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第23話 残された痛み

ネテミです(^^♪


この物語の大きな見せ場を迎えられました。

このまま、ラストまで走り抜けたい!

その日の夜。


自室で明日の学校の準備をしていた。カバンに教科書を詰め込みながら、紫吹さんの事を考える。


明日で決着をつける―――。


そのために出来ることは、全部やったのだ。後はなるように、なるだけだ。


「らっくん、なんだか少し変わったな?」

「そうですかね?‥‥そんな、気はしないですけど」

「いいや、初めて演劇部の見学に来た時よりずっと、生き生きしてる‥‥」

「‥‥自分では、そんな感じやっぱりしないですけど、まぁ嬉しいです」

先輩が面と向かって、こんな事を言うのは初めてだったから、調子が狂う思いだった。

「らっくんはあまりそういう事考えなさそうだもんなぁ」

「ちょっと、それって遠回しにバカにしてませんか?」

「そうじゃないって」

先輩は笑って否定した。


「そうじゃなくて、私がめちゃくちゃ気にしてるだけなんだ‥‥。私はずっと、周りから見える私と私が与える影響についてしか、考えて来なかった、寂しい人生だったからな―――」

「そんな事ッ‥‥」

反射的に否定しようとするが、それこそ、先輩にとって失礼な気がして、何も言えなくなってしまった。


「‥‥やっぱり優しいんだな、らっくんは―――私は、らっくんを見てると思うんだ‥‥きっと、私も変われたんじゃないかって―――。死ぬ前は絶対に無理だって思ってた‥‥だから、せめてらっくんの前でだけ‥本当の私、なりたい私でいられたんだ。けれど、私はずっと怖かった。また、否定されるのが―――本当の私を要らないって言われるのが」

「‥‥先輩」

「でも、不思議な事に今はとても楽だ。―――死んで初めて、私は私らしくなれてる。今の方が生き生きしてるんだ。‥‥まさに、死ななきゃ治らないバカだった、と言うことだな」

先輩は、本当におかしいそうに笑った。俺は勿論先輩を笑うことなんて出来なかった。それは、楽しいから笑っている訳ではなく、笑うしかないから笑っているだけに過ぎなかったからだ。

俺はただ、静かに先輩の声(気持ち)を、聞く事しかできない。


「‥‥らっくん。多分だけどな―――明日私は消えると‥‥思う―――」

「‥‥え?‥」

突然打ち明けられた内容に、理解が追いつかなかった。

「だって、定番だろ?‥‥願いを叶えた幽霊がどうなるのかなんて‥‥」

「いやいやいや、そんなの誰にも分からないじゃないですか⁉‥‥先輩はドラマやアニメの見過ぎですよ‥‥そんな事、誰が決めたって言うんです?」

俺は不吉な可能性を頭から拭うように、否定した。

そもそも先輩は幽霊らしくない幽霊だ。どこの世界の幽霊が、ケーキ頬張って幸せそうな顔したり、イジワルされて子供みたいに怒ったり、煮物で死にかけたりするものか。―――そんな都合のいい時だけ幽霊要素を持ってくるなよ。

そんな理不尽って、ないだろ―――。


「‥‥実は黙っていたけど、たまに意識が遠くなる事があるんだ‥‥。そして、その間隔はだんだん短くなってる―――」

「だったら、葵のお父さんに相談しましょう!紫吹さんの事が終わったら、そのまま葵の家で作戦会議です‥‥きっといつもみたいに、なんとかな―――」

先輩はぷかぷかと俺の前まで移動すると、俺に最後まで言わせずにそっと抱きしめた。

それは、まるで親が聞き分けのない子供を落ち着かせるような―――そんな抱きしめ方だ。

本当は、言いたい事がいっぱいあったのに、たったそれだけで、何も、口から出てこなくなってしまった。


「‥‥らっくん、ごめんね。自分の事は自分が一番よく分かるんだ‥。どちらにせよ、永くはない‥‥。だから、言えるうちにらっくんにはお礼を―――」

「ッ待って下さいよ!!‥‥勝手に覚悟決めないでください!!ほんと空気読んでくださいよ、これから夏休みなんです‼葵や檜、遥先輩を誘って、山にいってバーベキューしたり、海でスイカ割りしたり、イベント目白押しなんです‥‥分かってるんですか⁉」

