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第21話 答え合わせの記録

ネテミです(^^♪

せめて明日までに終わらせな‥。

―――放課後、葵家の離れ―――


ここに来るのは、仁夏さんがガチギレした煮物事件以来だった。以前と同じく、扉は閉め切られており、燭台の明かりが煌々と辺りを照らしていた。

葵は説得力をあげる為だとかで、巫女服で座布団の上に座っていた。

そして、葵から右から円を描くように檜、俺、遥先輩が並んでいる。


―――そして、真ん中にはタブレットが置かれていた―――。


先輩は、相変わらず俺の後ろで浮遊しているが―――まさか、先輩にタブレットを動かせて信じさせるつもりなのだろうか?―――。

俺は、流石にそこまで安易な作戦ではないと思いたかったがタブレットがあるという事はそういう事なのだろう。しかし―――


「神社の娘と言うのは本当のようですわね。‥‥葵さん、もし嘘なら何でも言う事を聞くと、言っていましたわよね?」

「―――はい、何でも構いませんよぅ」葵は、何でもないように言った。

「では‥‥一つ約束しなさいな―――。もう二度と私と楽にこの話をしない事、そして―――私に二度と話しかけない事」


「遥‥‥」

先輩が心配そうに、後ろで呟く。

俺も同じ気持ちだったが、今は葵を信じて見守るしか無かった‥‥。


「委細承知です―――。裏辻先輩の言う通りにします。ですが、私は本気ですから‥‥本気で雅ちゃんと、楽を助けるって決めたから‥‥‥だから、最後まで見ていてください―――」


そういうと、葵は俺の後ろの幽霊に目配せして、タブレットのスイッチを押した。

幼馴染のここまで真剣な顔を見たことが無かった。―――だから、こっちまで緊張してしまう。そして、やはりタブレットを使うようだった。

遥先輩は、案の定怪訝な眼差しをその電子板に向けた。

―――俺は以前先輩が言っていたように、先輩と伝える相手にしか知らない事じゃなければ、手品と思われたり、代弁してると疑われてお終いなのでは、と危惧したが、檜も同じようで‥‥。大丈夫か?という視線を投げかけた―――。


しかし、葵はどこまでも用意周到にこの場を作ったのだ。あの数冊の対策ノートは、見せかけでも、伊達でもなかったのである―――。


「今から、降霊を始めます。私が呼んだら、雅ちゃんがこのタブレットにメッセージを、書き込んでくれるので良く見ていてください―――いきますよ‥‥雅ちゃん―――お願い!」


一瞬の静寂が辺りを包み込む。

―――遥先輩はあまりの馬鹿馬鹿しさに、立ち上がろうとした、その時だった‥‥。ゆっくりと丁寧な筆致で、文字が書かれていく。


『―――遥、久しぶりだな。私だ‥高城雅だ。どうか、信じて欲しい』


それは、必死に伝えようとして丁寧に‥‥けど、もし拒絶されたらという恐怖に歪んだ文字だった。

少なくとも、俺の目にはそう見えた。先輩の姿が見えない檜や葵にも、そう見えただろう。それぞれ複雑な表情を浮かばせていた。


しかし―――


「‥‥‥これで気が済みましたか?茶番も良いところですわね。こんなもの、降霊でも何でもありませんわ!ただの子供騙しです‥‥楽、行きましょう。貴女は洗脳されているのです―――わたくしがなんとかして差し上げますから―――」

「待って下さい‼まだ、雅ちゃんが言いたい事が残ってるのに!!」

葵は厳しい口調で、遥先輩を呼び止めた。

「もう、ここに用はありません‥‥それに、いい加減にしてくれないと―――本気で貴方を殺してしまいそうなの」

遥先輩は震える声で言った。本当に殺意を抑えているような、ぎりぎりの空気感だった。


辺りは、緊張に飲まれた。喉がカラカラと乾く‥‥。

―――かくして、最初に口を開いたのは葵だった。


「‥‥‥部室の日記」

「え?」

「楽から聞きました‥‥演劇部の部室にある、ロッカーの鍵‥‥金色のダイヤル式の鍵がなかったって―――外したのは、裏辻先輩ですよね?」


遥先輩は何も言わなかった。ただ、話の続きを待っているようだった。


「だから、裏辻先輩には分かるはずです‥‥。あのロッカーの中身は雅ちゃんが亡くなった後で一度しか開けられていません―――私達が中身を知ることなんて出来ない」

「‥‥ッまさか⁉でも、そんなはずは―――」


ここへ来て、初めて遥先輩が狼狽した。

そう、そのまさかだったからだ。


「雅ちゃん、お願い」葵は、「ごめんね」。と言う風に言った。

「え、でもめちゃくちゃ恥ずかしいんだが‥‥どうしても、言わなきゃだめか?」

先輩は俺に助けてくれという視線を涙目で送るが、お願いしますと口を動かして却下した。


そして、タブレットにはこんな書き出しから文字が綴られていった―――。


『葵、今度私の好きなご飯を作って貰うからな!!後、檜の家のケーキも食後に用意すること!‥‥後楽は、もっと私に優しくするんだぞぅ!』


―――なんとも力の抜けるプロローグである。



✱✱✱


先輩は葵と協力しながら、主だった日記の内容をタブレットに綴っていった―――。


4月20日 くもり 


演劇部活動記録一日目٩(๑`^´๑)۶

今日は暫定だけど部室の鍵をゲットした!そして、部員を増やす為にポスターとチラシを作成!!


我ながら、いい出来だ素晴らしい(^^♪

―――いつか、たくさんの仲間たちと部活を盛り上げていきたい!!



