第十四話 モンスターパレード 後編
大量に放たれた火球が先頭を走る魔物の集団に炸裂した。
最初に姿を見せたのは狼とか猪の足が速い魔物。
下位種から上位種までないまぜになっててどれが何なのか全然わからない。
大きな塊だったものが火球を食らって、生き残りが散り散りになる。それでもこっちに向かってくる。
それを横一列に並んだ近接組が迎え撃つ。
最前列は騎士団。
そしてその後ろに間を開けて冒険者の列。フィーアさんが言うにはこの列はCランク以上の人達が並んでるらしい。
並びの順番はギルドマスターのアルさんが振り分けたみたい。
その後ろにはそれ以外の冒険者。人数は三列の中では一番多い。アルさんはここで指揮してるらしい。
まず第一波は騎士団までで止められた。
続けて今度はゴブリンやコボルトの二足歩行で比較的速い魔物。
出遅れたらしい狼とか猪もまだいる。
そこにまた火球が降り注ぐ。
またそれを逃れた魔物を騎士団が抑える。
ただ、ゴブリンやコボルトたちは何匹かそれすら掻い潜って進んでくる。
でもさすがに数が減れば冒険者がすぐに仕留めてた。
そして約一時間後、象のような大型の魔物やオークとか足の遅い魔物も姿を見せ始めた。
既に最後尾の列まで抜ける魔物も出始めてる。
でも、まだ戦線離脱した人はいないみたい。
「フィルナ!」
はっ!
フィーアさんに呼ばれて正面横の騎士さんが一歩下がってることに気付いた。
そっか、もう二本目の人もいるんだ。
慌ててその人にマナポーションを渡して戻ってくると、他の職員さんもポーションを求められてた。
私も割と頻繁に呼ばれる。だいたいみんな同じくらいの魔力ってことなのかな?
そして──
ピロリロリン♪
えっ?
ピロリロリン♪ピロリロリン♪ピロリロリン♪
ええっ!?
ピロリロリン♪ピロリロリン♪……
なにこれ、レベルアップ音が止まんない。
さっきまでなんともなかったのにどうして急に?
「フィルナ! どうしたの?!」
そうだ、考えてる場合じゃない!
「大丈夫。なんでもない!」
そう返事した時──雨が降り出した──。
「全員、ファイア止め! 別の魔法に切り替えろ!」
魔法部隊隊長のクリムさんが号令をかけて部隊の使う魔法が変わる。
クリムさんはアイス、ウィンド、サンダー等試すように色んな魔法を使ってる。
それにクリムさんは手持ちのマナポーションは飲んだみたいだけどまだ補給を求めてない。隊長を任されるだけあって魔力が高いんだね。
「サンダーが得意な者はそちらを優先しろ! Ⅴが使える者はウィンド、それ以下ならアイスを使え!」
もう有効な魔法を割り出したんだ。Ⅴってことはレベル40以上ってことだよね。
ピロリロリン♪ピロリロリン♪……
私はもう何レベルになったのかわかんない。今ステータスを見るわけにもいかないし……。
(「レベル100に到達した為、ステータス制限が1/1000から1/100になります」)
えっ? えっ?
「本当に大丈夫!?」
「う、うん!」
ダメだ、考えるのは後! どれだけフィーアさんに気を遣わせてるの!?
とにかく補給を遅れないようにしなきゃ。
「オークが増えてきたわね。ファイアが使えればあんなの……チッ」
クリムさんの声が聞こえて先に視線を送ると、目に見えてオークが増えてた。
というか、オークだらけ。サイズが大きいから余計に目立ってる。
雨で視界が悪くなってそれこそオークだけがいるように見えちゃう。
「これは……ジェネラル……下手をすればキングが出てくるかもな……」
クリムさんが予想を口にしてる。
既にただのオークだけじゃなくてハイオークも見えてる。
となると上位種や最上位種がいてもおかしくないよね。
そして、それは最悪な方に当たってしまう。
「後方にオークジェネラル! す、すごい大きさです!」
横の方から声が飛んできた。
索敵組だ。この視界でも捉えたみたい。私にはまだ見えない。
「おそらくそいつがボスだ! まずは先に周りを殲滅するぞ!」
「「はっ!」」
クリムさんがそれを聞いて更に気合を入れる。
そして初めて補給を受けてた。
もう戦いが始まって二時間。ずっと魔法を撃ち続けてるのにすごい魔力。
数百……ううん、もしかしたら千も超えてるのかも。
それに私のマナポーション。そんなに効果があるのかな。こんなすごい人が2本で済むなんて。
あ! もしかして……じゃなくて、考えるのは後だって!
