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第3話 語尾に♪をつけるキャラはろくな事をしない

あれから逃げるように学校を立ち去り制服のまま葵家に向かう事にした。

まさか、あんなに怒られるとは思っていなかったから人見知りと合わせて、心身に多大なダメージを負っていた。


「余計なこと、言わなきゃよかった。凹むわ〜」

「そうか?らっくんは、正しい事を言っただけではないか。私はそれで良いと思う。これも、享楽だ!」

先輩は、嬉しそうに肯定してくれた。だが、彼女を傷つけたのも事実だった。それも先輩の友達を。その事を、先輩に告げると。


「それは、彼女自身の問題だよ。そして、彼女自身が乗り越えるべき問題だ。らっくんが影響出来る事じゃない。別に、彼女の泣き顔に性的な興奮を覚える訳ではないだろう?」

「当たり前じゃないですか!興奮どころか、胃が痛いですよ。え、ていうか泣いてたんですか?」

先輩は。その件にあえて触れず先を話した。あ~、ぽんぽん痛い。

「だったら、らっくんのせいじゃないよ。どちらかと言うと私のせいだ。勝手に死んじゃった私のせい」

「そんな事ないですよ!絶対それは違いますって」

死人のせいにして、すべて丸く納めるとか、思考停止すぎるだろ。 

もしかして自分が重く受け止め過ぎなのかもしれないが、先輩は当事者の癖に楽観的だった。

「らっくん。そんなに私の事を想ってくれるなんて、愛はおっぱいよりも強しだな‼ほら、急がないと日が暮れるぞ」


―――いつの間にか目の前に現れて先を急かしてくる。

こういう、明るさが幽霊であることを忘れさせる。

そして、過ぎた事を気にしてもしょうがないと思わせてくれた。


「―――そうっすね。今は、取り敢えず目先の事を何とかしましょう。先輩と俺が今どういう状態なのか、専門家に聞いてみないと」

「それもそうだな。私の食糧問題も解決しないと、いつまでもらっくんから吸い取ってたら危ないからな」

―――一応、気にしていたらしい。

夕日が陰りゆくなか、葵の家路を急ぐ一人と浮遊物。

つかず離れず進んでいく―――


✱✱✱



葵家に到着したのは、どうやら俺達が最後だったようだ。

インターホンを鳴らすと、葵のお母さんが出て、檜は先に葵の部屋でお茶を飲んでいる事を聞いた。

葵のお母さんは、これから夕飯の買い出しに出るようで、ちょうどいいタイミングだったようだ。

俺は制服のままだったが、構わないと言うことなので、玄関の鍵を閉めてから、葵の部屋に向かった。


「よーう、楽。遅かったな」

「すまん、ちょっとな。それより、葵はどうしたんだ?」

「もうすぐ来るってよ。父さん連れてくるって」

葵の部屋はさんざん来ているから、女の子の部屋といえど、今更特別な感想は抱かなかった。むしろ、先輩の方が衝撃を受けているようだった。


「な、んだ、これは…」

―――戦慄していた。

可愛らしい本棚には、オカルト系の雑誌、霊能力関係の書籍、グッズ、ベッドには謎のスライムのようなぬいぐるみが蔓延っていた。

そう一言で言ってしまえば、怪しい部屋だった。


「らっくん、これはやばいぞ。今すぐ帰ろう!本気でやばいよ!思春期の女子の部屋じゃない‼」

「俺達はもうなれてますから」

「感覚が壊れてる⁉」

「ちなみに、お母さんの部屋はもっと凄いですよ………見ます?」


ヒィッ‼

先輩は、短い悲鳴を上げて俺の背中にしがみつき、借りてきた猫のように震えている。新鮮な反応で胸がすく思いだったが、あまりやりすぎると、後が怖いのでそのへんにしておく。


先輩をなだめたり、檜と談笑して時間を潰しているとドアがノックされ葵と、葵の父親が入ってきた。

しかし―――何故か葵は巫女服を着用している。俺も檜も反応に困るんだが。


娘の奇行は俺達よりも慣れているのだろう、父親が丁寧に補足した―――。

「檜君、楽君久しぶりだね。娘は、もしも除霊する事になった時に自分も手伝うと言って聞かなくてね。神聖な服に着替えてもらったんだよ」

「なるほど」

「葵除霊なんて出来たのか?」

「やったことないけど、大丈夫よ!私才能あるっぽいから」

凄い不安な事を言っている。

それに、お前巫女服なんて持ってたのか?

