第11話 再び現れた縦ロール
ネテミです(^^♪
近々雅家に乗り込む予定です
その前に、縦ロールが再び現れそう。
尚、次の話にて縦ロールは登場する模様!
【翌日 高校の昼休み】
俺と先輩、檜と葵は、それぞれのお弁当(先輩の分は、葵が作った)を持って屋上に集まっていた。昨日、ふて寝しようとしている所に、葵から電話がかかってきて、迷惑じゃなければ、この間のお詫びにお弁当を作らせて欲しいと、言ってきたのだ。
先輩は、電話口でかなり警戒していたが、お母さんから鬼のように叱られたため、反省してること、ちゃんと自分のお弁当と同じ献立にすると聞くと、先輩は胸を撫で下ろし、むしろ楽しみにしているのだった。
俺達はそうして4人で、食事を囲むことになった。
―――そして、俺は昨日の話をかいつまんで皆に相談するのだった―――
「そーだったのか‥‥高城先輩がそんな事を‥‥力になってやりたいよな」
「そうだよ、雅ちゃんが可愛そうだよぅ!楽、協力してあげようよ!」
「檜‥葵ッ‥‥。らっくん、私は嬉しいぞ!いい友達をッ、う、もっだなぁーー!」
二人はとても、協力的で先輩は、嬉しさに嗚咽している。
俺は皆の意志を確認すると、安心した。こうなる事は、だいたい分かっていたが言葉にされるとほっとする。
―――俺はまず問題点をあげて具体的な、今後の行動について意見を交わすことにした。
「まず、先輩の声は俺にしか聞こえない―――タブレットを使えば俺以外でもコミュニケーションは取れるが、幽霊がいることを分かっている事が前提になる。だから、先輩のお母さんには使えない手だ。
そして、先輩は俺含めて誰も触れない。ぎりぎり軽いものだったらぼんやり干渉出来るくらいだ」 そこまで、言った所で檜が手を上げて言った。
「あのさ、消しゴムとか箸とかは動かせるんだろ?だったら、高城先輩のお母さんの前で、何か動かしてみれば流石に信じるんじゃねえか?」
「そうだね、私も雅ちゃんが物を動かしているのを見た時、改めて確信したし!」
そう、それは確かに手っ取り早い方法だと思う。しかし、前提条件がいくつか違っているのだ。
「葵は神社の娘だしその上ちょっとあれだろ?檜は、俺が嘘をつかないし、ついてもすぐ自分からバラす事を知ってる―――つまり、特殊な事情とか信頼関係がなければ信じることは、難しいと思うんだ。先輩曰く、かなり生真面目な人達らしいからな」俺は、困ったように言った。
葵は、「そうかー、困ったねぇ」と目尻を下げたが、ん?と何か一瞬不名誉な事を言われた気がして、ハイライトを失った瞳で楽の顔を覗き込んだ。
檜は、面倒くさい気配を感じ取り、話の先を急がせる。
―――なお、先輩は葵のお弁当を美味しい、美味しい言いながら大事そうに食べていた―――実に呑気である。
「つまり、正攻法で高城先輩の言葉を、親御さんに伝えなきゃならないってことだよな?」
「そういうことだ。そして、先輩が言うには、俺が先輩が生きたかった生き方―――享楽に生きることで、何かを伝えられるんじゃないかって言うんだよ。
そして、俺の問題も解決するって‥‥
だけど、それがどういうものなのか俺も先輩もハッキリとしないんだよ」
そう、望みというのは今はまだ叶えられないから望みなのだ。最後まで叶えられなかった先輩と、諦めていた俺には分かるよしもなかった。
―――それでも、今もなお求め続ける先輩の姿が、不覚にもカッコイイと思ったから、俺もそんな自分らしく生きられるんじゃないかと夢想した。
先輩自身にはとても言えないけれど、それが俺の本心でもあった。だから、しょうがないなといいつつ、あてもないながらも―――もし、そんな自分らしく生きられたなら、どんなに素敵だろうと、そしていつか、親父とも打ち解ける日が来る事を期待している自分がいた―――
だったら‥と、檜が口火を切った。
「だったら、色々試していくしかないんじゃねえのか?
