第4話 スナイパー葵は、次々と撃ち抜いていく
幼馴染の掛け合いは、不思議と筆が乗るんですよね〜
まあ、そんな感じで疾走感抜群で書き殴りました
楽しんでいって下さい!
ネテミ(^^♪
「なるほど。つまり、君には高城さんが実際に見えていて、彼女が君に託した願いを叶えるまで憑いていると言ったんだね?」
「信じられん事が一周回って、もう何でもありだな」
「でも、ロマンチックだね!じゃあ私達の声も、聞こえてるって事だよね?」
予想していたよりも、みんなには信じてもらえたようだった。
おそらく、おじさんの言葉や俺の今までのおかしな独り言のせいで、説得力がましたのだろう。
あまり、嬉しくない原因ではあるが‥‥。
「そうなんですよ。先輩は、俺に享楽に生きて欲しいみたいで、今も、横の座布団の上に浮かんでます。
後、会話もちゃんと聞こえてるみたいです」
―――まじかよ
檜の呻くような声が、お堂に静かに溶け込んでいく。おじさんも判断に困っているようだった。
それはそうだろう。檜はこういう話苦手だし、おじさんに至っては良く知らない女生徒の霊が娘の前に存在しているのだから。あまり、いい状況ではないだろう。そして、葵は――――
ふうおぉぉぉ!と、およそ思春期の女子が上げるべきではない、歓喜の声を上げて前のめりになっていた。
まあ、それでこそ葵だわな。
「じゃあ私、幽霊さんとお話したい!私幽霊さんとお話するのが夢だったんだ!
聞いてみたいリストが確かスマホに‥‥」
葵はスマホを取り出して、座布団の前に移動しメモ帳のアプリを開き始めた。
これには、流石の先輩もあ然とした様子で、面食らっている。
うーん、こういう展開も新鮮だな。俺は、久しぶりの対岸の火事なので、ゆったりくつろいで、事の趨勢を見守る。
先輩からの、らっくんの幼馴染だろ?何とかしろ!と言う、恨めしい視線はオールスルーの方向で。
――――私は何も知らない。
程なくして、目当てのフォルダが出て来たらしい。葵は長年溜め込んでいた好奇心を遠慮なくぶちまけ始める。
「えーと、初めまして津久田葵って言います、宜しくお願いします。
えーと、まず最初の質問なんですけど食べ物って、楽君の精気だけなんですか?」
確かに、俺もその質問には興味があった。それが分かればなにも俺から精気を吸い取る必要はなくなるのだ。
葵はコミュニケーションを円滑にするために、薄いタブレットを先輩の眼の前に差し出した。指でなぞれば字が書けるようで簡単な意思疎通が可能だった。
ーーーー先輩は、おずおずとタブレットに指を滑らし始めた。最初は幽霊の指で、機械が認識するか不安だったが、どうやら心配無用のようだった。
『分からない、でもらっくんのはおいしいぞ』
「凄い!私幽霊とお話出来たよぅ!そうなんだ、ちなみに、どんな味なのかな?」
「おい、葵変なこと先輩に聞くなよ。困らせちゃうだろ」
「えー、でも気になるんだもん!」
すると、先輩は遠慮がちに指を滑らせた。
『少し苦いわよ♪』
ほら!悪ふざけしだしたよこの人!
おじさん含めて男性陣が、なんとも言えない顔でうつむいてしまったじゃないか。もちろん、葵だけは鼻息荒くスマホのメモ帳に熱心に記帳している。こんな、情報がいつどこで役に立つというのか?
