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第7話 妹は、戦闘機の如く、戦場を旋回する

ネテミです(^^♪

楽しんでいって下さい!

檜とは、別れて俺と先輩は自宅に帰ってきた。

玄関のチャイムを鳴らすと、俺の母親が扉を開けた。


「ただいま」

「おかえり、あんた遅くなるなら連絡くらい、入れときな?」

「わりぃ、ちょっと読んで字のごとく夢中になってて気づかなかった」

「何わけ分かんないこと言ってんの?

ご飯できてるから、手洗ってきな」

「へいへい」


俺は、靴を脱ぎ一度2階の自室に、戻りカバンと制服の上着をハンガーにかけた。

先輩は、もちろん俺の後ろにピッタリと浮かんでいる。―――家族でも、やっぱり俺しか見えないらしい。


「らっくん、ご飯は私の分も後で持ってきてくれないか?奇しくも、葵のおかげで食べれる事がわかったしな」

「分かりましたよ。後で、こっそり持ってきます」

「頼んだぞ!あまり、遅いとらっくんを頂いてしまうからな?」

「夢に出そうなので辞めていただきたい」


―――そこへ。


「お兄ちゃん今帰ったの?

部活もしてないのに、珍しいね‥なに彼女出来たの!」


妹の茉莉まつりが、訝しげに眺めて来たと思ったら、突飛な妄想を膨らませていた。


「そんなわけ無いだろ、葵の家に行ってたんだよ。そしたら‥‥まあ、色々あってな」

「え、かなり怪しいんだけど。

葵ちゃんと何かあったんじゃないの?」

「‥‥お前が想像している事にはなってないから安心しろ。‥‥多分、今頃葵は大変な事になってるだろうけどな」

「それってどういうことなん?」

「いいから、さっさと飯だ飯」


背後から―――ごまかさないでよ、と聞こえる声を無視して、俺は食卓を目指した。


✱✱✱


食卓に着くとすでに、親父が椅子に座っていた。目の前の灰皿には、吸い殻が2本分転がっている。

その、2本目は1本目に比べてすぐに消したようだった。

親父は、俺らの目の前じゃ吸わないんだよな。

茉莉は、母の手伝いに台所へ向かったようだ。


「楽、何そんな所でボサっとしてるんだ?さっさと座れ」

「あ、ああ」


俺は、いそいそと自分の席に座る。

「らっくん、どうしたんだ?なんかぎこちなくないか」


俺は、先輩の言葉をあえて聞かなかったことにした。―――まあ、嫌いというわけではないが、少し苦手なんだよな。


俺と親父とは、独特な距離感みたいなのがあった。それは、とても微妙な距離感で、説明がしづらい。

例えば、普通に高笑いをすることもあるし、世間話をすることもある。だが、ふと押し黙るような時間がどこかで訪れる。だから、気楽に話す関係とはちょっと違った。

―――二人きりになると何故か緊張するんだよなぁ‥。


そう、気軽に話せるのは第三者が間にいた時なのだ。何かの緩衝材が、俺と親父には必要なんだと思う。


だから、こんなふうに不意に二人きりになったりすると、何を話していいか分からなくなる。

向こうも、同じかもしれないが大抵―――こういう時に最初に話かけるのは親父だった。


「茉莉が心配してたぞ楽。遅くなるなら、連絡くらいいれろ」

「分かってるって、今度からそうする」

「なら、いい」


こんな感じなんだよな。

すると、助け舟が料理を伴って到着した。

今晩は、カレーみたいだ。


「サラダもあるから、ちゃんと野菜も食べなさいよ」

「分かってる、分かってる〜」

茉莉は、言いながらカレーに唐揚げを乗せて美味しそうに頬張っていた。

「そんなこと言って、茉莉がサラダを食べてんの、見たことねえよ」

「お父さん私は学校だと、食べてるの」

「茉莉、あんたそれ言い訳になってないからね」