葵に確認すると…。

「私のはちょうどクリーニングに出していて、お母さんに借りたのよ」

「なるほどな」

「お父さんが汚しちゃったかもしれないって言ってたけど」

「それ本当に神聖なのか⁉お母さんの私物じゃね?」

いろんな角度からのツッコミしかない。

葵の発言に、お父さんは天を仰ぐ。

―――確かに、ここまでされたら何も言えんわな!

流石に見てられないので、スルーして早速離れのお堂へと案内してもらった。


✱✱✱


離れのお堂は、実に静謐な空間だった。自然の光しか存在しないため、備え付けのロウソクに灯した明かりだけが光源になっている。

実は、ここに来るのは初めてではない。

昔は、よくここで怪談話をしたものだった。


意外と檜がその手の話が苦手で、葵が神社特有のホラー話を繰り広げ、俺がネットで拾ってきた怖い話を披露し檜を恐怖のどん底に叩き落としたものだ。


しかし、ある日ゲストで葵のお母さんを呼んで百物語をしたことがあった。

最初は楽しんでいた俺達だったが、本職のお母さんの話が怖すぎて、俺は体中から変な汗を垂らしまくり、葵はやめてくれとガチ泣きしながら母親に縋り付き、檜は泡を吹いて倒れる事態に発展するのだった。

それでも、お母さんは話をやめずほとんど一人で百物語を完結させた。

俺と葵は、レイプ目でお堂に転がり、檜は夢の中であった。

―――こうして、その日以降二度と俺達はこの場所に集まらなくなったのだ。


そんな、絶望的なトラウマを抱えた場所だったが、比較的温和な父親が相手ということで、なんとか平常心でいられた。


葵のお父さんは万が一悪霊だった場合の事を考えて、数珠や御札を手元に置き、万全の体制を整えている。

俺達は、用意された座布団の上に名名座り、話を聞く姿勢だ。

心なしか、先輩もいつもより居住まいを正して、座布団の上で浮遊していた。


「それじゃあ、早速始めるかな。不安がる必要はないから、出来るだけリラックスしてね」

お父さんは人の良さそうな顔で、気遣ってくれた。

―――よろしくお願いしますと、頭を下げる。

「‥‥うーん。葵から、聞いただけでは詳しいことは分からなかったが確かに何か憑いているね」

手をかざしながら、先輩の座っている(浮いている)座布団の上を見つめながら、呟く。

「そうでしょお父さん、私が言ったとおりだったでしょ」

「まじか!半分冗談かと思ってた」

「えーと、なんか俺吸われてるっぽいんですけど大丈夫なんでしょうか?」


葵のお父さんは、少し難しい顔をすると、厳かに答えた。

「今すぐ、問題はないだろう。それに、悪霊というわけでも無さそうだ。

もしそうなら、君の精気を遠慮なく奪い尽くそうとするだろうからね。だが、必要な分だけとっているだけのようだ」


「へーそんな器用なこと、霊って出来るんだね」

「確かにな、聞いてる感じ守護霊っぽいよな?」

「私も、そう思うのだが、それにしてはあまり正のオーラを感じないんだよ」

おじさんは、不思議そうに、呟いた。

まあ、見えてる俺も確かに先輩から神聖なものは甚だ感じなかったが。

―――もちろん、守護霊なんて大層なもんじゃないだろう。守護霊が、呪ったり祟ったりするものか。


「何を言うか。私は、らっくんをかなり守っている所があるぞ!私がいるおかげで、害獣は近寄らないし、話し相手には困らないから寂しくないぞ!ドヤァ!?」

「先輩、一定期間毎にふざけないといけない、霊的な縛りがあるんですかあなたは。今の所目立った恩恵はゼロですよ!」

「えぇ!」

ガアーン、と低い音がなったかと思うほどに、先輩のテンションが落ちていく。

それくらいが、ちょうどいいだろう。


―――ふと、いつもの癖で先輩に軽口を返してしまった。おじさんと檜達が、怪訝な顔付きでこちらを見ていることにようやく気付いたが時すでに遅しだった。


「楽、お前時々独り言いってたのって、そういう事だったのか?」

「楽ずるいよ!独りだけ幽霊さんとお話してたの⁉私も話したい!

ハロー?グーテンモルゲン?ブルボグブルモグ?」

「君、実は凄い力を持っているんだな。是非、葵と結婚して家の神社を継いでみないか?」


やばい。まともな事を言っているのが檜だけだ。後、葵怖いから独自言語を持ってくるな!

「これは、違うくて―――」

何とか誤魔化そうとするが―――


「でも、さっき先輩って」


あ、詰んだ。

これは、認めなかったら先輩を失ったショックで虚空に向かって、先輩との妄想を語りかける可愛そうな人になってしまう‥。


故に、俺は自分が分かっていることをかいつまんで3人に説明する事にしたのだった。

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