第20話 衝突
ネテミです(^^♪
まだまだ!
―――作戦前夜。
「まず、楽が今日のうちに裏辻先輩に昼ごはんのお誘いをする。場所はそうね、屋上にしましょう。その後は上手く裏辻先輩をおだてること!いい、ちゃんとしないと成功しないよぅ楽?」葵が念を押して言った。
「それはいいけど、いきなり誘って遥先輩が来てくれるかは、分からないぞ葵」
「大丈夫だよぅ楽。名前呼びを許してもらっているんでしょう?それに、さっき楽から聞かせて貰った裏辻先輩の印象だったらまず間違いなく断らないよぅ」葵はやけに断定的に言い切った。
「そして、出来れば裏辻先輩のお弁当に興味を示してあわよくば、一口食べさせて貰えればこっちのものよ。ひたすら褒めるの、そうすればきっと上手く行くわよ。頃合いを見て楽が雅ちゃんにアイコンタクトをして、屋上のドアに隠れた私達を呼びに来て貰うの」
「そんな上手くいくのか?仮にそこまで出来たとして葵達を呼んでからどうするんだよ?」
「そこから先は、私に任してちょうだい!‥楽は適当に話を合わせてくれたら良いから。そうすればすべて上手く行くからね!」葵は確信を持って断言した。俺はここまで考えてくれた葵の言葉を信じて、一切を委ねて見ることにしたのだった―――
そのような経緯があり、今がある。俺と遥先輩は屋上の芝生でレジャーシートを敷いて弁当を囲んでいたが、突然先輩と共に、葵と檜が俺達の前に現れたのだった‥‥。
「ん?‥‥楽、彼らはどなたかしら?」裏辻先輩は訝しげに質問した。すると、唐突に葵が俺の胸に枝垂れかかってきた―――
「ちょ、葵⁉」俺はあまりに突然な行動に固まる事しかできなかった。遥先輩も流石に口を開けて呆けていた。
「楽!こんなところにいたんだね、探したよぅ。もう、他の女の子とご飯食べるなんて酷いよう!!」葵は普段の底抜けの明るさや、ふざけた感じを一切感じさせなかった。そればかりか、胸に倒れ見上げてくる眼差しからは何処か妖艶で蠱惑的な雰囲気を漂わせていた。
「おい、葵いい加減に、しろって!いきなりどうしたんだよ⁉」俺は狼狽しつつも言った。
「何言ってるの楽?いつも通り私と楽しい時間を楽しみましょう?」葵は尚も謎の演技を続けた。
檜⁉と、俺は親友の方を見るがやれやれという顔をしていた。止めるつもりはどうやらないみたいだった―――。
「貴方。葵とかいいましたかしら?
楽は今わたくしと昼ごはんを食べていますのよ。いきなり現れて失礼じゃないかしら?」遥先輩は、とても分かりやすく機嫌が悪かった。ともすればこのまま立ち去ってしまいかねない剣幕であった。
「ごめんなさい。でも、あなたには分からないと思いますけど、楽は先輩を亡くしたショックで私がいないと駄目なんです。幼馴染の私がいないと!」
「本当に何を言っているのかしら?それに私だって楽の苦しみは分かってるつもりですわ!同じ部活の仲間で大切な後輩ですもの―――幼馴染だかなんだか知らないけど、貴方のような無礼な方は楽に勿体無いと思うけど?」―――ついには売り言葉に買い言葉という構図が完成してしまった。どう収集つけるんだ葵?