葵はテンションをあげながら、なにやらごそごそとタッパーのようなものを取り出した。
「なるほど、苦い味が好きなのね!アメリカのオカルト雑誌で似たような事が書いてあったのよ
とても興味深いわ!ちょうど、その検証をしたくて私料理してきたのよぅ」
葵は、先ほど出したタッパーを先輩の前におもむろに置いた。
「おーぉぉ!らっくん、誰かの手料理を食べるのは家族以外では初めてだぞ。これは、考えを改める必要があるな。君の幼馴染はとても良い娘だ」
先輩はこの場に、ようやく慣れてきたようで、素直に上機嫌になっていた。やはり、食事って幽霊になっても楽しみだよな。
「良かったですね先輩、葵は普段から料理しているから、絶対うまいですよ。俺も少し食いたいくらいです」
「もー楽!おだてても何も出ないわよ。それに、これは幽霊さんのために作ったんだから、楽は食べちゃダメだよ!」
「なー葵、俺も駄目か?腹減ってきちまってよ」
「お父さんも、一口貰いたいなぁ」
日も暮れかけているため、いい時間になっていた。皆飯は食べておらず自然と食べ物に群がり始めた。
先輩は、群れた野獣から我が子を守るライオンのようにタッパーに覆いかぶさり威嚇し始める。
「いかん、いかんぞ!これは、もう私の物だ!全部私が食べちゃうから!」
ーーーズズッズ。タッパーが小さく動く。
「あれ、なんか動いてる?」
「こわ!マジでいるじゃん!大丈夫か、うるさくしてたから怒らしたんじゃ」
「いや、どうやら葵の料理が嬉しいらしいぞ」
「本当に!めっちゃ嬉しいい!このために、私一生懸命仕込みしてがんばったんだ♪」
葵…(ジーン)。先輩は感無量という表情で、待ちきれないのか、かぱかぱとタッパのふたを開けようとしていた。
そんな、すがたが俺も微笑ましかったが助け舟を出すことにした。
「葵、先輩が待ちきれないってよ。開けられないみたいだから、お前が開けてやれよ」
葵は、パアーッ!と花が開いたように笑った。
よほど、楽しみにしてしたんだろう。あの時準備があるといっていたのは、このためだったと思い至った時俺も檜までもがそろってほがらかな苦笑を浮かべる。
良かったですね先輩。俺だけじゃなくて他の奴ともうまくやれそうで。先輩が裏表なく付き合える仲間ができて。
「幽霊さん受け取ってください!どうぞぅ!!」
緊張のために少し裏返ってしまうが、そんなところも一生懸命な女の子なのだ。
先輩は、目を輝かせて中を覗き込む。
そして、その顔が次の瞬間には剥製のマンモス像の如く凍りついた。俺たちも余りのショックに目を疑ったが、それは現実だった。
未だに、目を輝かせ続ける葵のタッパの中には―――ジャンルで言えば煮物が入っていた。しかし、その具が問題だった。
「何なのだ、これは‥私の、ご飯は?」
震える声と眼差しで、俺を見てくる先輩。
俺も認めたくないが、おそらくこれですと―――うなずく事しか出来ない。
そう、タッパの中にはよーく煮込まれたバッタやセミなどの割とでかめの昆虫類がまるごと詰め込まれていた。
トマト煮込みらしく、おそらく最初は赤い色だったろう。
しかし、彼らから、だしが出たのか、最終的には茶色に濁り、酸味と裏の畑のような香りがした。
「‥‥‥無理だ。これは、無理だ!いくらなんでも、ビジュアル的に厳しすぎる!
美少女は虫など食わない!!」
いやいやと、子供のように嫌がる。
そうだな、俺だって同じ立場ならそう思うだろうさ。しかし、待てよと―――これで食糧問題、ひいては俺の身の安全を守れるのであれば検討の余地があるのではないかと。
流石に、普段料理している葵がまずいものを作る訳がないのではないか。きっと、奇跡的に美味しく調理しているに違いない。
「葵?これは、流石に幽霊さんも驚いているみたいだが、見た目はあれでも美味しいんだよな?」
すると、葵は何を言っているんだこいつは、という顔で返した。
「え、こんなの味見出来るわけ無いじゃない?触りたくも無いからそのまま水没させて煮込んだんだもん。でも、オカルト雑誌で読んだ、幽霊の好物しか入れてないから、幽霊さんにはおいしく感じるはずだよぅ!」
おぅふ。
味見はしておりません頂きましたー!
