第十三話 モンスターパレード 前編
ギルドでフィーアさんとポーションを回収して西門に着くと、既にポーションを求める冒険者が集まってきてた。
「お、フィーアにコボルトF! やっと来たか! 早くポーションをくれ!」
一人の冒険者が私たちに気付いて叫んだら一斉に視線が集まった。
「はいはい。ちゃんと数はありますから急かさないでください。はい、こっちが普通のポーションでこっちがマナポーション。よろしく」
フィーアさんはそう言って別の職員に魔法鞄を渡す。
「何!? フィーアたちが売り子じゃねーのかよ!」
「残念、私達の担当は上なの。さ、行くわよ、フィルナさん」
男の冒険者たちの悲鳴のような声を背中に受けながら私達はそこを抜けてギルドマスターのアルさんと騎士団の人がいる拠点まで移動する。
「ギルドマスター、騎士団の分のポーションをお持ちしました」
「来たか。ではレオン殿、共に乗り切りましょう」
「ええ、アルフレッドさんもお気を付けて」
握手を交わして、アルさんは冒険者たちの方に行ってしまった。
そして、レオンと呼ばれた騎士さんがこちらを向く。
「はじめまして、騎士団団長のレオンです。本日はよろしくお願いします」
うわー! 金髪のイケメン。ていうか、若っ! ま、まぁ、アカツキの方がカッコいいけどね。
「ギルド職員のフィーアです。それとこちらはフィルナさん。あと数名合流する予定になっています」
「フィルナです。よろしくお願いします」
当たり前だけどポーション製作者とは言わない。
「丁寧な挨拶をありがとう。でも、ここからは普段通り話してくれて構わない。慣れない敬語を考えている一瞬も無駄にしたくないのでね。団員にもそう伝えてある」
すごい。そんな考え方する人もいるんだね。
「わかったわ。じゃあまずは普通のポーションを。こっちは騎士団で上手く分けてください」
フィーアさんの適応力ハンパない。ていうかホントに素の方でいくんだ。
「ああ、助かる。あとは……おい、クリムを呼んでくれ!」
「団長、お呼びですか?」
レオンさんが大きい声を出すと、呼ばれたクリムという人は近くにいたらしくすぐにやってきた。
「彼女はクリム。魔法部隊の隊長を任せている。そしてそちらが今回協力してくれるギルドの方だ」
「わかりました。クリムです。よろしく」
ローブを被ってて髪型は分からないけど薄いピンクの髪が肩から出てる。やっぱり魔法を使う人は長い人が多い。
「フィーアとフィルナです。こちらこそよろしくお願いします。それと下の冒険者が落ち着いたら数名合流します」
あ、最初はちゃんと丁寧にするんだ。第一印象って大事だもんね。
「なるほど。ではまず城壁の上へご案内します」
「わかった」
「ではクリム、頼んだぞ。今回お前たちが主役だ」
「はっ!」
二人は肘を張って胸に拳を突く敬礼を交わしてた。かっこいい。
見惚れてたら私は挨拶する暇もなくクリムさんに先導されて城壁の上に着いた。
「なるほど……。確かによく見えますね。あの砂煙が魔物?」
近くの視界は良好。だから遠くに砂煙が舞っているのがわかる。本当に迫って来てるんだ。
そう思うと心臓がバクバクし始めた。
初めてこの門の外に出た時とは全然違う。
「そうです。あの砂煙の中の魔物の姿が視認できるくらいの距離が射程距離です」
ということは始まるのにはまだ時間があるんだね。
だからクリムさんは落ち着いてるんだ。
「それじゃ、まず先に聞いてた人数分マナポーションを入れた魔法鞄がこれね。人数に変更はない?」
「ええ、予定通り50人です。残りはそちらにお任せします」
「了解。みんな前面に張り付くんでしょ? 一歩引いてくれればすぐに渡すわ」
「なるほど、それはわかりやすいわね。それでいきましょう。皆に伝えておきます」
