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第12話 灯る光と決意

ネテミです(^^♪

楽しんでいってください!


次の話は。水曜日に上げる予定です!

葵達には事情を説明し、一旦別れた。そして後で、校門の前で待ち合わせる約束をした。


裏辻先輩は演劇部関係で話があるという事で、俺を暫定的部室に連れてきた。

ろくな活動記録がないため、小奇麗な部室だった。とても演劇部の部室とは思えない。大道具もなければ小道具さえなかった。あるのは、こじんまりとしたロッカーと机と椅子だけだ。

先輩はこのロッカーの中に活動日誌や、ネットで調べて印刷してきた台本、ボールペンなどの細々としたものを収納していた。しかし今は、ダイヤル式の鍵がかけられており先輩にしか開けることはできないようだった。


裏辻先輩は俺に椅子を勧めて、自分は対面に座った。おそらくは、この部室のことも話すことになるだろう‥‥‥。


俺はこの前、先輩曰く泣かせてしまったらしい裏辻先輩と、二人きりになるのはかなり気まずい思いだった。だけど、実は部活の仲間だった裏辻先輩を無視する訳にもいかず、こうして向かい合っているわけだ。

―――やがて、少し話辛そうに、裏辻先輩が口を開いた。


「この間はごめんなさい。‥‥初対面で言い過ぎましたわ。わたくし、ついかっとなってしまって―――」

「いえ、そんなとんでもないです!俺が無遠慮なこと言っちゃったから、裏辻先輩は悪くないですよ。俺の方こそすいませんでしたッ!」


お互いに少なからず気にしていたようで、相手が過去の事を怒っていない事を確認すると、そっと二人で胸をなでおろした。そして、今度は気楽な調子で話始めた―――。


「お互い気持ちよく話せるようになったことだし、早速本題に入りますわよ?

雅の作った演劇部だけど、分かってると思うけど部員の人数が足りませんの。一応、準備期間として使ってない部室を貸していたけど、人数の目処が立たない現状ではこのままにしておけないの。

ここまでは、おわかり頂けたかしら?」

俺は頷いて応えた。

「よろしいですわ。それで、部室の鍵は後日雅の家へ取りに行く事になりまして、それを貴方に頼みたいのです」

「え⁉俺ですか?」

「貴方は、曲がりなりにも雅が集めた部員の一人でしょう?

わたくしは生徒会長として適任の人材を探していたのですが貴方しかおりませんでしたの。引き受けて貰えますか?」


俺はちょうど今日先輩の家に行く事もあり、裏辻先輩の要件を快く引き受ける事にした。逆に先輩の家に行く口実が出来た事で、事態は好転したとも言えた。

「構いませんよ。引受させて頂きます。あと何か必要な事とかはありますか?」

「それから、もう一つありますわ。

雅が使っていたロッカーの鍵も、出来れば外しておきたいんですの。貴方はこのダイヤルの番号をご存知かしら?」


裏辻先輩は後ろのロッカーに付いている金色の4桁の数字を回して合わせるタイプの鍵を指さして質問した。部活もとい部室で先輩とだべっているときに、帰りの時間になると綴っていた活動日誌、それを、大事そうにしまっていた事を思い出す。