俺は胸元の葵にアイコンタクトを送ると小さくウインクをした。「大丈夫ぅ」と。
「そんな事ないですよぅ。今日だって放課後に私の家で楽とあれをする予定ですから」葵は遥先輩に挑戦的な口調で言い放った。
「あれ、ですの‥‥⁉まさか、貴方達、そのえ、え、エッチなことではないでしょうね!!駄目よ、わたくし達はまだ高校生なのですから、せめて手を繋ぐとかにしなさいな!!」
遥先輩は顔を真っ赤にしながら糾弾した。分かってはいたがめちゃくちゃ初心である―――。
しかし、次の瞬間―――空気が音をたてて凍りついた―――。
「先輩に会わせてあげるんですよ」
「は?‥‥‥」
遥先輩は絶対零度の無表情で葵をじっと見つめていた。葵は構わず続けた―――。
「聞こえませんでしたか?だから、先輩に会わせてあげるんですよぅ。そのままの意味ですぅ。―――私実は神社の娘で降霊が出来るんです。それで、楽に放課後先輩と会わせてあげて‥‥‥」
「ねぇ?」
「‥‥ッ」
―――最後まで言い切る前だった。それは、最後まで聞くまでもないということで、つまるところの我慢の限界ということだった‥‥。
遥先輩は葵の制服のネクタイごと、その胸ぐらを両手で掴み上げ、睨みつけた。
それはあの時、初めて遥先輩に怒られた時の比ではない。―――本気で怒っているようだった。
「貴方‥‥楽の幼馴染だから黙って聞いていたけど‥よりにもよってそんな戯言を‥‥わたくしの前で、ましてや楽に聞かせるなんて―――正気なの?」
「戯言なんてとんでもないですよ?私は本当にそれが出来るし、楽もそれを体験してるんですから‥‥ね、楽?」葵は先輩から親の敵のような視線を送られつつも
、飄々とした様子で俺に確認してくる。そんな物言いがますます気に入らないのか、先輩は苛立たしげに俺の言葉を待った。
葵は先輩に気付かれないようにぎゅっと俺のシャツを引っ張った。どうやら、話を合わせろということだった。
勘弁してくれよと、心の中で零す。何故なら今の遥先輩は葵のお母さんよりもおっかないからである。
‥‥‥だけど、ここまで口出ししてこない檜と先輩―――それに葵のあのノートを信じて‥‥俺は南無三と口を開いた―――。
「‥‥ほ、本当です」
「楽、今なんて言いましたの?」
「葵の言ってる事は本当です‥‥。確かに、先輩に‥俺は会いました!!」
―――言った。言い切った。
俺は最早怖すぎて、言った後は俯く事しかできなかった。遥先輩は怒り7、戸惑い3といった感じで、言葉を探しているようだった。
「‥‥楽、貴方疲れてますのよ‥。ごめんなさい、わたくしそこまで貴方が傷ついていたのに、気付かなくって‥。とにかく、この頭のおかしな幼馴染の事は忘れなさい。どうしても、辛くなったらわたくしを頼って」
遥先輩はまるで壊れやすい物を扱うように、俺の頭を抱きしめた。
勿論、その豊満な胸が俺の視界を覆い尽くす―――控えめに言って約得だった。
「ちょっとあなた楽から離れなさいよぅ!余計なお世話だよぅ?‥‥私がちゃんと楽を慰めてあげるから」
葵は、引き剥がすように先輩から俺を奪い取った。
「楽‼しっかりしなさいッ!!‥‥貴女は騙されてるのです。この、インチキサブカル女にねッ!!―――目を覚まして」
「インチキだってぇ‥どうして言えるんですか?先輩は見てもいないのに」
葵は尚も挑戦的に言った。
「そんなもの、見なくたって自明ではないですの。死者が語るなど、また会えるなどと‥‥胡散臭いことこの上ないですわ」
「なら、証明してあげますよ」
「なんですって?」
「‥‥ですから、裏辻先輩に雅ちゃんがいるって認めさせてあげると、言ったんです―――それにもし、それが出来なかったら、裏辻先輩の言う事を何でも一つ聞いてあげても良いですよ?」