4月27日 晴れ


演劇部活動記録八日目(・_・;)

何故か一人も集まらない‥‥。

チラシもポスターも頑張ったし、クラスの子にも声をかけたのになんでだろうか?‥‥。

でも、初めての挑戦だしこんなものだろう!きっといつか、来てくれるよな。

今はもっと頑張ろう(*゜∀゜)



5月10日 晴れ


演劇部活動記録二十一日目(´・ω・`)

‥‥え、本当にこんな事ってあるのか?

もう、一ヶ月経とうとしてるのにゼロ⁉

このままでは部室の鍵も取り上げられてしまう!!


―――ずっと、ずっとこの部室で待っているけど無駄なのだろうか‥‥。私はずっと‥‥私になれないのだろうか‥‥‥。

今日はもう帰る。



5月20日 晴天


演劇部活動記録三十一日目(ㆁωㆁ*)


やった〜〜〜‼!

念願の部員が一人やって来た!!

恥ずかしい所を不慮の事故で見せてしまったが、結果オーライだ。しかも、私のポスターが気になって見に来てくれたらしい―――めちゃくちゃ嬉しい(≧▽≦)


まぁ、少しイジワルなのが気になるが可愛い後輩だ。なんだか、久しぶりに笑えた気がする‥‥不思議な後輩君だ―――。



5月21日 雨


演劇部活動記録三十二日目٩(๑òωó๑)۶


嬉しい事は続くものだ‼

らっくんに続いて、遥も名前だけだが部員になってくれた!!

遥はいつも私に突っかかって来るから、私の事が嫌いなんだと思っていたが、そうじゃなかったらしい。

ただのツンデレっ娘だったのだ。

素直じゃないところは、らっくんと実に似ている。この調子でどんどん増やしていくぞ〜!!!



8月20日 強い雨


演劇部活動記録百十九日目(๑•̀ㅁ•́๑)✧


相変わらず部員は増えないけど、それでもらっくんと色んな話しが出来て楽しい時間だった!!

でも、びっくりした事があった。実はらっくんとお父さんの仲があまり良くないらしい(´・ω・`)


先輩としてなんとかしてあげたいけれど、なんて言っていいかまるでわからなかった―――駄目な先輩である。


だけど、このままじゃいつか私みたいに、苦しむような気がしたから、何でもいいから力になりたい―――。


‥‥‥‥煌々と光るタブレットには、ついに先輩の最期の日の日記の内容が書き出された。

そこには、先輩の本心がそのまま映し出されている。新しい居場所への期待、絶望、喜び、心配―――。

そんな、目まぐるしい感情がそのままに‥‥。


「‥‥そんな、こんなの、どうやって‥‥」

遥先輩は文字の一つ一つを確かめるように、その電子板を端から端まで見直した。

―――しかし、遥先輩の表情が口ほどに物語っていた‥‥。きっと、彼女が持っている日記の内容とほぼ同じだと言う事を―――。


「裏辻先輩―――あなた自身が一番分かってるはずです‥‥雅ちゃんはさっきからずっと、あなたの目の前に‥‥」

「嘘ですわよッ!!‥‥だって、そんなのありえなくて‥‥‥。嘘のはずで―――」

遥先輩は受け入れがたい目の前の現象に、戸惑っていた。

以前部室での会話を思い出す‥‥‥。

【‥‥もう一度。―――もう一度、会いたいと、やっぱり思ってしまうわね‥‥。

そんなのは誰にも叶えられない事だと、分かっているんだけどね。それでも思ってしまうのよ】


そうだ―――きっとまだ、遥先輩は先輩の死を受け容れられてはいなかったのだ。‥‥だから、部室の先輩の痕跡を求めた。あの金の鍵も所詮は4桁のダイヤル式だ。時間と根気を掛ければ開けられる。

俺は遥先輩が一人で黙々とダイヤルを回す姿を思い描いた。―――そして、今の焦燥と戸惑いが入り乱れる顔を照らし合わせた。


俺は扉の前に立っているのだと思った。きつと、あと一つ何かの鍵が揃えば全てが上手くいく―――そんな予感だけ目の前の光景に感じるのだ。


『‥‥遥‥‥。約束を守れなくてごめんな。せっかく入部してくれたのに―――実は、私も楽しみにしていたのだぞ!

私に張り合ってくれるのは、遥くらいだからな。私のライバル―――』

かくして、鍵はもたらされた様だった―――。俺達には分からない言葉だったが遥先輩にはそれで、十分に伝わったようだった。


「‥‥やく、そく‥‥。ッく‥‥それは、私が雅にしか言ってない、二人だけの秘密‥‥―――ねぇ‥‥‥」

遥先輩は言葉を区切り、嗚咽を抑えながら虚空に向かって語りかけた―――。


「‥‥‥そこ、に‥‥いるのッ?‥‥雅、貴方が!」

遥先輩は燭台に照らされたその白い指を、虚空に伸ばした―――

幽霊は、その指をとても優しく手で包み込む。

幽霊は触れない、誰にも見えない―――だから、その幽霊はゆっくりと息を吸い込み、その吐息で彼女の指を温めた。

遥先輩は、見えないだろう。そして、感触もない、タブレットにさえ何も文字など映し出されていない―――

だけど、まるで誰かに手を握られているような温かさと、安心感に包まれ―――ただ無言のままに、そっと涙を流した―――。


俺達がお堂を出る前に、遥先輩は小さく「ごめんなさい‥‥あと、ありがとう‥」と言った。俺達は、口を揃えて返した。

「こちらこそ」と。

ネテミですた(^^♪

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