俺は後ろの先輩に小声でダイヤルの番号を聞いた。


「先輩、ちょうどいいタイミングですので今教えて下さい。裏辻先輩に教えてあげないと―――」

「絶対に駄目だ!!」

「え?」

先輩は凄い勢いで首をぶんぶん振って、絶対に教えないと頑なに断った。

「そうだった!死んだ勢いで忘れていたが、あの日誌がまだこの世にあったのだったぁ〜⁉」

「何してんですか?空中でのたうちまくって、そんなにヤバイこと書いてたんですか?」

先輩は虚空を所狭しと転げまくっていた。透明な存在でなければ俺や裏辻先輩にぶつかりまくっているだろう。

「らっくんは、絶対見ちゃ駄目だからな!!見たら絶交する!!見たら深夜私が寝た後ゴソゴソしてる時、見ないようにしてたけど、次から良い所で邪魔してやらぁー!!」


無茶苦茶だった―――

流石に聞き捨てならない発言があったので、裏辻先輩に怪訝な目を向けられる事も厭わず、小声で先輩を落ち着かせる。

「話せば分かります先輩!だから、取り敢えず落ち着きましょう!見ないので、絶対見ませんから!」

「本当だな?」

疑い深く質問してくるが、俺も自分の生活の方が大切なのだ。知りたくないといえば嘘になるが、引き換えに禁欲生活を思春期に送らなければならない地獄とは釣り合わないだろう。

俺は本当ですと、先輩を安心させてから裏辻先輩に向き直った。


「えーと、楽君でしたわよね?大丈夫ですの?先程から何もない場所に話しかけていた、ようですけど‥‥」

「大丈夫、大丈夫です!ちょっと、霊と交信していただけですからッ!ハハハハッ‥‥‥」

裏辻先輩は不審者を見る目で俺を見ていたが、あまり間違ってはいなかった。

俺はこの人とは仲良くなれない運命なのだろうか?仲が縮まっては溝が出来ての繰り返しのような気がする‥‥‥。


「えーと、鍵の番号ですよね、すいませんが俺もよく知らないんです。その中は先輩のものしか入ってないので」

すると、ほぅとやけに色っぽいため息をついて残念がった。金髪の縦ロールが静かに揺れる。

「そうですか‥‥。分かりました、こちらはわたくしの方でなんとかします。楽君も気を落とさずにね?貴方は雅の後輩なのですから、情けないようでは雅が浮かばれませんわ」

裏辻先輩は先輩なりに俺を心配してくれてるようだった。俺は不器用な人だなとどっかの誰かさんを見ているようで、笑いそうになった。俺の後ろでは幽霊が不思議そうに首を傾げている。

―――ふとそこで、気になっていた事を聞いてみることにした。


「そういえば、裏辻先輩はどうして演劇部に入ってくれたんですか?

先輩はあまりそういうの好きそうに見えないんですけど」

「知っていたんですのね?まあ、調べればすぐ分かることですし、隠す事もないでしょう。雅に誘われたからよ。勿論、わたくしは演劇など興味ありませんでしたけど、雅がわたくしを頼ってくれたのは、あの時だけでしたから‥‥‥それでつい名前だけ貸して差し上げたのです。だってあの方、捨てられた子犬みたいな目で見つめてきますのよ?断りづらいったらなかったですわ!」

思い出して納得いかないと言うように、ぷりぷりしている。確かに、その場にいなくても情景が浮かんでくる。


「悪気は無いんでしょうけど、断ったらこっちが悪いことしてる気になりますよね」

「そうなのです!流石雅の後輩ですわね。だからわたくし、たまにあの子が普通の女の子に見える時がありましたの。普段は成績優秀で品行方正なお嬢様って感じですけど、意外とこういう所もありますのねって‥‥」

裏辻先輩は懐かしむように、小さく笑った。

「実際、子供っぽい人ですよ。すぐ怒るし、めちゃくちゃな所もあるし」

「そうなのかもしれませんわね‥‥。クラスの子が知ったらどんな顔するかしら。きっと信じないでしょうね。でも、わたくしは分かる気がしますわ。雅はたまにポンコツな事を言ったりしますから―――でも、妬けますわね‥‥そんな雅を貴方にも見せていたなんて」

「まあ、俺の場合成り行きみたいな感じですから」

裏辻先輩は「そう」と、短くそして優しく呟いた。まるで、雅らしいわねと後に続きそうな感じだった。

俺は不意に背中を軽く押されたように、トン、と胸が圧迫される感覚に陥った。それはまるで涙の一歩手前のようなあの感覚だ。

その正体を俺は後ろを振り返らずとも分かった。なぜなら、俺と先輩は精神的に繋がってしまっているのだ。そうでなくとも、とても小さな嗚咽が千切れちぎれに聞こえてくる―――