「ごめんな」

「ッそれに、遥先輩も言ってたじゃないですか‥‥一緒に映画を見たり、買い物したりしたかったって、枕投げするんだって―――今日別れる時、遥先輩めちゃくちゃ嬉しそうだった‥‥自分の願いばっかりじゃなくて人の、そんなささやかな願いぐらい‥‥叶えてくださいよ」

「ごめんな‥‥」

口を開けば開くほど、ガキみたいだった。

先輩がすでに消える事を受け入れてるのが、腹立たしくてならない。

―――だから、まるで駄々をこねるように喚いた。


―――誰かが言う。みっともない。大人になれ。世間の声だ。

しかし、そんな事言ってくる奴は所詮他人なのだ。―――うるせえ、こちとら青春真っ只中の高校生だっつんだよ、大人めいたクソつまんねえ常識押し付けて来んな‼


―――俺は享楽に生きるのだ。先輩がいたから、先輩といるために―――。

けれど、その先輩が消えるという。じゃあ、俺はなんの為に?―――。


「‥‥謝んないでください‥‥そんな事してる場合じゃないです。夏休みの予定を‥‥みんなと確認しないと行けませんから。先輩も早めに行きたいところ言っておかないと、また葵がめちゃくちゃ言い出す―――」

認めたくなくて、今の話を避けた。出来るだけ未来の話をしたかった。けれど、先輩は絞り出すように呻いた。


「らっくん。そんな、酷いこと言わないでくれよ‥‥ッ‥‥先輩、泣いちゃうぞ‥‥。―――行きたくないわけないだろ、消えたいわけないだろッ!!‥‥でも、このままでいていい訳がないんだ!!」

目の前の幽霊は、叫んだ―――。

きっと、先輩だって認めたくないのだろう‥‥。だけど、先輩なりに受け止めて前に進もうとしている。

それが、俺達にとって別れの境界線でしかなかったとしても‥‥。


なんとかしてあげたかった。しかし、実際の俺は‥‥‥―――無力だった。


「‥‥‥らっくんありがとうな‥。先輩永くはないけど、良い方に考えよう?例えば、もうらっくんが、夜中コソコソとヌキヌキしなくて済むし、遥がらっくんの事気に入ってるっぽいから、この夏にイベントシーンがあるかもしれないぞ?」

先輩は努めて明るく振舞っているようだった。‥‥本当にふざけた人だ。


「兎に角‥‥作戦を遅らせましょう。せめて、みんなで思い出を作ってからでも―――」

「駄目だ」

「‥‥どうして」

「本当に―――時間がない‥‥。多分、明日が限界だ」

そんな事ってあるのか‥‥。もし先輩の言う事が正しかったとしたら、俺に残された先輩と過ごせる時間は後十数時間もない。葵や檜、遥先輩にしたらほんの数時間しか残されていないではないか‥‥。