補給の合図まで決まって、クリムさんはそれを伝えに離れていった。
「すごいね、フィーアさん。私、合図とか考えてなかった。呼ばれてから行くのかと」
「いや、声だと同時に言われたら誰の声かわかんないでしょ? それにここで魔法を撃つなら前に立つのかなーって思っただけよ。ほら、顔を出す窪みがあるでしょ?」
確かに人の背より高い壁の間に同じ間隔で腰くらいまでしかない窪みが並んでる。
「こういうことは知らなかったから勉強になるなぁ」
「外から攻められた時に身を隠しながら応戦するため、だったかな。ごめん、騎士団なら詳しいんだろうけどね」
「ううん、十分だよ」
「それにしても……もう少しフィルナさんも発言していいからね。この国の騎士団だからいいけど、他じゃ女の冒険者が大人しいって思われるのはあんまりいい事じゃないわ」
「わかった。堂々と、だよね」
「そうそう。その調子」
「フィーアさん!」
「お、来た来た。フィルナさん、この五人が今回こっちの担当だから」
下で売り子をしてた職員さんたちがやってきた。
「みんな、よろしく!」
「よろしくね、コボルトF」
私と歳も近そうな女の人。
「いつもフィーアさんが独り占めしてるっスからね。今日はよろしくっス」
私より若そうだけど、職員ってことはそれはないよね?
「あのねぇ。担当って言ってくれるかなぁ」
「誰もそう思ってないって」
「そうそう」
こっちの男の人たちはフィーアさんと歳近そう。
「はいはい、フィーアが困ってるでしょ。その辺にしておきなさい」
そして一番年上っぽい女性。
そういえばフィーアさん以外の職員さんと絡むことほとんどないんだよね。
最初に私を知ってるフィーアさんに当たったから、いつもの薬草採取の報酬受け取りもフィーアさんが空くまで待ってたし。
「助かったわ。それじゃ流れなんだけど……」
フィーアさんが渡す合図の説明をしてマナポーションを振り分ける。
みんな個別に魔法鞄を持ってきてた。
「渡す頻度が多いと思ったら一歩前に出てて。逆に少ない人がそこに補給を」
フィーアさんの説明にみんな真剣に頷く。
私達は魔法部隊とは逆側の後ろの壁側に待機ね。
そしてそれが終わったころちょうど魔法部隊もやってきた。
「クリムさん、雲が出てきました」
「本当ですね。間の悪い……。皆、雨が降るまでは予定通りファイア主体だ。降り出したら各々それ以外の得意なもので攻撃を!」
「「はっ!」」
その場で変更するってことは想定してたんだろうな。
「間違っても苦手な者はサンダーを使うなよ? 味方に当たっては無意味だ」
えっ、サンダーってそんな危ない魔法だっけ……?
って、そういえばルミ姉さんの魔法しか見たことなかったな……。ルミ姉さんは特別だもんね。
「では、私以下50名。大変だと思うが、よろしく頼む」
「お任せください!」
あ、私が返事しちゃって大丈夫かな。
と思ったけどみんな揃って敬礼を返してくれた。
フィーアさんもこっちを見て頷いてる。
そっか、フィーアさんが言ってくれたことってこういうことなのかな。
「間もなく射程圏に入る! よく狙う必要はないが無駄撃ちには気をつけろ。密集しているところを撃て! 撃ち漏らしは下の者に任せろ。こちらの獲物は遠くの敵だ! いいな!」
「「はっ!」」
「それでは全員配置に付け!」
「「はっ!」」
門の真上のクリムさんを中心に城壁の上にずらりと騎士団の魔法部隊が並んだ。
私達もそれをカバーできるように広がる。
よく見たら両側の奥の方には冒険者もいる。ちゃんとポーション補給の邪魔にならないようにしてるんだね。
「撃て!」
クリムさんの号令で一斉に魔法が放たれ、遂に魔物の群れとの戦いが始まった。
お読みいただきありがとうございます。
次回、後編の予定ですが、もしかしたら中編になるかもしれません。