その、享楽ってやつをよ‥‥分かんねえもんは、分かんねえんだから、やれる事をするしかねえよ。楽は、もう先輩の事をどうにかするって決めてんだろ?」
檜は言った。
「そうだが、何からやるかも‥‥」
「そんなのなぁ、とにかく足を一歩出せばいいんだよ。それから、一言でも何か言ってみればいいだろ。
‥‥そうすりゃ、後は勝手に続くものがきっとある‥‥そういうもんだよ」
「うん!!それがいいと私も思うな。
‥‥それに、楽には雅ちゃんがついてるし私達もいるんだよ?大丈夫、いざとなったら骨は拾ってあげるから!」
「らっくん、私はいつでも君の味方だぞ?良かったな、こんな美少女が隣にいるだけで百人力だぞ!」
とにかく、考えるよりも動け!なる、スポ根理論に多少面食らうも、確かに下手な考え休むに似たりという格言もある。
現状それしかないというのは、分かっていたが、どこか怖じけていた部分があったのだろう。それを、幼馴染達は目ざとく感じ取って元気つけてくれたのだった。そして、先輩はいつも通りでいてくれる。
口の端に、ご飯粒を搭載しながらこの人は、何を言っているのか‥‥。
こんな締まらないメンツだけど、俺はその心に応えようと思ってしまったのだ。
「‥‥‥そうだな。よしッ決めた!
まずは、実際にあってみることにするよ!後の事はそれからだッ!」
俺は、なにかを吹っ切るように威勢よく高らかに宣言する。
「その意気だぜ楽!」
「私達も一緒に行くから、放課後みんなで行こうね!雅ちゃんもそれでいいかな?」
葵は、例の如く持ってきていたタブレットを差し出すと、直ぐに虚空から返事が帰ってきた。
先輩は、細指を懸命に動かして‥‥
『もちろんだ!!』と、電子板にメッセージを残した。
こうして先輩の為に、いや友達のために同士が立ち上がった。俺達は、食事を終えると屋上を後にしようとした。
その時最後に、葵が口を開く。
「あ、声は?見えないし、触れないけど、タッチパネルは反応するんでしょぅ?だったら、レコーダーで雅ちゃんの声を録音すれば聞こえるんじゃない?」
「確かにな、試してみる価値はあるんじゃないのか楽?」
「あぁ〜そのだな‥‥一応試してみたんだよ‥それ」
俺は明らかにテンションが落ちるのを自覚する。―――実は、昨日の晩茉莉が、帰った後に、先輩の声をレコーダーで録音してみたのだ。
そしたら―――
「そしたら、聞くだけで不安になるような、金属音と人の声を足したような悲鳴が録音されていて、怖くなった」
「うわッ!それはきついな‥」
「えーッ!!何それ、激レア現象じゃん⁉私にも、聞かせてよぅ!」
「らっくん、この二人は反応がだいたいいつも真逆だよな?」
そうなんですよ。見ての通りの凸凹フレンズなんでね。
「今度な、葵が良くても檜はあまり聞きたくないだろ?」
「えー٩(๑`^´๑)۶いいじゃん!!」
「楽舐めるなって、先輩のだって分かってたら怖くもなんともねえよ!」
「ほら、檜もこう言ってるんだしさ、早く聞かせてよ♪」
よく見ると、檜の額からは冷や汗が一筋垂れた気がするが、檜なりに先輩を気遣ったのだろう。俺は、檜の優しさを重んじてスマホの音声データのフォルダを開いた。
まあ葵は、単純に好奇心だろうが―――
「先輩、一応確認しますけど流しちゃって大丈夫ですか?」
先輩は、何でもないように言った。
「大丈夫だ!葵も聞きたがってるし、流してやれ」
俺は、音声再生のボタンをタップした。
やがて声が聞こえ始める―――
「‥‥ギッ‥‥ギギギ‥‥‥‥ぐぁーーーー、ギャアーーーッ、キィーーーーン‥‥‥ブツッ‥‥‥‥‥‥‥‥」
最早声とかではなく、ラップ音だったが葵は興奮して飛び跳ねている。そして、葵にだけ解読出来るのか、可愛いい!と大はしゃぎだ。‥‥可愛いいか?
「葵は置いておいて、確かにこれじゃ何も伝えられないわな。ちなみにこれなんて言ってんだ?」
檜の当然の疑問に俺はたじろぐ羽目になる。つまりは、言い辛い内容。―――昨日の晩ということは、である。
「そんなことは、どうでもいいじゃないか、どうせ分からないんだし!
