第十六話 自然魔法
翌日、いつもの日常が戻ってきた。
私もいつも通りに昼まで過ごして、オババのところに向かった。
「来たね。店を閉めて奥においで。長くなりそうだからね」
「わかった」
言われた通りにして奥へ向かうと、オババが紅茶を淹れてくれてた。
「さて、どこから話したもんかねぇ」
「じゃあ、アカツキが言ってたこと……アカツキ達が来たのは私の『裁きの雷』を見たからって。オババが理由を知ってるって」
「そうかい、また新しい力を身につけたみたいだねぇ」
そう言って紅茶をすするオババ。
「契約はしてたからね」
私もオババに習ってすする。
「フィルナじゃなくてアカツキの方さ」
「へっ?」
「あたしがその事に確信を持ったのは昨日あの後アルフレッドが来てあらましを聞いたからなんだ。タイミング的におかしいだろう? 【勇者】には勘でもよくなるようなスキルがあってそれを覚えたんだろう。あたしが知ってるあの子にはそんな力はなかったからね」
アカツキって確かもう30過ぎてるよね……それでも"あの子"って言われるんだ……。
「それじゃ、オババが知ってるっていうのは間違いじゃないんだ?」
「まぁ、そういうことだね。順番に話していこうか。まずはモンスターパレードが何故起こるのか。これは前にも話したことがあるだろう?」
「うん。この王都の周りには山だったり森だったり川だったり自然があってそれが綺麗に一番近いのが王都っていう条件が揃ってるから、だよね」
「そう。ただそれだけなら普段冒険者が間引きしてるんだからモンパレなんて起きないだろう?」
「え? あ、確かに。それじゃ別の理由があるの?」
「自然の力が強い場所ほど『特異点』ができやすいっていう話もしたね? だけど、そうならなかった自然の力はずっと溜まっていく、とあたしは考えてる」
「もしかして、それが一気に『特異点』になるのがモンパレ?」
「察しがいいね。自然なんてよっぽどのことがなきゃ変わらない。だからいつも同じ間隔でモンパレが起きてるんだろうね」
「でも、今回は早かったんでしょ?」
「その原因はフィルナ、アンタさ」
「えっ……?」
「ああ、勘違いしないでおくれよ。別に咎めようってんじゃない。ちゃんと知っておいてほしいだけさ」
「私が……? はっ! もしかして自然魔法?」
「そう。魔力1とはいえ毎日のように薬草に掛けてたわけだからね。まぁ、フィルナに責任があるってんなら薄々気付いてたのに何も言わなかったあたしにも責任はある」
「そうなの? どうして……」
「なに、ここの住人はそれに備えて鍛えてたんだ。何もなくても来年起こってたことだしね。だから大丈夫だと思ってたのさ。特異個体が出たって聞くまではね」
「やっぱりアレはおかしいんだよね?」
「そもそもBランクが出てくることなんて滅多にないんだよ。毎回とにかく数って感じさ。現役の頃に一度だけ見たことはあるけどね」
「そっか……」
「まぁ、絶対に使うな、って話じゃない。昨日も怪我人治すのに『大地の息吹』を使ったんだろ? それくらいなら大丈夫さ。ただ軽い傷なら『ヒール』にしとけって話さ」
「あれ? 初級魔法使えるようになったって話したっけ?」
「物の例えで言っただけなんだけどね、そうかい。まぁ、レベルはかなり上がったろ?」
「う、うん。途中から急に音が鳴り止まなくなった」
その理由はなんとなくわかってるんだけど……。
「アンタの作ったポーションはギルドの保管庫に保管してただろ? あの中は魔法鞄と同じで時間も止まってるからねぇ」
「あ、だから作って30分以内のポーションを飲んだことになるんだ」
魔法部隊の2本目以降は魔法鞄から取り出して渡してた……レベルアップ音が鳴り出したのはそのマナポーションの補給を始めてから。
やっぱり経験値が入る支援の条件に入っちゃってたんだね。
「そういうこと。レベル、いくつになった?」
もちろん昨夜寝る前に確認した。
「256。ステータスは筋力が7で他が8になったよ」
「そのレベルでやっとそれかい。難儀だねぇ」
「ううん、レベル100に上がったときあの声が聞こえたの。ステータス制限が1/1000から1/100になったって」
「つまりフィルナの元のステータスは700から800ってことかい。レベルの割には低い……のかねぇ」
「なんとなく、だけど、レベルはあんまり関係ないのかも。筋力が低いのもそれを鍛えるようなことをしてこなかったからな気がするし」
「その辺は【すっぴん】だしねぇ。常識が通じなくてもおかしくはない。そもそもレベル100が条件な時点で他の職業とは明らかに違うからね」
「うん。200じゃなにもなかったから次は1000なのかも」
「ははは、そりゃ楽しみだね。……それで、話は戻すけど、『特異点』は──魔物は自然の力が強いところに出てきやすい。そして自然魔法はそれを促進してしまう。アカツキ達はそのことに気付いたんだろうね」
「なるほど……だから「頼るのはやめなさい」って言ってたんだ」
「『裁きの雷』はその典型、それだけで魔物を呼び出してしまうくらいにね」
「だから……駆け付けてくれたんだ……」
「まぁ、あの子らもやらかしたんだろう。単純なAランクならレオンとアルフレッドがいれば倒せるんだ。それでわざわざ来るってことは何が出るか見たことがあるんじゃないかね」
あ、やっぱりあの二人相当強いんだ。それで苦戦するんだから特異個体って危険なんだね。
あの能力が強すぎたっていうのもあるんだろうけど。
「それでだ。隠す事をやめたアンタはこれからどうするんだい?」
オババは冷めてきた紅茶をくいっと飲み干して問いかけてくる。
「どう……うーん……」
旅には出たいけど、モンパレが終わったらとかは決めてなかったし……。
考えながら私も紅茶を飲み干した。
「決めてないのならまずは自分を知りな。ステータスが上がって加護がどう影響してるのか把握してから動き出しても遅くはないよ」
「うん、そうする。体は軽くなったから数字通りじゃないのはわかるけど……」
朝試したら剣もしっかり振れたしね。職業を得る前よりも上なのは確かだよ。
「まぁ、旅に出るなら討伐を何回かこなしてからにするんだね。できれば……あと一年いて欲しいんだがね」
「一年? なんで?」
「今回のモンパレがフィルナの自然魔法の影響だけで起きたのかもしれないだろ?」
「あっ、来年また起きるかもしれないってこと?」
「そうならないのを確認してから出て行くのが筋だと思わないかい?」
「そうだね。薬草なんて全部使い切っちゃったし」
「それは大丈夫さ。他の【薬師】がいるからね」
「えっ、もしかしてオババ……」
「ま、上手いこと交渉材料にするんだね」
「もう……私だと素直に全部喋っちゃうよ?」
「それで納得するならそれでいいさ」
「素直じゃないなぁ」
「はっはっ、年寄りは頑固なんだよ」
「でも……たまには来ていいよね?」
「もちろんさ。フィルナは弟子だけど可愛い孫みたいなものさ。いつでもおいで。ここに調合しに来てもいいし、道具も好きに持っていきな」
「ありがとうオババ。お世話になりました!」
それがオババの元からの旅立ちの一歩となる挨拶だった。
お読みいただきありがとうございます。
次回、昇格試験。