一家団欒だった。親父は、カレーに醤油と生卵を落して、混ぜながら食べていた。俺も、親父がそういうふうに食べるのを見て、いつしか同じ様に食べ始めたんだよな。

まあ、母さんは嫌いな食べ方みたいだけど。


俺は、親父と同じ様に醤油と生卵を落してカレーを食べた。


「え、めっちゃ美味いんだけど!」

俺は、意図せず感動に包まれた。―――もしかしなくても、葵の影響である。


「今まで食ったカレーの中で最高のカレーだわ!‥‥何故か涙がでてくる」

普段しない、大仰なリアクションに母は、呆れているようだ。

後ろでは、先輩だけがしみじみと頷いていた。


「大げさだね、楽。そんなこと言っても何も出ないよ」

「楽、なんか変なもんでも食ったか?‥‥おい早苗、何を盛ったんだ?」

「何も盛ってないよ!黙ってくいなあッ!!」

俺の発言を肴にいつもの、夫婦漫才が展開される。俺も多少照れくさいので、ノリを合わせてやり過ごすことにした。


―――話が落ち着いた所で、はたと先輩が置いてけぼりになっている事に気がつく。

身内ネタで、盛り上がって先輩は退屈だろうなと、後ろをさり気なく振り返ると―――そこには、優しい顔で笑う先輩の姿があった。そして、何処か遠くを見ているような、そんな瞳を向けている。

先輩?


俺が、先輩に話しかけようとした時。

このタイミングで妹がセンシティブな話を突っ込んできた。

「お兄ちゃん、今日葵ちゃん家で大変なことしてきたんだって」

‥‥ん?何を、言っているんだマイシスター?


なんで、こいつそうゆう家族にするか微妙な話を遠慮なく投下するかな。

「楽、あんた妹になんて話聞かせてんのよ」

「葵‥‥ああ、あのおっぱい小さい女の子か?」

「茉莉!違うから、別にやましい事じゃないし、俺がしたんじゃないから、どちらかと言うと葵がしたというか‥‥」


「え、葵ちゃん結構大胆なんだ」

「楽えっちするなら、女の子に恥かかせんじゃないよ」

「おっぱいは、小せえけど度胸はあんだなあのお嬢ちゃん」

「あと、あんたはおっぱいから離れなさいよエロジジイ!」


基本的には、人の話を最後まで聞かない集団なので、しばかれている親父と怒気を滲ます母は一旦スルーして茉莉の誤解だけでも解いておくことにしよう。


「おい、お前のせいでこうなったんだからどうするつもりだ?

あと、俺も葵も何もしてねえよ!また、葵が無茶苦茶やって、俺らが被害にあって、仁夏さんに制裁されただけだ」

「ああ、なるほどね。納得納得!」


妹も、葵の性格というか傾向を把握しているのでこれだけのやり取りで―――ああ、いつもの奴ね、と勝手に了解してくれる。


こういう、多くを語らずとも何となく察してくれるのは家族だと思う。しかし、それが出来るならさっさとその家族性を発揮して欲しい。

ほら、親父が首絞められてるじゃん‥。


「らっくん、止めなくていいのか?お父さん白目向いてないか⁉」

先輩は、珍しくあたふたと不安そうにたじろいでいた。


(そうか、先輩の親御さんって結構きっちりした、真面目な人なんだっけ。以前授業参観の折に噂で聞いたことがあった‥‥。だったら、このカオスな家族模様は新鮮なものに映るかもしれない)


「先輩、いいんですよこれで」

「‥でも」

「いいんですよ。家はいつもこんなですから、そのうち収まります。それより、今の内に唐揚げを確保しとかないと茉莉が全部食べてしまう。そっちの方が、大問題です!」


俺は、既に半分に減った唐揚げの山から3、4個大きい奴を選びすかさず自分の領土カレーに埋葬した。

これで、最低限の物資は確保した。


茉莉は、器用に溶けかけた人参とじゃが芋を親父の領土カレーに、ステルス投下していた。

お前、そこまで嫌いなのか?


先輩は、尚も心配そうに見ていたが、やがて事態は予定調和に収まっていった。


「もういい加減にしろ!余計腹減ったわ!