まだ、出来立てらしく湯気が立ち上がり心なしかコオロギらしき足が怨嗟が如くピクピク動く―――控えめに言って魔界の食べ物だった。
先輩はそれを、呆然と見つめていた。余程、楽しみにしてたのだろうな、この人も‥‥。
「先輩」
「らっくん‥(涙目)」
「食べましょう?」
「らっくん!(驚愕)」
「食べ物を粗末にするのはよくありません。せっかく葵が作ってくれたんですよ。それに、万が一食べられる可能性も存在します。シュレディンガーの煮物です」
檜もおじさんも、先輩の声は聞こえなくてもどういう反応かは分かるようだった。
当然だ、分からないのはこの場には葵しかいないのだから。
「そうだな、食べてみないと分からないっすよ。高城先輩、ファイトっす!」
「家の娘は、料理上手な事は私が保証しよう。だから、安心して食べるといい、安全面では心配いらないだろう」
わー凄い、誰も味に関してのコメントを残さないや。誰もがこの絶望料理をこれ以上見たくないという、一心でこぞって先輩におしつけていた。ごめんなさい先輩。
先輩は、神も仏もないと言われた信者が如く、絶望的な表情で、それとは正反対の、好奇心に満ちた表情の葵からお箸を渡された。その手は、震えていた‥‥。
次の瞬間。
「らっくん」
先輩は、笑っていた。
「どうしたんですか、ついにこわれたん‥!?」
言葉は最後まで続かない。
なんか、先輩のこめかみに、よく漫画でついてる怒りマークが浮かびあがってる。
「それに、タブレットに何か書いて‥‥」
そこには、まさに怨霊が如く筆致でこう書かれていた。
『らっくんと、かい君と、おじさんが食べたら、食べてもいいよ』
死刑宣告だった。
「おいー!ふざけんな、勝手に俺たちを巻き込まないでください!犠牲は一人で十分だから!」
「そうだぜ!俺はマジで関係ねえから、おじさん!あれあんたの娘だろ、責任持って手料理頂けよ!」
「違う!今だけは娘じゃない。そもそも、君たちとつるむようになってから、おかしくなっていったんだ。友達として責任取りなさい!」
「ふははは、醜く争いなさい!堕ちるときはみんな道連れよう!」
阿鼻叫喚だ。皆が、煮物と言う名の責任を押し付けあっている。
そして、そんな喧騒のさなか静かに笑っている女の子がいた。
「みんな、そんな私の料理を罰ゲームみたいに‥‥酷いよ。お父さんまで」
「葵‥。そうだな、済まないことをした、けどな‥これはどうにも」
「お父さん、食べて?」
「いや、これ食べ物じゃ‥」
「食べて?」
お父さん頑張れ、父の威厳を見せて下さい。このままじゃ俺達も殺られる。
すると、おじさんは老獪な威厳を漂わせながら。
「いい加減にしなさい葵!無理を言ってはいけないよ。これは、命の無駄遣いだ。神職の娘がしていいことではない。そんな、娘に育てた覚えはありません」
ピシャリと、父親らしく言い放った。
いいぞ、お父さん久しぶりにかっこいいっす。
しかし‥‥
「食べてくれなかったら、この巫女服に修正液垂らして、お母さんに泣きついてくるから」
「い・た・だ・き・ま・す」
食べた!この人食べたよ!
娘からの殺し文句 (リアル)にたまらずバッタを頬張ったよ!