「だから、最期に‥‥らっくんのしたいことしていいぞ?」

「―――ッは⁉な、なんでですか⁉」

どういう理屈なら、そうなる。

「まぁ、今までお世話になったし、らっくんには感謝してもしたりないからな!―――だから、いいぞ。‥‥ちなみに、少しえっちな事も可だ」


先輩はいきなり今までの空気感をぶち壊して、とんでもない事を言い始めた。

今まで一度も脱いだことの無い制服のブレザーをはらりと、床に落とす。

その顔には、安っぽい部屋の蛍光灯に照らされて、はっきりと映し出されていた。

羞恥の緋色あけいろと―――恐怖に堪える震えが‥‥。


「ちょッ、待ってくださいよ⁉服は脱げない設定何処行ったんですか?」

「あれは嘘だ♪」

先輩は小憎らしく可愛こぶりながら舌を出した。

「全然可愛くないですから、やめてください。ほら、風引きますよ?それに先輩の貧相な武装では、俺の理性と言う名のガーデンには侵入出来ませんから」


そうだ、いつも通りこの後先輩が怒ってやいのやいのする。それでいいのだ。

俺は先輩がなんと言おうと、なんとかする。紫吹さんの件をしっかり片をつけて、葵のお父さんに相談するのだ‥。そうすれば、きっと―――。

だから、今日はもう寝よう。明日は俺達の人生の中で究極にハードになる―――。

しかし、先輩は何も言っては来なかった。


「‥‥‥んと、先輩?」

「本当にそうかな?‥‥試してみようか―――」


ふっ、と俺は体の力が抜けた。

視線が乱高下して、膝から崩れ落ち‥‥やがて安定する―――俺は後ろから倒れ、天井だけが視界に映っていた。

体は指の先も動かない。


「―――かなしばり、成功だな」

「‥‥どうしてこんな事を‥」

かろうじて声は普通に出せるようだった。

どうやら俺は先輩にいきなりかなしばりをかけられ、後ろのベッドにそのままダイブしたようだった。

こんなの予想外もいいとこである。


「こうでもしないと‥らっくん暴れるだろ?それに、こういう事はやっぱり年上のお姉さんがリードしてあげなくてはいけないだろうしな」

「いや、先輩もどうせこんな事したことないでしょうがッ‼―――早くこれ解いてくださいよ‥‥こういう事は好きな人とするもんです」

思ったのと違ったが、これも先輩の悪ふざけだと思い、バカやってないで寝ますよと、言った。

しかし、いっこうに体は動かせないままだった。

先輩は一度困ったような顔をした。

しかし、その後―――汚れ一つない、真っ白なシャツのボタンを外して、俺にのしかかって来た。

水色の下着が眼前に晒される。


「‥‥間違ってはないだろう‥‥。私は今、好きな人の前で、肌を晒しているのだぞ?」

「―――俺なんかを‥どうして‥‥」

「どうして?‥‥面白い事を言うならっくんは⁉―――幽霊になった私を受け入れてくれて、私の為にここまで頑張ってくれて、私をみんなと繋いでくれた人。惚れない訳があるのか?」

先輩は、まるで何でもないように言った。

「気持ちは嬉しいですけど‥‥いきなり過ぎますし、告白をそんなどさくさみたいに言わないでくださいよ」

「大丈夫だ、これから体も気持ちよくなるから♪―――後、君は恋愛にロマンを求め過ぎだ!これだから、童貞は面倒臭いのだ。らっくんは私が嫌いではないだろう?だったら、私に任せておけ!!面倒な事は合体してから考えよう」

先輩はいそいそと俺のズボンを降ろそうとしている。

その手付きは、見てはいられないほどオドオドとぎこちなく―――童貞から見ても先輩が処女である事は明らかだった。


「俺にも選ぶ権利があるんですよ!!こんな、エロいおっさんみたいな告白で卒業したくなんてありませんよ!!」

「ヒドッ、らっくんなんでそんな酷いこと言うんだ!!いいのか、この先一生見られないかもしれない生おっぱいだぞ?」

「ぐ、それは‥‥てッ、見られるわ!!」

なんとか先輩の暴走を止めようとするが、体が動かない事にはどうする事もできない。

しかし、口だけは動くのでムードを台無しにしていけば、多分事なきを得るだろう。

例えば、先輩が諦めるまでうんこうんこ、言ってれば一線を越えない。そんな、シュールなセックスは嫌だからである。

‥‥でも、それが出来ないのは心の何処かで悪い気がしないからだ‥‥。俺だって先輩の事を女性として見てるし、反応もする―――。だけど、それが恋なのか‥‥さっぱり分からなかったのだ。