「‥‥先輩泣いてるんですか?‥‥」

「‥‥らっくん、うるさいぞ‥‥ずぴッ‥」


どうやら言葉は要らなかったらしい、珍しくつっけんどんな切り返しだった。照れくさいのだろう。鼻をすする音が時折、部室に響きまた何処かに吸い込まれていった。

俺も同じように嬉しかった。先輩のように泣くほどではないが、葵や檜みたいに本当の先輩の部分を知ってくれて、そして愛してくれる人がいた事に―――

だから俺は、この人にしか出来ない質問をする事にした。自分自身を安心させるためでもあったし、これからする享楽な人生への道標になる気がしたからだ。


「裏辻先輩」

「ん、どうしたんですの?」

俺は、たっぷり時間をかけてから切り出した。


「実は、高城先輩が前に言っていたんですけど‥‥‥日記を書いていたみたいなんですよ」

「日記を?雅がですの?」

「はい‥‥そこには、先輩の本当の想いがしたためてあるらしいんです―――」

勿論嘘だった。恐る恐る話を進めていく。裏辻先輩は、俺の真意を測りながらも興味深く聞き入っていた。先輩は、分かりやすく頭上に?を浮かべていた。

―――俺は、冷や汗を一筋垂らしている。作り話は苦手なのだ。‥それでも、裏辻先輩には確認したかった。


「もし、そんなものが残されていたら―――裏辻先輩は読みたいですか。

もしかしたら、現実の先輩と全く違ったとしても―――」


俺は真っ直ぐに裏辻先輩を見つめた。こんな仮定も確認も、なんの意味もないのかもしれない。だけど、聞かないわけにはいかなかった。もしも、これから俺がする事が誰も求めてないなら、誰も必要としてないばかりか迷惑だというなら、俺はなんの為に享楽に生きるのか。

俺は寄る辺なき未来に、ただの一つだけ道標が欲しかったのだ。それがどんなに小さくても、おぼろげでも。

かくして―――口は開かれた。


「‥読みたい。‥‥どんな雅も雅だもの。あの子は嫌がるでしょうけど‥‥それでも‥‥」

裏辻先輩はお嬢様キャラを自分から崩してまで、本心で答えてくれた。そして、そこから先は彼女の―――先輩の友達としての言葉だった。


「死者の特権があるように、残された者にだって数少ない特権があるのよ。

例えば、わたくし達を置いて勝手にどっかへいった女がどんな女か知りたいと思う事。そして、知ろうとする事‥そうでしょう?それに、わたくしは雅のライバルですわよ!最後くらいは黒歴史の一つや二つ暴いて、勝ち誇りたいというものですわ!オーホッホッホ!!」


裏辻先輩は最後は少し照れくさかったのか、お嬢様キャラに戻っていた。しかし、縦ロールから覗く小さな耳は熟れた柿のように真っ赤になっていたのである。

俺はそれには気付かないふりをして、そろそろ先輩に別れを告げるために立ち上がった。


「それではそろそろ失礼します。色々聞いちゃってすいませんでした。でも。ありがとうございました。

日記は、先輩の家だと思いますが流石に借りれないと思うので、諦めて下さい。でも、早速今日先輩の家に行ってみようと思います」

「そうですの。しょうがないですわよね‥‥気を付けて行ってらっしゃいませ」


「はい、また今度」と、裏辻先輩と別れた。約束の校門へと足を向ける。

裏辻先輩の答えは、俺に暗闇に仄かに揺らめく、一匹のホタルの光のような頼りないけれど、確かな光をくれた。

俺は裏辻先輩の為にも、託された想いを叶えようと静かに決意を固めるのだった。

ネテミでした(^^♪

お疲れ様です!


ではまた、水曜日によろしくどうぞ!

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