第十話 出陣祭 前編
「フィーアさん、あの二人は?」
「状況確認に向かってもらいました。これは事前に決まってたんですよ」
「二人だけで大丈夫なんですか?」
「二人とも実力も折り紙付きの【斥候】なんですよ」
「ええっ!? ラースさんはともかくゴッツさんが!? ……あの見た目で?」
【斥候】ってラースさんみたいに身軽そうな人のイメージだったのに。ゴッツさんって私が見上げるくらいの大男だよ!?
「ふふっ、今じゃゴッツさんもそれを持ちネタにしてますからね。今度言ってみてください」
「いや逆に言いづらいですよ! って、今は? 前は違ったんですか?」
「初心者の頃はそれはもう相当イジられたみたいですよ。それを実力と実績で黙らせたんです」
「へぇ……そうだったんだ……」
あのゴッツさんにもそんな過去があったんだね。
「……っと、ゆっくり話してる場合じゃないですね」
「あ、私、オババに確認したいことがあるので一旦帰りますね」
「はい。明日は出陣祭になると思います。私はここにも来ますのでよければご一緒しましょう」
「はい! 是非!」
「それと……ごめんなさい、あなたお名前は?」
「ぼ、僕はケントだ」
「では、ケントさん。詳しいお話をギルドマスターにも聞かせてもらえますか?」
「わ、わかった」
私がアカツキに聞いた「敬語は使うな」っていうのをこの人も実践しようとしてるんだろうなぁ、ってちょっと懐かしくなった。
私はあんまりそうしてないけどね。特にフィーアさんには。
ケント君が奥に入っていくのとは逆に私は外に出てオババのところに向かった。
「オババ!!」
「どうしたんだい、そんなに慌てて」
「始まるの! モンパレが始まるの!」
「! そうかい。場所はわかってるの?」
「西に出たって言ってた」
「やっぱりね……そうか、西……ね」
「どういうこと?」
「いや、終わってからでいいだろ。それよりあたしに用があったから急いで来たんじゃないのかい?」
「そう! えっと、『調合』を覚えて一緒に『魔法付与』もあって、ええっと……」
「落ち着きな! ゆっくりでいいから、順番に話してごらん」
オババに言われて深呼吸をしてから改めて話した。
オババが何十年もかけて習得できなかった『調合』を私が習得しちゃったんだけど、オババは喜んでくれた。
そして本題の疑問をぶつけてみた。
「それはある意味同じなんだよ。『調合』と『魔法付与』、似てるところを探してみな」
「似てるところ? えーっと……何かと何かを合わせる?」
「正解。モノとモノを掛け合わせるのが『調合』。モノと魔法を掛け合わせるのが『魔法付与』だ。『属性付与』と『魔法剣』の違いはわかるかい?」
「職業からなんとなくだけど、『属性付与』はモノを作る時に付与して、『魔法剣』は出来上がったモノに付与するイメージかな」
「うん、だいたい当たりだね。細かく言うと、『属性付与』は変更が効かない代わりにそのモノが壊れるまで効果が続く。『魔法剣』はだいたい30分ってとこかね。その代わりに状況に合わせて一つのモノで付与する魔法を変えることができるのさ」
「あ、じゃあ、『属性付与』は一度掛けるともう魔力の消費はないんだね」
「そう。それも『属性付与』のメリットだね。で、フィルナの『魔法付与』はその両方の特徴を自由に使えるのさ」
「自由に?」
「簡単に言えば出来上がったモノに後からずっと効果が続く付与を掛けることができたりするってことさ」
「え! すごい!」
「ま、アンタはまだ自然魔法しか使えないけどね」
「あ、そっか。私が付与する魔法を使えないとダメなのか」
一応自然魔法も二つ目の『大海嘯』を覚えたんだけどね。どうもこっちはなんとなく海の近くじゃないとダメそう。何もないところで試してみたけど、何も起こらなかったの。
『大地の息吹』は地面の上にいるから使えたのかも。
他の魔法もⅦまでは習得してるから魔力さえあれば使えるんだけど……。
ちなみに超級に当たるⅦの消費魔力は250。まぁ、まずはⅠからだよね。
あと契約してて覚えてない魔法はレベル65が習得レベル。
普通の限界が65だからだけど、なんか違和感があるよね。今まで10刻みで習得してたのに65って。
「ま、そっちはおいおいでいいさ。スキルの調合を試したいんだろ?」
「そうだった! こっちでちゃんとした品質が出たらギルドでも使おうと思って」
「どうだろうね。あたしはスキルを持ってないし、スキルを持ってる【薬師】の調合も見たことはないんだよ」
「そうなの?」
てっきりオババは知ってると思ったんだけど。
「そうそうスキルは人前で見せるもんじゃないってことさ」
「そういうことかぁ。まぁ、やってみるよ」
手探りで、って久しぶりだなぁ。スキルを使うときに水のままでいいのか、火にかけた方がいいのか、色々試してみた。
「全部"中"だね」
「うーん……何回もやらないとダメなのかなぁ?」
「そういうスキルもあるよ。現状ポーションが足りない時の最後の手段ってとこみたいだね」
中品質でもいいから数を、っていう状況だったらスキルで調合する……うーん、何かいい方法は…………そうだ!
「ちょっと試していい?」
目の前の瓶詰め前の中品質ポーションに手を翳す。
「何する気だい?」
「『魔法付与』『大地の息吹』!」
「は? これは……」
「やった! 最高品質! ……のマナポーション? あれ?」
ポーションに『大地の息吹』を付与したら魔力も回復できるマナポーションになっちゃった。
「はぁ……とんでもないことを思い付く子だよ」
「えへへ。出来ること、少ないからね。それに、オババがスキルのこと知っててくれたからだよ」
「喜んでいいのかねぇ……。まぁ、全ては終わってからだ。あたしはともかくフィルナも前線には出ないだろうけど、絶対にここに戻ってくるんだよ。アンタには話しておきたいことがあるからね」
「話しておきたいこと? 今じゃダメなの?」
「ダメだねぇ。とにかく明日、そのマナポーションを持って行ってそれでいいか聞いておきな。いきなり作る物が変わったら揉めるかもしれないからね。報酬の上積みを言われたら口止め料って言って断るといい」
「わかった。そうする」
私がずっと『調合』を試してる間にゴッツさんたちが戻ってきたらしくて、オババの薬屋を出たときにはもう街中出陣祭の準備に入ってた。
「うわぁ。懐かしい」
その意味を知った今はそんなこと言ってる場合じゃないかもしれない。
だけど、やっぱりこれは大切な思い出。
頭を覆うコボルトの被り物を触らずにはいられなかった。
「おう、コボルトF! 明日もその防具着てろよ! 紛れたらどれがお前かわからなくなっちまう」
剣を持った冒険者さんがこっちに叫んでる。名前も知らないけどギルドではよく見かける人だ。
「ははっ、そうだね。そうするよ」
お祭りの間は色んな人が色んな魔物の被り物をするから確かに私だってわかんなくなるよね。
この"愛"の文字の入った胸当ては私だけだからいい目印になるんだ。
私がわかる必要があるかは微妙だけどね。そうしてほしいと言われるならしない理由もないよ。
自分の部屋に着くと、オババの「話したいこと」がなんなのか気になり出してなかなか寝付けなかった。
そしてようやく眠りに就いてから、いつもより寝過ごして街の喧騒で目を覚ました。
お読みいただきありがとうございます。
フィーアさんが勝手に設定喋り出したので分けました。
喋り足りないらしく後編でも二人の設定を話してくれます。
ただし今回のメインはオババの方です。