俺は、カレーを食う」

「それは、こっちのセリフよエロジジイ!文句言ってないでさっさと食いな!」

「ッたく、サラダのドレッシングとってくれ」

「はいよ、次から自分で取りなさいよ。あんた達も、お代わりあるからしっかり食べなさい」


かくして、事態は収まり平穏な食卓へと流転した。

俺は、先輩の方をちらっと見て、でしょ?と小さく口元を動かす。


先輩は、呆けたような表情を浮かべたかと思うと、諦めたような複雑な様子で、そうみたいだな、と小さく口を動かした。


だが、妹が仕掛けた爆薬はこれだけでは無かった。

親父が、明らかに増えた自分の領土カレーを指差しながら、母に具材のバランス悪すぎるだろうがと、苦情を言い出したことで―――再燃した。


子供ガキか、あんたは!黙ってくいな!」

「てめえ、それが大黒柱にいう言葉かよ!」

「上等じゃない、誰がその細い柱支えてやってるか思い出させてやるわ!」


そっから先は取っ組みあいだった。

妹は、帰還兵が如く実に俊敏な一切無駄の無い挙動で、食器を片付け自室へと引き返していく。

実に鮮やかな、お手並みである。


俺は、ないとは思うが万が一、歯止めが効かなくなったときのために、いわばレフェリーのように、見守る事しか出来ない。


先輩は再び涙目で、オロオロしながら「らっぐぅーんッ⁉」と、困り顔だ。

俺は、盛大なため息をつきながら

―――もし、先輩の家みたいな上品な家庭に生まれ育ったら、もう少し平穏な日々を送れてたんだろうなと、先輩を少し羨ましく思った。


だけど、家は家でまあ、良いところもきっとあるだろう。

そう思うことにした。例えば、どんなに怒っても次の日には、仲直りしてるとかね。


「先輩、行きますよ。付き合ってられません」

「え、でも」

「大丈夫です。経験上、もうそろそろ落ち着きます。倦怠期に、カップルがわざと喧嘩して愛情を深め合うようなやつですから」

「そうなのか?‥なんだか、深まるのはお互いの溝だけのように見えるのだが?

まあ、らっくんが言うならそうなのだろう。あ、らっくん私のカレーも持っていってくれ!唐揚げマシマシだ!」

「了解」


俺は、自分の食器を洗ってステンレスの水切りカゴに立て掛け、棚から新しい食器を取り出した。

先輩の分をよそると、足早に自室へと退散していくのだった。


✱✱✱


余程、お腹が減っていたのだろう。先輩は、カレーを残さず完食した。

満足そうな横顔に、俺も嬉しくなる。霊的な繋がりがあるせいか、感情も影響しあってるのかもしれないな。


そして、お互いの腹もこなれた頃に俺は切り出した。――――今後についてを。


「率直なところを聞きます。先輩は、どうしたいんですか?」

先輩は、少しつまった表情を浮かべるが、すぐに何でもないように言った。


「‥だから、らっくんが享楽に生きることだよ。それが、私の願いだ。らっくんには、もっと我慢しないで自分らしく生きて欲しい。私ができなかった分まで」

「俺は、確かにクラスだと大人しいキャラだし、素になれんのは、檜達か先輩の前だけかもしれません。でも、それでいいんじゃないかと思うんですよ」


そうだ、確かに先輩の言うとおり仮面をかぶる事は日常的にある。

だけど、それをしない人なんていないんじゃないか?―――それを、せずに生きることなんて多分難しい事だと思う。


しかし、先輩は静かに首を振る。


「そうじゃないよ。何も、四方八方に奇天烈、鮮烈に生きて欲しいわけじゃないさ。―――ただ、本当に大事な人の前だけでも、怖がらないでほしいの。誰だか、分かるでしょ?」

「うぅッ⁉」


俺は、以前先輩の前で漏らした愚痴を後悔した。部活の終わり際、不意に親父の事を話してしまったことがあるのだ。


―――そんな事、いちいち覚えてたのかよ。もっと大事な事があるんじゃないのか?―――

かくて、俺の予想は当たるのだが、予想だにしない角度で解答がもたらされた。

「もちろん、それだけじゃないんだ。

‥‥私も、伝えられなかった人がいるんだ」

先輩は、そこで言葉を切り、一瞬の迷いの後に言葉を紡いだ。


「お母さんに、本当の私を伝えたい!!」


―――それは、先輩が初めて見せた、真剣な想いだった―――

ネテミでした(^^♪

お疲れ様です!

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