―――次の瞬間、お父さんは白目を向いて卒倒した。何とか飲み込めたようで口から何も出てこなかったが。
飲み込んだとき、んぅえッ!という嗚咽を、俺は聞き逃さなかった。
本格的な殺人料理だと言うことが、人体実験の結果実証されてしまった。
―――戦慄を走らせる我々の未来は決まっていた。もちろん、次の犠牲者も‥‥‥。
「次は、檜君だね?」
檜は、あまりの理不尽さに、ついにブチ切れていた。
「次はじゃねえよ葵!おじさんの最期を見てなかったのかよ!―――それは、洒落になんねえ。いくら葵でも、本気で怒るぞ!」
「‥‥檜君、昔実は私のお母さんの事好きだったでしょ?」
「あ、葵!それ今持ち出すか!」
「お前‥‥」
俺は、親友の知りたくなかった恋バナを直撃し、気が遠くなる思いだった。友達の母親ってお前。
「なんか興奮するわね!」
先輩は、鼻を大きくして興味深く話に聞き入っていた。
「それに、昔の話だ。だから、そんな事では俺は食わんぞ!」
多少面食らったが、確かに今となっては可愛い昔話だ。死地に飛び込む程ではない。―――しかし、葵の目は口ほどに物を語っていた‥‥本当に、そうかなと。
「あれは、檜君が中学生の時だったかな、檜君私の家に遊びに来ているとき。私がトイレにいっているスキに、こっそりお母さんの部屋で、タンスから‥‥」
「頂きましたぁー!!」
「食ったー⁉一目散に食った!!しかも、一番味がしみてそうなやついきやがった」
檜は、おじさんと同じ末路をたどった。
しかも、おじさんと違って恥ずかしい過去を晒された上で逝った。
可哀想すぎるだろそれは!
「後、一人だね?」
「え?」
俺には、葵が殺し屋か暗殺者に見えるよ。何?せっかく幼馴染の家に来てるんだぜ、ラブコメしてればいいじゃねえか!なんで、急にサスペンス⁉
――――だが、待てよ。
楠木 楽よ。お前に、後ろめたい過去などあるのか?そう、ないだろう。
ならば、この手作り兵器を食べる必要はないはずだ。
「ふははは、葵。残念だが、おじさんや檜と同じ手は、俺には通用しないぞ。俺には、後ろめたいことなんて一つもないからな!」
「本当に?‥‥今のうちに食べちゃった方が身のためだよ?」
「本当に身のためを思うなら、こんな兵器を作るな、持ち込むな、使用するな!」
俺は、強気の姿勢に打って出た。葵の発言はブラフだ。ここは、乗ってはいけない!俺はあいつ等の死を越えて、無事に家に帰るんだから‼
「後悔しても知らないよ。‥‥えーと、楽のパソコンの新しいフォルダ18は☓☓☓プレイ専門フォルダになっていて、一番新しいのが、新しいフォルダ25で○○○姦モノが最近の楽のブームで‥‥」
「美味しく食べさせて頂きます葵様!!」
俺は、最早箸も使わずに手掴みで、熱々の煮物を口の中に頬張った。だから、頼むから俺の性癖をそれ以上暴露しないでくれ(泣)
―――そして、時が止まった。喉の奥に謎の昆虫を嚥下した後のことだった。
「らっくん?‥‥大丈夫なのか?大丈夫だと言ってくれ!!」
先輩の声が聞こえる。
泣き笑いのように、顔をくしゃくしゃにして、震える可愛らしい細指を、俺の方に伸ばしている。
――――しかし、その手に答えることは出来そうに無かった。
俺は、壮絶な胃の拒否反応による痙攣と、気を抜けば一気に手放しそうになる意識と格闘していた。
だが、もうためだ。
「先輩‥‥後は頼みます‥‥。決して噛まずに飲み込んで下さいね‥すぅー‥」
「らっぐぅーん‼」
先輩の泣き声を最後に、俺は眠るように逝った。
そして、最後はもちろん‥‥‥。
お疲れ様です(^^♪
ネテミ