ピロリロリン♪……
「あとはあのジェネラルだけね」
更に30分後、とうとう魔物はボスと思わしきオークジェネラルを残して殲滅された。
本当に大きい。普通のオークですら人の倍はあるのに、そのオークの3倍くらいある。
騎士団や二列目の冒険者がじりじりと距離を詰めていってる。
ただ手に持ったオノを振り回すジェネラルになかなか近付ける隙がなさそう。
そこに、クリムさんのサンダーが──ジェネラルの頭上に雷が落ちた。
「今よ!」
クリムさんが鼓舞する。
声は聞こえてないだろうけど、近接組も理解してた。
高く跳べる人は上を、それ以外は足を襲う。
いろんな武器技が炸裂してる。
やったの!?
「まだよ!!」
クリムさんがいち早く気付いて声を張り上げる。
その瞬間、オークジェネラルがオノを振り回し、群がってた近接組を吹き飛ばした。
「そんな……傷が……再生してる……まさか、特異個体!?」
オークジェネラルはまだ立っていて、それどころかあっという間に無傷の状態に戻ってしまった。
特異個体って、普通とは違う能力を持った魔物のことだよね!?
オークジェネラルは確かBランクだけど、特異個体となるとその強さはもう計り知れない。
ピロリロリン♪ピロリロリン♪……
みんなが愕然として静まったときも、私の頭の中にはレベルアップ音が鳴り続けていた。
「落ち着け! 立て直す! 全員とにかくあいつに魔法を放て! 動きを止めろ!」
クリムさんの声に魔法部隊も冒険者もハッとしてオークジェネラルに魔法を放つ。
「下にはヒーラーも待機している! ポーションもある! 大丈夫だ!」
吹き飛んだ近接組もほとんどがポーションを飲んで立ち上がり、何人かは後方に下がってきてた。
ただヒーラーの方は余裕はなさそう。怪我人が多くて待機というより走り回ってる。
それにこちらのマナポーションも残り少ない。
その時、予想もしてない焦った声が聞こえた。
「ゴッツ!!」
フィーアさんだった。
クリムさんの隣まで駆け寄って身を乗り出して下を覗いてる。
今下がってきた人の中にゴッツさんがいたみたいで、いつもならあり得ないくらい取り乱してる。
「フィーア、下に行ってあげて。マナポーションも残り少ないでしょうから他の方に預けて貰えば大丈夫」
事情を察したクリムさんが促してくれてる。
「ごめんなさい、ありがとう!」
「もう一人、誰か付いててあげて!」
「なら私が!」
考えるより先に体が動いてた。こんな状態のフィーアさんを一人で行かせられない!
私とフィーアさんの残りのポーションを引き継いで、急いで下に降りた。
「ゴッツ! ラースさん! ゴッツは!?」
「くそ、やられたぜ……」
「とりあえず生きてはいるが……」
私達が駆け付けると、ラースさんがゴッツさんを横で支えて運んで来てた。
ゴッツさんは右肩から大きな傷を受けて、大量の血を流してる。
「ポーションは!?」
「もう使っちまった……」
「すまん、ゴッツを頼む。まだ終わってねぇんだ。死なせねぇでくれよ!」
「わかった!」
ラースさんは決意した眼でそう言うとまたオークジェネラルに向かって行ってしまった。
その眼を見た私には止められなかった。止めちゃいけないって思った。
だからせめて私も自分に出来ることをしなくちゃ。
「こんなことなら……引退してお前と結婚しとくんだったな……」
「どうせ結婚してても向かって行ったでしょう?」
気丈に振る舞えてるのは言葉だけ。
「は……ちげぇねぇ……」
「まぁ、それが聞けただけでも嬉しいわ。死なせないからね」
フィーアさんはキョロキョロとヒーラーを探してる。
大丈夫だよ。もう決めたから。
「フィーアさん、これ、やっぱりいいです。もう隠すのはやめます」
そう言ってアルさんがくれた誓約書を破り捨てた。
「フィルナ、まさか……」
「何もしないなんて無理だよ。ラースさんが見せてくれたんだ」
それに……あの声を聞いてから体が更に軽くなったのがわかる。
だから、これで……
『大地の息吹』!
ゴッツさんの身体が輝いて傷が塞がっていく。
一瞬脱力感があったけど、倒れるほどじゃなかった。
それにいつの間にかレベルアップ音も止まってる。
「す、すげぇ……コボルトFは自然魔法が使えたのか!」
「思ったより回復したから私も驚いてるけどね」
どうなるかはわからなかったけど、さすがにあの傷が全快するなんて思ってなかった。
でも、それならもう一つ、新しい自然魔法も威力があるはず。
うん、いける。大丈夫。
一歩踏み出してオークジェネラルを見つめる。
「フィルナ、何する気なの!?」
「ごめん、タイミングを見てるから後で」
上の魔法部隊と下の騎士団は上手く合わせて攻撃してる。
魔法で動きを止めて、斬りかかる。
それに冒険者の方も合わせつつある。
完璧に揃う時を狙うんだ。
………………今!
「いけ! 『裁きの雷』!」
オークジェネラルの全てを覆うほどの雷が落ちた。
お読みいただきありがとうございます。
次回、救世主。
 




