第十二話 決戦前夜
翌日の王都は空気が変わっていた。
昨日あれだけいた冒険者らしき人の姿がなくて、普通の市民の人達で盛り上がってる。
だからかなんだか和やかな雰囲気。私が昔見たのはこっちの祭りの姿だったのかも。
きっと、冒険者たちは明日に向けてみんな準備をしてるんだね。
私も行かなきゃ。今日は一日ギルドで調合。
昨日やってみたけど、調合はスキルと魔法ですぐ終わるんだけど瓶詰めが相変わらず時間かかるんだよね。
製法が秘密だから誰かの手を借りるわけにもいかないし。
いかに早く瓶に詰めるか、そんなことを考えてたらいつの間にかギルドに着いてた。
「おはようございます!」
あれ?
だれもいないや。こんな静かなギルド初めて。昨日だって職員さん達が慌ただしく走り回ってたのに。
そう思った時、ガチャっと調合室のドアが開いた。
「お、フィルナさん来たね。準備できてるよ」
「フィーアさん! 他の人たちは?」
「みんな西門の方で拠点の設営中。ポーションも料金は後払いだけど販売っていう形をとってるしね。それなりの人数を相手にするし結構何ヶ所も必要なんだよ」
「それで、フィーアさんはなんでここに?」
「もちろん、フィルナさんのお手伝い。人手、いるでしょ?」
「ええっ、あ、ありがたいですけど……」
「なに畏っちゃってんの。昨日のノリはどこいっちゃったの?」
「いやいや、今はその話はいいでしょう?」
「まぁ、そうなんだけど。まぁ、マナポーション、作るんでしょ? 事情を知ってる私が手伝えたら作れる数も増えるかな、って」
「それはそうですけど」
「そ・れ・に。私なしで勝手に薬草取り出しちゃうつもりだったの? あれ? フィルナさんは泥棒さんだったかしら〜?」
「もう……フィーアさんったら……」
「くすくす。さ、時間が惜しいわ。始めましょう」
「はいっ!」
「王国騎士団に卸す分が200。それより多く作った分をギルドで売るからね。頑張って!」
「でも、こんな時にお金を取るなんて……」
「大丈夫。だいたい参加報酬の方が多いから。よっぽど使わない限り差し引きでむしろギルドが払うことになるわ」
「なるほど。そうだったんですね」
フィーアさんの説明に納得して私はさっそく調合作業に入った。
「フィルナさん、もう外も暗いです。そろそろ戻って休んだ方が……数もかなりできてるし」
昨日作った分と合わせてここまで400個くらいあるかな。
「いえ、体は『自己再生』があるんで平気です。それより薬草があと少しなので全部ポーションにしておきたいんです。フィーアさんこそ休んだ方がいいんじゃないですか?」
「また知らないスキルを……とんでもないわね。でも、薬草の取り出しは私の仕事。そういうことなら最後まで付き合うわ。終わったら私にも『大地の息吹』、よろしく♪」
「ふふっ、わかった」
フィーアさんがいると変に緊張しなくて済むから助かる。瓶詰めも手伝ってもらってるから昨日より早いペースで作れてるし。
「それじゃ、これで最後ね」
残り全ての薬草を大釜に入れてスキルを発動、そして『大地の息吹』。それから二人で瓶詰め。
「そういえば明日は何をすればいいんですか?」
「普通に話してくれないと教えてあげませーん」
「ええ……」
「冗談よ。でも、他のギルドだとそうもいかないわよ?」
「!?」
「いつか旅に出るんでしょう? 今のうちに練習、ね?」
「わ、わかった」
「そうそう。ここは穏やかな方だからいいけど、他の荒っぽいところだとナメられたり報酬ケチられたり……あるみたい。荒ぶる必要はないけど、フィルナさんには堂々としててほしいの」
「そうなんだ……がんばる」
「うん、少しずつね。それで、明日のことだけど、私の助手をお願いしたいの」