―――俺は臆病に上を見上げる事しか、出来なかった。


「うるさいなぁ、らっくんいい加減覚悟するんだ―――電気を消すぞ‥‥」

すると、部屋の明かりが突然消えた。

―――ポルターガイストだ。

ここへきてどんどん幽霊らしくなっていく‥‥。


今宵は満月のようだった。窓から青白い光が部屋に差し込む。先輩のシルエットがはっきりとそこにある。


「む、恥ずかしいから暗くしたのに月明かりで意外と見えてしまうな」

「‥‥はぁ‥‥‥いいんじゃないですか。先輩の体、くやしいですけど綺麗ですよ」

俺は諦めて流れに身を任せる事にした。

「良かった‥‥事故当時のままだったらどうしようかと思った。らっくんも内蔵がグチャグチャした女としたくはないだろうから」

「それは、ぞっとしないですね」

「そうか―――じゃあ、喜べ!」

「ッ⁉‥‥‥」


いきなりキスをされた―――。

優しく触れるようなキスだった。


どうやら霊的な力を使って実体化しているみたいだった。まるで、本当に先輩が、そこにいるみたいだ。

俺は初めてのキスに心臓が張り裂けそうな程に鼓動していた。率直な感想として嬉しかったのだ。

でも、先輩は慣れていないのだろう。口がついては離れ、ついてを離れてを繰り返していて、もどかしいったらなかった―――。


俺はそんな現実感のないキスに不安を覚えた。

もっと、先輩を感じていたかったし、紛れもない現実として、先輩としたかった。


「‥‥んッむ⁉‥‥え、とらっくん?」

「するなら、ちゃんとしてください」

俺は思い切って深めにキスをして、少し舌も入れてみた。

先輩は最初は恥ずかしがっていたが、やがて自分から絡ませてきた。


月明かりが二人を照らし出している。

あれからいつまでこうしているのだろう―――。

時間なんてどうでも良くなるほど俺達は口を合わせていた。

しかし、いくらキスをしても、いくら抱きしめても‥‥まるで霞を食べているように乾く。


舌を絡ませても先輩がむしろ遠くに行ってしまうようで、胸を揉みしだいても現実感がまるでない、きりがないのだ‥‥。だから、俺達は互いを確かめ合う作業を終わらせる事が出来なかった―――。


こんなに近くにいるのに、先輩がどんどん欲しくてたまらなくなる。

こんなに求めあっているのに、すり抜けるようなもどかしさに喘ぐ。

その事実が、俺達に現実を嫌と言うほど突きつけた。

―――それはどんなに体を合わせても、二度と手に入らないものなのだ。先輩は死に‥‥俺は生きているんだ―――。


「‥‥先輩、太ももの付け根にほくろが‥‥」

「可愛いだろ‥‥私はくろこちゃんと呼んでいるんだ。生まれたときから、一緒だからな」

「名前までつけてるとは‥‥」

「人に紹介するのは初めてだ、名前をつけておいて良かったよ。さて、そろそろ本番といきますか」

「本番って出来るんですか?」

「超頑張ってここだけ実体化するから、多分、大丈夫だろ?」

「‥‥ほぼ解けかけてますけど、このかなしばり解いてください‥‥。ここまで来たら逃げませんよ。ちゃんとしますから―――」

「優しくしてくれよ?」

定番のセリフを幽霊少女が零す。けれど―――。

「‥‥すいません、最初に言っときますけど多分無理です。先輩を忘れたくないですから‥‥」

「そっか」と、先輩は笑って答えた。

俺は自由になった体を起こして、先輩をベッドに押し倒した。

やがて生々しい痛みの声と、熱い息遣いが響き渡り始める―――。


それから―――俺達は朝まで一緒だった。

実体化した先輩の体は素晴らしかった。それこそ涙が出る程に現実的だった‥‥。先輩はおそらくとても痛かったと思う。あまりの痛みに耳を塞ぎたくなるような声を、時折上げていた―――けれど、いや‥‥むしろその痛みこそ愛おしげに受け入れてくれた。