そんなことより、急がないと次の授業の準備に間に合わないぞ!」
俺は、足早にその場を離れ、この話題を打ち切りたかった。しかし、先輩は邪悪な笑みでタブレットに細指を走らせるのだった。
俺は、どこか先輩と精神的に繋がっているのか、邪悪な気配もとい―――悪寒が背中に走り後ろを向くと、葵と檜が俺を腐ったミカンでも見るような、おおよそ幼馴染に向けるべきで無い視線を、降り注いでいた‥‥。その手にはタブレットが握られている。
俺は、嫌な予感がして―――。
タブレットを覗き込むと―――
『らっくんに、手伝って欲しかったら、俺のメイドになれって言われた。その後、何度もご主人様とか言わされて、録音されたの‥(泣)』
―――なる、とんでも情報が記載されていた。
なるほど、間違っていないけど事実だけ切り取るとかなり凶悪だった。
俺は、先輩が自分のみが被害者のような振る舞いをかましている事に憤りを憶えた。なぜなら、自分も途中から悶える俺を楽しそうに観察しながら、ノリノリで録音していたではないか!
俺だけに見えている先輩は、葵の後ろにまわって俺から隠れる形で、ニヤついている。―――確信犯である。
「楽、お前さ。先輩の事情にかこつけて、そういうことするのかよ?
どうかと思うぜ、流石に‥‥先輩が可愛そうだぜ」
「私もう楽に頼み事するのやめようぅ。見返りに、メイドプレイ要求されちゃうから」
―――四面楚歌。食後のデザートには、ずいぶん重たい幼馴染と幽霊による共同攻撃。
俺はなんとか誤解を解こうとするが、檜は基本的に女性の味方だし、葵は俺のパソコンの中身 (趣味)を把握しているため、俺の声は誰にも届きはしないのだった‥‥。
✱✱✱
授業中、この時も先輩は俺の後ろに浮遊している。
幼馴染との大抵な喧嘩や、食い違いは1日経てば元通りになるのが常のため、俺は先程のことを、あまり深く気にしてはいなかった。しかし、俺は割と根に持つタイプなのだ‥‥。
俺は妄想の中で、先輩をいじめる事にした。今日家に帰ったらまず、おじさんから貰った御札を先輩の周りに張り巡らし、身動きを封じるのだ。
その後少しずつ葵から貰った塩を、ふりかけじっくりと反省させよう。
君が泣くまで、振りかけるのをやめないのである。俺はそんなくらい妄想を実際にやってみたい衝動に駆り立てられる。
次に先輩が悪さをしたら、本当にやってしまおうかと、考えると―――俺は自然と笑顔になってしまう。
―――やはりというか、俺と先輩はどこか繋がっているのだろう。後ろの先輩は、不意に悪寒を感じたらしく、ヒィッ!と背中に何かが走り、首をぶんぶん振って周りを警戒していた。
やがて、それぞれの放課後が訪れる―――。
✱✱✱
聞き慣れた終業のチャイムが校内に鳴り響く。全校生徒の共通の楽しみ、放課後である。
しかし、俺は緊張と共にこの音を聞いていたのだった。この音を聞くということは、このあと先輩の両親とご対面する事を意味する。人見知りの上に、初対面&目上の人という、胃が痛くなる要素てんこ盛りの上に、ミッションまで付随されている。
―――先輩の想いを伝えること―――
そのミッションを思い出し、俺はますます気が重くなるのだった。しかし、幼馴染は俺の方を見ると行くぞ、と急かすように、促してくる。ノリノリである。
先輩も緊張しているのか、いつもより表現が硬い。俺は先輩とは真逆のタイプだと思っていたが、今の先輩の気持ちは手に取るように分かった。表面上上手く付き合えてた親と、腹を割って話す。その決戦を前にした子供の心境など、痛いほど分かるのだった。
だから、俺は努めて明るく笑った。きっと、全て伝わってしまう先輩には筒抜けの虚勢だったが、そんなの関係なかった。
「行きましょう。さくっと終わらせて、先輩には今日の狼藉をたっぷり反省してもらいますから!」
「ッ‥‥‥―――ああ!そうだならっくん、行こうか!」
例えその言葉が虚勢や偽善だったとしても、それを言わせた心はいつだってシンプルなものなのだ。
―――困ってる友達に、何かしてあげたい―――とか、あるいは困ってる女の子がいたらそれは助けるだろ?なる、正義感とかだ。
俺達は洋々と、教室を出ようとしたその時だった。教室の扉は開かれ、そこには自慢の縦ロールを肩で揺らした裏辻先輩が立っていた。
そして、そのまま俺の机の前にやって来て話があると言ってきたのだった―――
ネテミでした!(^^♪
お疲れ様です!