「‥‥く、くだらない」
「怖いんですか?―――会うのが―――」
致命的な一言だった。
次の瞬間、遥先輩は立ち上がり葵を睨みつけながら宣言した。
「‥‥よろしいですわ―――その安い挑発、乗って差し上げますわ‥‥。貴女きっと後悔しますわよ―――」
遥先輩は吐き捨てるように言い放つと、レジャーシートと自分の弁当箱をひっつかみ、屋上を後にした。
後には、3人と幽霊だけが残された。
「‥‥葵。これで、本当に大丈夫なのか?―――まあ、確かに遥先輩を葵の家に誘導する事には成功したけどよ」檜が言った。
(それに、こんな事になるなら俺いらなかったんじゃないのか?)檜はそっと疑問を浮かべた。
「―――色々考えたけど、こうするのが一番だと思うなぁ。もし、仲良くお食事していきなりお家に誘っても、疑われて、逆に警戒すると思うし‥‥それに、きっと楽に危ない人が近付いているってシチュエーションの方が、裏辻先輩は乗ってくるとおもったから‥‥それに万が一怒らせ過ぎてヤバくなった時の為に、檜を後ろで待たせてたしね安全安全!」
葵は何でもないように言った。事実葵の言った通りの展開になっているが、俺は葵がここまでする―――いや、出来る幼馴染とは思っていなかった。だから、少し面を食らっていると。
「ノーリスクハイリターンってのは、既に十分に持ってる人の戦い方なんだよぅ。時間やお金や、才能、信頼や信用やスキル‥‥。そういう人は二重三重の保険があるからリスクが少ないのよ。だけど、私達には時間もないし、よってそこまでの信頼や信用を得るのも難しい―――だから、努力やアイディアという細い保険を何重にも重ねてミドルリスクミドルリターンを取っていくしかないのよぅ」
葵はしみじみと言った。確かにその通りだと思うが、葵らしくないと思った。
「葵は博識なんだな。らっくん、なんだか啓蒙セミナーみたいだな」
「確かにそうですが、そう聞くとしょうもなく聞こえるのは俺だけでしょうか‥」
「だけど、最後の問題が残ってるだろ?―――高城先輩のお母さんの時と同じで、ここから遥先輩に信じて貰うのが一番難しいと思うんだが」
「それは簡単だよぅ。少し雅ちゃんに頑張って貰うけど、そうすれば全部上手くいくよ!」
「わ、私か⁉」先輩はいきなり話を振られ驚いたが、何か出来ることが嬉しいようですぐにタブレットに―――
『ようやく、私の出番だな!恥ずかしい事じゃなければ何でも来いだぞ!!』
高いテンションで書き込んだ。
葵は文字を見ると「あははは、雅ちゃん頼りにしているよぅ」と、内容には触れずに答えた。嫌な予感しかしなかった―――。
「サンキューな、葵」
「え?」
葵はびっくりして聞き返した。
「先輩の為に損な役回りをさせちまったからさ‥‥でも、全部終わったらちゃんと遥先輩には謝っとけよ、俺も一緒に謝るからよ」
「楽‥‥。分かってるって、檜と3人で謝れば許してくれるよね」
「―――俺今回なにもしてないのだが?」
「何言ってるのよぅ怖い顔ですいませんってちゃんと謝らないと〜」
「それは、生まれつきだッ!!」
先程の空気が嘘のようにかき消えていた‥‥。落ち込んだ心がじんわりと暖かくなる―――。
元々は先輩の願いを叶えるために始めた事だった。だから、俺と先輩だけでジタバタしていたけど‥‥葵や檜―――そして遥先輩。協力してくれる人、支えてくれる人がこんなに増えてきた―――最初は不安だったけど‥‥なんだか、今なら何でも出来るような気がする‥‥‥。
俺は葵の手筈通りに、放課後遥先輩を連れて葵家に向うように取り計らった。
メールを送るとすぐさま、「分かりましたわ」と簡素な返信が帰ってきた。
―――後は、葵の秘策がどこまで通用するかの勝負だった―――。
お楽しみに(^^♪




