第十五話 救世主
丸焦げになったオークジェネラルを近接組全員で総攻撃をかけて、オークジェネラルは倒れた。
ピロリロリン♪ピロリロリン♪……
止まってたレベルアップ音がまた鳴り出した。
「終わった……んだよね?」
「ああ、オークジェネラルを倒したんだ。さすがにもういねぇだろ」
「ゴッツ、もういいの?」
二人の声に振り返ったら、ゴッツさんはもう立ち上がってた。
「おう、この通りよ」
ゴッツさんは腕を振って見せた。
「ふふ、さっきまで情けないこと言ってたのにね」
「うっ……忘れてくれよ」
「嫌よ。もっといいプロポーズしてくれるなら別だけど」
フィーアさん、吹っ切れたんだね。困った顔のゴッツさんは新鮮だなぁ。
そして周りを見回すと、みんなで勝利を喜んでる。
騎士さんと冒険者で肩を組んでる人達もいる。なんだかいいなぁ、こういうの。
オークジェネラルの経験値はみんなで分配されたみたいだから今度のレベルアップ音はすぐに止まった。
他の人には微々たるものだったのかな?
ふと空を見上げた。
なんでか、って聞かれると特に理由はないんだけど、何故か気になった。
すると雨が止み、空を覆っていた雨雲の隙間から一筋の光が差し込んできた。
そっか、雨が降ってたから忘れてたけど、まだ昼過ぎなんだよね。
雨が止んだことを喜んでみたけど、なんだか胸騒ぎがする。
そして、光が差し込む程度の雲の隙間が急に丸く大きく広がった。
「なに……あれ……」
「ん? どうしたの? フィルナさ──えっ?」
「なんだありゃ……」
フィーアさんもゴッツさんもその雲の様子に驚愕してる。二人もわからないんだ……。
「お、ゴッツ! 助かったんだな! いや、すげぇ魔法だったなぁ!」
そこにラースさんが戻ってきた。
「ん? お前らどうしたんだ? ってなんだ!?」
私達の視線が自分の後ろの空に向いてることに気付いてラースさんも振り返ったけど、ラースさんも知らないみたい。
それにだんだん周りの人もその空の異常に気付き始めてる。
そして、その答えはそれを起こした張本人が現れたことで明らかになった。
「ド、ド、ド……ドラゴンです!!」
索敵組の人が声を張り上げた。静まりかえっていたからここまで聞こえた。
その声に振り返って、また視線を戻すとソレが姿を見せる。
長い首の先の頭部にバチバチと小さな雷を纏った角を持った黒いドラゴンが翼をゆっくりと羽ばたかせ、雲の下まで降りてきて滞空する。
あんなに遠くにいるのにオークジェネラルより大きく見える……。
「サンダードラゴン!?」
ソレの名前をフィーアさんが叫んだ。
「あれが……サンダードラゴン……」
冒険者として経験の浅い私でも知ってる。
最低でもCランクのドラゴン族の中でもサンダードラゴンはAランク。
ただしそれは地上で相対した場合の脅威度。
アレみたいに飛ばれてしまうとワンランクは上って言われてる。
その理由は単純に攻撃手段が少ないから。
私の『裁きの雷』なら当てることはできるだろうけど、サンダードラゴンはその名の通り雷を操るドラゴン。雷は効かない。
有効な攻撃手段は限られてる。
そして本来ならそれを持った人が集まって入念に準備した上で討伐に向かうような相手。
「どうすんだよ、あんなの!」
「なんか、なんかないのか! アレを倒す手段はよう!」
ゴッツさんにラースさんまで取り乱してる。
どうしよう……私にできること……何もないよ……!
ここで下手に手を出すとこっちに攻撃が向いちゃう。
私達の背後には王都がある。
それだけは、それだけはなんとしても避けないと……!