「助手?」
「このポーション、冒険者の方は各自で買ってもらうんだけど、騎士団の魔法部隊へはこっちで運んで現地で配ることになってるの。それを手伝ってもらおうと思ってるわ」
「わかった。でも、それだけ?」
「フフ、結構大変よ? 最初の一本は全員に取りに来てもらうけど、以降は必要な人にこっちが走って配るの。他にも人はいるけど、魔力が高い人ばっかりじゃないからね」
「それだったら最初から何本か渡しておけば……」
「いらない人は最初の一本で十分だったりするの。このポーションは最高品質みたいだしね。それに自分のステータスを明かすのはリスクもあるからそうすることになってるのよ」
「確かに魔物に集中してたら他の人がポーション飲んでるかなんて気にならないかも」
「でしょ? まぁ、騎士団の上下関係とかどうでもいいんだけど、こういう時くらい安全な方法とらせてくれたらいいのに、とは思うわ。最初から必要な数申告してくれたらどんなに楽か」
「それだけじゃ誰が魔力があるかとかわかんないと思うんだけどなぁ」
「そうでもないわ。私、【算術師】なんだけど、申告されて見てたら誰の魔力がどれくらいかわかっちゃうと思うわ」
「!! そっか、だから戦闘が始まってから渡すんだ」
「さすがに私はわざわざ誰が何発どんな魔法を撃ったかなんて見ないけどね」
「なるほど……。でも、なんで【算術師】なのにギルド職員に?」
商人にだってなれるし、それこそ研究員にだってなれる。【算術師】は貴重な人材だって聞いたことがある。
「ふふ、ヒミツ」
「もしかして……」
「詮索は嫌われるわよ?」
「わかった。聞かない」
「ふふ、ホント素直ね。ありがと」
たぶん、そうなんだろうなぁ。
「よし、なんとか今日中に終わりましたね」
「そうね。助かるわ。これだけあればみんな安心して戦える」
「これくらいしかできませんけど……」
「ホラ、堂々としてて、って言ったでしょ? これは簡単なことじゃないんだから」
「うん! ありがとう!」
「明日はギルドの魔法鞄に移して運ぶから、朝のうちにここに来て。そこからは私と一緒に動いてもらうわ」
「わかった。遅くまで付き合わせてごめんなさい」
「いいのいいの。それじゃ、アレ。お願い」
「うん、『大地の息吹』」
「すごい、ホントに疲れも取れるのね。ありがとう」
初めて効果の出る人に使ったかも。私とかオババに使ってもよくわからなかったんだよね。
「どういたしまして」
「それじゃ、また明日ね。おやすみフィルナさん」
「おやすみ、フィーアさん。また明日」
あれだけ賑わってた街の人たちもいなくなって静かになった王都の街を歩いて宿に戻ったら、お母さんが出迎えてくれた。
「頑張ってるね、フィルナ」
「お母さん! まだ起きてたの?」
「どうせ何も食べてないんだろ? ホラ食え」
「お父さんまで!」
「いいから食べな。明日も行くんだろ?」
「娘が頑張ってるんだ。父さんたちにも応援させてくれ」
「あ、ありがとう」
「大変なことが起こるんだ、無茶するなとは言わないよ。でも無事に帰ってくるんだよ」
「あはは、大丈夫。私は支援だけだから」
「何が起こるかわからんからな。いざという時に帰る場所があると力が出るもんだ。そんなことにならないのが一番いいが」
「うん。ちゃんと帰ってくるよ。ここが私の家だもん」
「フィルナ……」
「しっかり食ってしっかり休め。朝もちゃんと用意しておく」
「うん、ありがと。お父さん」
翌朝、お父さんが作ってくれた朝食を食べて家を出た。
初めて私だけの為に作ってくれた朝食を。
ゆっくり食べられなくてごめんね、お父さん。
お読みいただきありがとうございます。
次回、モンスターパレード。