そのお礼に、俺の背中には先輩が立てた爪の跡が、痛ましい程幾重にも刻み込まれている。傷の上から、傷を上塗りしたような跡だ。

これはきっと、数年はこのまま残り続けるだろう。お風呂に浸かれば痛みを覚えるだろう。

たけど‥‥今はそれが何より嬉しかった―――。


何故なら。

―――俺は一人だった、からだ。



✱✱✱



―――途中から先輩がいなくなった事に気付いていた。

しかし、目を瞑り必死に先輩の名前を呼びかけ続け、背中の痛みに意識を集中して腰を緩慢に振った。

やがて、先輩のそこにいた熱さえも失われていき、あるのは背中の焼けるような痛みだけとなった後‥‥俺は、何かに耐えるようにじっと、うずくまった。


そこから先の、記憶がない―――。


気付いたらベッドに裸で、朝を迎えていた。

口がカサカサに乾いている。目も水分を求めて瞬きを繰り返す。―――人生で迎えたどんな朝より、最低な朝だった。

喉の奥に鋭い痛みを感じた―――ずっと、名前を呼び続けていたからだ―――雅さん‥‥。


俺は立ち上がってベッドを見た。

体の水分の半分くらいは、吸い込んでいるのではないかという惨状だった。


「―――本当に、最低の‥‥朝だ‥‥‥」

上手く喋れない。口の中が砂漠のようだ‥‥。


時間は朝の5時10分。

俺は一階に降りてシャワーを浴びる事にした。水は飲まなかった―――。


シャワーを浴びている間、背中の傷が酷く傷んだ。あまりにも、痛かったから‥‥俺は子供みたいに泣いた。

もう、一生分泣いたと思ったのに、俺は止まらない涙と痛みをシャワーで流し続けた。


どうやら、先輩はシャワーなんかじゃ流れない‥‥しっかりとした思い出を残してくれたようだ。

俺は今日という最低な、下品な、苦しく、狂おしく、オカルティックで、最高の一日を締め括るべく―――準備を始めた。


✱✱✱


【昼休みの屋上】


この場には葵、檜、遥が揃っている。楽の姿だけが、見当たらなかった。


「‥それで、楽はなんてメールして来たんですの?」

遥はベンチに腰掛けながら葵に聞いた。

夏の日差しは厚い雲に隠れ、屋上に出てても日焼けすることはない。

過ごしやすい日だった。

「今日は授業さぼるってぇ、でもちゃんと放課後校門には来るってさ」

葵は今朝楽から届いたメールの内容を説明した。



「真面目なあいつにしては、珍しいな。こんな所まで享楽的じゃなくてもいいだろうによ」

「あッ、あれじゃないですの?昨日何やら作戦があると言ってましたから、その下準備とか」

「‥‥だったら、いいんだけどぅ‥‥。やっぱり少し心配だよ―――」

「まあ、楽には先輩が一応付いてるしそんなに心配いらねえだろ?」

「そうですわね‥。雅が一緒なら無茶な事はしないでしょう。―――杞憂に暮れても時間の無駄ですわ。そろそろ、夏休みですし、今日の事が上手くいったら葵の部屋で夏休みの予定を話し合いましょうよ」

遥は沸き立つ気持ちが抑えきれず、そう零した。

「あ!それいいですね裏辻先輩!!じゃあ、私肝試しがいいなぁ。絶対に行ってはいけない系の心霊スポットに行って、恐怖体験したい」

「あ、貴方、正気ですの⁉‥‥‥なんでわざわざそんな所に行かなきゃいけないんですの‼そんなの雅がいれば十分ですわよ。それよりも、海とか行ってみたいですわね。雅も水着が着れるといいのだけれど‥‥」

なんとか話題をそらそうとしたが、葵の瞳がひかり、なにやらキュピーン、という音まで聞こえた。

「なるほど‥‥裏辻先輩いい事思いつきました‼廃病院に行って、雅ちゃんに協力してもらってリアル肝試しをすればいいですの」

「足すんじゃありませんわ!!それに、真似をするな!!全く貴方といい、楽といい、不真面目でいけませんわ」

「―――まあ、俺は無難に川っすかね。出来るだけ皆の意見を取り入れた予定を組めよ葵。今日もケーキちゃんと持ってくからよ」

檜の一言で女子二人のテンションが分かりやすく上がる。

やはり、甘味は正義なのだ。


実は‥‥これでも、檜は夏休みを楽しみにしていた。

昨日仁夏さんから解放された後に、親戚からバーベキューセットを借りたり、海パンを引っ張り出したりと、割とわくわくしていた。

素直じゃない男だった。


「兎に角、全ては上手くいった後ですわよ。取らぬ狸の皮算用といいますし、楽と合流したらしっかり話しませんと」

「そうですね!私達はしっかりと、楽を支えてあげないとだよ‼」

「その通りだな‥‥あいつ意外と打たれ弱いというか、繊細なところがあるからな―――」


三人は、それぞれの弁当を囲みながら他愛のない話をした。

以前では、ここで掴み合いをしていた者同士だったが、今は見る影もなく仲良しである。

遥がやたら楽の事を葵に聞いたり、それをからかわれて怒ったり、今度は遥が「昨日仁夏さんに、二人は何をされたんですの?」と聞いたら、二人を沈黙させたりした。


まるで、ずっと前から友達だったかのような自然さである。


やがて、彼らはそれぞれの教室に帰っていった―――。

曇天の空は雨の予感を漂わせ、雲は様子を伺うようにゆっくりと流れていた。

もう少しで、放課後が訪れる―――。

ネテミでした!

お疲れ様です!

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