第一話 成人の儀
「フィルナ、貴女の職業は【すっぴん】です」
「えっ……あうっ……」
私、フィルナは20歳の誕生日を迎え、成人の儀を受けたんだけど……私に与えられたのは唯一のハズレ職業でした──。
職業……それは女神エオスから与えられる人の役割。
選ぶことはできず、希望と異なる職業を与えられることも珍しくない。
というか望む職業を得られることの方が珍しい──んだけど、まさか【すっぴん】なんて……。
冒険者になりたいから戦える職業がよかったけど、戦えないならせめて【給仕】だったらお世話になってる宿で本格的に働けたし、【料理人】なら厨房に入ったりできたのに……
それに、儀式の直後から体が重い……立っているのも辛いくらい。これってやっぱり【すっぴん】になったせいだろうなぁ。
「間違いないはずですが、【ステータス】で確認を」
「は、はい。【ステータス】」
神官の女性に促されて【ステータス】と唱えると、目の前に半透明の板みたいなものが現れて私の状態を示す。
そこには 職業:すっぴん レベル1 の文字。やっぱり【すっぴん】だぁ。
そして聞いていた通り、体力・魔力・筋力・瞬発力の全てのステータスが1。
これが【すっぴん】がハズレ職業と言われる理由で今体が重くなってる原因。
立って体を支えるのがやっとの筋力しかないってこと。
あとは……固有スキル『成長速度一定』。
【すっぴん】は5年に一人はいるらしくて先人たちが検証した結果、レベルが上がってもステータスは伸びなかったっていう話だから一定も何もないけど。
ないよね? 実際になってみたらなんの意味もないはずがないって期待しちゃうんだけど……
そのスキルを思わずじっと見つめていると、ステータスの板の手前にもう一枚板が出てきた。
成長速度一定:レベルアップに必要な経験値が常に固定。又、レベルの上限がない。
ふぇっ?! なにこれ! こんなの出るなんて聞いたことないんだけど!
「──ナ! フィルナ! 聞いてますか?」
「は、はいっ! なんでしょう!?」
神官の声に呼び戻された。全然聞いてなくてめちゃくちゃビックリしちゃった。
「……まぁ、仕方がないですよね。これで成人の儀は終わりです」
同情されちゃった……はは。
「はい。ありがとうございました……」
「貴女に女神エオスの祝福があらんことを……──っ!?」
「えっ!? きゃっ!?」
急に目の前……というか、私自身が光った。
光はすぐ収まって、それまであった体の重さが……なくなった?
「ま、まさか【すっぴん】のフィルナに加護が……!」
「え? 加護?」
「フィルナ、貴女なにか体に変化はありませんか?」
「そういえば、光ってから体が軽くなったような……」
「おそらくそれが加護なのでしょう。【すっぴん】は体を動かすのも一苦労と言います。それに体が軽くなっただけではないかもしれません。ステータスには変化はありませんか?」
「ええと……【ステータス】……変わってませんね」
加護についても何も出てこなかったな……。
「そうですか、加護は授けられる人自体が稀です。それに人によって違うとも聞きます。これから自分で色々確認してみると良いでしょう」
「わ、わかりました」
それからどうやって宿に戻ったのか覚えてないの。
気が付いたら私の部屋のベッドの上だったけど……私、どんな顔して女将さんに会ったんだろ……思い詰めたように見えてたらまた心配かけちゃうなぁ。
それにしても【すっぴん】かぁ。これじゃああの人達──Sランクパーティの『夕暮れの空』に追いつくのはかなり大変そうだなぁ……。
あっでも、他の職業でもレベル1からなのは一緒だもんね。
ちょっと最初のレベル上げが大変なだけ……なはず。
経験値っていうのはどれだけ得てて、次のレベルまでどれだけ必要かは目に見えないけど、既にだいたい数値化されてる。普通の職業だとレベル2になるのに10必要だけど、【すっぴん】だけは100らしい。
でも、今日見たアレが本当なら、普通レベルが上がるごとに経験値はたくさん必要になっていくのが、私はずっと100ってことだよね。
まぁ、このステータスで経験値を得るのがまず大変なんだけど。レベル2じゃ上がらなかったかもしれないけど、いっぱいレベルを上げたら少しくらい……ステータスも上がるよね?
そういえばあれってなんで見えたんだろう……?
「【ステータス】!」
たしか、固有スキルをじっと見てたら飛び出てきたよね。
あれ? 出てこない。なんで?
もしかして成人の儀をして最初の一回だけ?
普通は儀式を受けたら職業を貰ったのを確認してすぐ閉じちゃうからもう見れない、とか?
だとしたらすごい発見だと思うんだけど……一応言ってみようかな。【すっぴん】の言うことなんて信じてくれないかもしれないけど……ね。
それより、これから少しずつでもレベルを上げていけるようにしなきゃ。
『夕暮れの空』のリーダーの暁も「千里の道も一歩から」って言ってたもん。あの人の故郷の言葉なんだって。
それに「試練に一歩を踏み出せるのが冒険者だ。大丈夫、試練ってのは乗り越えられねぇ奴には来ねえ」って言ってたし、私、頑張るよ!
よーし、明日さっそく冒険者登録しにギルドに行こう!
あ、その前に髪切ってもらおっと。魔法系の職業だったら長いままでいいかなーって思ってたけど、【すっぴん】だし体動かすしかないから邪魔になっちゃうよね。
赤い髪は珍しくないから色はそのままで……っていうか……忘れてた……! このニキビだらけの顔……隠したいなぁ。
【すっぴん】っていうことは隠しようがないから何か言われるのは我慢するにしても、顔のこと言われるのは正直キツイ。私だって女だもん。
まだ恥ずかしい格好のほうがマシ……って、そうだ! アレがあった!
お読みいただきありがとうございます。
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