応してたからできただけ。
「よく見ているな。だが、それでも落とされるつもりはなかったぞ?」
「ほら! 誇っていいのよ!」
「うん、ありがとう」
そうだった。堂々と、だね。
「では、フィルナをEランクと認める。ライセンスの更新もこれで完了だ」
「ありがとうございます」
アルさんからライセンスを受け取って、退室の許可を待ってるけど何故かそれが来ない。
「あの……」
それを確認しようとしたらアルさんに手で遮られた。
「まぁ、待て。客が来ると言っただろう? フィルナにも関係のある相手だ。君にも同席してほしい」
「えっ?」
予想外の言葉に「誰だろう?」と思ってたら、コンコンと扉がノックされた。
フィーアさんとは別の職員さんに案内されて来た人達が、アルさんの許可の後に入ってくる。
それは知らないおじさん3人だった。
お読みいただきありがとうございます。
次回、和解。
今章あと二話の予定です。




