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第15話 失われた生活

ネテミです(^^♪

今日の夜にもう一度投稿します!

お楽しみに!

「ただいま」

彼らが帰った一時間後ぐらいだろうか、夫が仕事から帰ってきた。私は玄関でいつも通りのやり取りをする。

「おかえりなさい、ご飯できてますよ」

「ああ」

「上着預かります」

「頼む」


簡素な会話が始まり、そして電話を切ったように終わる。以前であれば雅の事とか、学校の事とかを話していた気がする。けれど最近はずっとこんな感じだった。雅を失ったあの日から夫はいつにも増して口数が減り、私は日々疲弊していった。

失うまで気が付かなかったのだ。私達夫婦のコミュニケーションの中心があの娘だったという事を‥‥。今の私達はまるで共通の言語を突然失ってしまったような、不安定な状態になっていた。

夫の上着をハンガーに掛け、夕飯を温める。そして、食卓に着くまでお互いに無言だった‥‥。


今日のメニューは雅の好きだったものを作った。唐揚げとポテトサラダ。そしてオニオンスープを―――

私達はダイニングテーブルで顔を突き合わせて食べる。しかし、周りの音は何も聞こえなかった。―――テレビをつけるような気分でもないし、お互いに何を話していいか分からないからだ。

食器の硬く冷たい音が時折短く聞こえるだけだった―――


私はこの時間が一番嫌いだった‥‥。

嫌でもあの娘を失った事実を実感してしまうからだ。そしてそれは、夫も同じだと思う。最近イライラしている時が多いし、心なしか家にいる時間が少なくなっているみたいだからだ。

―――このままでは私達はどうなってしまうのだろうか―――そんな不安が心から離れない。

このまますべてを投げ出したくなる。しばらく仕事も置いてちゃんと休みましょうと、お互いにショックから立ち直るための時間が必要だと思うのと、私は何度か夫に相談した。


―――しかし、家のしがらみというのはこんな所にも現れるのだった。

夫の会社は代々受け継がれてきたもので、葬儀の日を除きまとまった休みを取るのは難しい状況だった。世間体というのもある、夫は部下に辛いはずなのにそんな姿をけして見せなかった。まるで、取り憑かれたように一心不乱に働いている。

それは何かを忘れたいかのようだった。だから、私だけ泣き言を言っているわけにはいかないのだ。

しかし、このまま無言の夫婦生活を続けていたら、いつか決定的に壊れてしまう。―――だから、私はあまり話したくはない話題だったけれど夕方に訪ねてきた雅の友達の話をする事にした。


「今日‥ね。雅の学校の友達が家に来たのよ」

「雅の?」

「ええ、なんでも雅が作った部活の後輩らしいんだけど、雅が部室の鍵を持っていたみたいで取りに来たんですって」

「雅が‥‥部活を、しかも演劇部かい?」

「ええ、そうみたい。私も初めて聞いたから驚いたわよ。それで、あの娘の葬儀は家族以外来れなかったじゃない?それで、雅に線香をあげさせてくれって」

夫は疲れて固まった顔に久しぶりに笑みを浮かべて言った。

「そうか―――それは嬉しいことだね。そんなことまでしてくれる友達が雅にいたなんて、あいつは友達に恵まれたんだな」

「そうね‥‥。けれど、最後によく分からないことを言っていたのよ‥‥学校だと雅がちょっとおかしかったって‥‥そんな訳ないって私つい怒鳴っちゃったんだけど‥‥そんな事言ったのはあの子達だけだったから」

夫も通知表には目を通している―――雅の学校での様子は知っていた。案の定顔を曇らせて訝しる。

「それは突然だったね‥‥だが、親には見せられない部分も、それはあの娘も色々あるだろう?

少しくらいは逆にあった方が普通だよ」

夫はむしろ安心しているようだった。しかし、あの楽君という男の子が言っていた限りでは普通とは、だいぶ違うように思ったのだが。


―――今はこういう話でしか私達は自然に話せない事に、私は一抹の寂しさを覚えたがついでに話づらい事を、このまま話してしまうことにした。

「今日弁護士の方に話を聞きに行ったのだけれど‥‥昨日事故を起こした運転手の方が亡くなられたそうよ―――それで、どうやら相続はしないだろうって‥‥責任は誰にも求められないかもしれないって」

「―――事故‥ってことになるんだよな?

お金の問題はどうにでもなるが、何も出来ないというのは‥‥」

その先は紡がれることは無かった。

無力感に飲み込まれてしまったように‥。


雅は失われた―――その事故を起こした人はこの世にいない―――要するにそういう事だった。―――私達は残った者達で残ったものを、抱えて生きていくしかない。けれど失ったものをすっかり埋めてしまえるほどの、都合のいいもの等、この世の何処を探してもありはしないのだ。


例え幽霊でもいい―――どんな姿でもまた会いたかった―――と、私は思った。

そうすれば、それだけで代わる気がした救われる気がした‥‥。それが叶わないのだとしたら、これ以上この生活を続けて行く事が本当に出来るのだろうか?

そんな暗い未来と惨めな現実の狭間で、藻掻く力など、とうに無いというのに―――。


私の様子を心配してくれたのだろう‥‥。彼が「今度の休みに何処か旅行に行こう」と言ってくれた。しかし、いつ行けるとは言ってはくれなかった。

―――だけど、元気付けようとしてくれる事が嬉しくて、私は気付かない振りをして、嬉しいと返すのだった―――

ネテミでした(^^♪

お疲れ様です!

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