魔法部隊もそれがわかってるから手を出せないでいるみたい。
私達の誰もが何もできずにソレを見上げてる。
そして、サンダードラゴンがこちらを見た。
その口が既に雷のブレスの溜めに入ってる。
ヤバいヤバいヤバい。
ダメ……何も思いつかない。
誰か……お願い! 助けて! このままじゃ王都が……! お父さん、お母さん、オババ……みんなを助けて!
私には祈ることしか出来なかった……。
「そうはさせねーよ! 武器技・『一刀両断』!」
それは……聞き覚えのある懐かしい声だった。
そしてその瞬間に閃光が走り、サンダードラゴンの頭部が血を噴き出しながら首から離れていく。
そして凄まじい衝撃音と共に地面に落ちる。
それを成したその人は遅れてふわりと降りてきて着地した。
あれは……クレ姉さんが使ってた時空魔法の『浮遊』!
まさか…………でも、やっぱり……!
「アカツキ!!」
私はその人の名前を呼びながら駆け出してた。
私が憧れてる、目指してるその人の名前を。
「うおっ……って、その胸当て! フィルナか!」
「ありがどゔ! ありがどぉおアガヅギぃ!!」
「ははっ、それじゃ涙拭いてやれねーよ」
「取っちゃダメよ、暁。なんで被ってるかくらいわかるでしょ?」
「ふぇ? クレ姉さんもいるぅ」
「大きく……なったか? あんま変わんねーか?」
「ちゃんと変わってるわよ。デリカシーないんだから。ね、フィルナ」
「ずびっ! うん。変われた、かな」
「おっと、悪いな。あんまり話し込んでる時間はねーんだ」
「そうなの? でもどうしてここに?」
「他の街からこっそり『転移』してきたのよ。ちゃんと手続きしてきてないからこの王都に入るわけにもいかないし、すぐ戻らないと」
それは犯罪になるんだよね。今の状況もかなりギリギリ、アウト寄り。普通の人で普通の状況なら完全にアウト。
「『裁きの雷』使ったろ? 離れてても見えたぜ。だから来たんだ」
「へ? どういうこと?」
「詳しくは……そうだな、オババが知ってるはずだ。それと……」
「自然魔法に頼るのはやめなさい。特に『裁きの雷』はね」
「今回はそうするしかなかったんだろ? 上からオークジェネラルが見えた。特異個体っぽいしな。だが、今後は……さっきのドラゴンが倒せるくらいになるまで使うのはやめとけ」
「よくわかんないけど、わかった」
「アルフレッドさん、うまいこと誤魔化しといてくれ」
「はぁ、仕方ありませんね。でも、助かりました」
うわ、いつの間にか後ろにアルさんがいたよ!
そう、アカツキ達はSランクパーティでこの場を救った救世主。
咎められることはない……よね?
「権力持ちにすぐに会えてこっちも助かったぜ」
「褒め言葉、として受け取っておきましょうか。貴方はそういう人ですしね」
「ホントは来年かと思って合わせて戻るつもりだったんだけどな。終わったんならもう大丈夫か。じゃあなフィルナ、待ってるぞ。……と言ってもどこにいるのかくらい見つけてみろ」
「ふふっ。頑張る。ありがとね、アカツキ」
「また会えるのを楽しみにしてるわ、フィルナ」
「うん、私も。またね、クレ姉さん」
そして二人は『転移』で戻っていった。
「フィルナ、明日私の所に来てくださいね」
「はい、アルさん」
「ふふ……あ、いえ、早く帰ってあげなさい。ご両親もマチルダさんも待っているんでしょう?」
「そうですね。それでは、失礼します!」
フィーアさんたちに挨拶した後、先にオババのところに寄って無事だったことの報告と明日改めて来ることを伝えて、そこからは走って家に帰った。
そして、家族三人で小さな祝勝会をした。
今朝ゆっくりできなかった分、時間があるだけ話しながら。
お読みいただきありがとうございます。
次回、自然魔法。




