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第10話 脅迫と因果応報

ネテミです(^^♪

少し長めのお話になってます!

楽しんで頂ければ幸いです!


夕焼けが世界を鮮やかに染め上げる時間。学生もまばらな校舎に部活終了のチャイムが鳴り響いた。やがて、日が落ちる、下校の時間だった。

そんな中、暫定的演劇部の部室から帰る影が二つ。


「絶対に訴えてやりますので、覚悟しといて下さい」

「そんなこと、言わないでくれ。良いものを見れ‥違う、これでお互い様ではないか?」

「全然釣り合ってないと思いますけどね」

「そんなに、スネないでくれよ。これでも、私は嬉しいのだ!ようやく、一人目の部員が集まったのだから!」

「いや、俺は入るとは一言も言ってないんですけど」


俺がそう言うと、まるで、薄い本の主人公が如く、悪辣に先輩の口調が転じた。

「良いのかなぁ〜?後輩くぅ〜ん〜?私の部活に入ってくれなきゃ、私の前でパンツおろして見せつけてきたって言いふらすぞ♪」

「あんた、鬼かッ!?」

「優しい先輩に向って、何て口を聞くのだ!私は高城雅だ。言ってみろ、さんはい!」

さあさあ、と地味に期待を寄せる顔で迫られる。


「‥‥分かりましたよ、その代わり俺にも名前あるんで後輩君呼ばわりはやめて下さい。楠木楽です、気乗りしませんがよろしくお願いしますよ、高城部長」


その、瞬間高城先輩の顔が気持ち悪くニヤけた。

控えめにいって、とても怖い。


「ぶ、部長ぉ‥。なんて、甘美な響きだ!楽君もう一度言ってくれないか?頼む、もう一度!」

俺は、ドン引きも良いところではあったがまた、脅されてもたまらないのでリクエストに応えることにした。


「分かりましたから興奮しないで下さい、何だか怖いです!

ほら、さっさと帰りますよ高城部長」

「‥‥‥あぁ‥‥部活を立ち上げてから、この時まで、こんなに嬉しかった時はないぞッ‼この事はしっかりと活動日誌に書き残しておかなくては、楽しみがまた一つ増えたな」


先輩は、何がそんなに嬉しいのか、吹き抜けるような笑顔で前を歩いていく。

俺は、成り行き上とはいえこんな情緒不安定そうな人の部活に入る事が不安だったが、不思議と先輩の子供のような笑顔を見ていると、気にならなくなってきた。


(なんだか、放っておけない人だな)

俺は、率直に思った。それに、何だかこの人と入ると退屈しなそうだし、悪くないかもしれないと、ため息をはきながら渋々、職員室に届け出を出しに行くのだった。


その後、演劇部の部員集めの現状と、顧問さえあてのない状況にを聞かされて本当に大丈夫なのか?と、意外と考えなしの先輩の行く末を案じるのだった。


それが、俺と先輩の出会いで、別れの日の3ヶ月前の出来事だった。

今となっては、遠い昔のように感じる、二人の思い出だった。



✱✱✱

【現在 楠木家】


「わざわざ演劇部を募集したのには、そんな理由があったんですね」

「ああ、私の第二の部屋みたいなものだな。―――でも、それ以上にあの部室で過ごした3ヶ月は、とても楽しかった。

君の前では、【私】でいる必要が無かったからな」


先輩は、昔を思い出すように噛みしめるように語った。

当時、俺はそんなこと考えもしなかった。ただのおかしな先輩だと思ってたし、友達の前とかだとこんなもんなのかなと、思っていたくらいだ。

だけど、そうじゃなかった。あそこでしか、先輩の気の抜ける場所がなかったんだ。

だから、俺なんかが入部しただけであんなにはしゃいで―――演劇部成立に近づく事も含めて―――喜んでいたんだ。


「実は、らっくんが入ってくれたすぐ後に、遙が名前だけだったが入部してくれたんだ!

やはり、持つべきものは友達だな!あまりに、嬉しい事が続くものだから活動日誌が、足りなくなるのでは無いかと、不安になったほどだ」


先輩は、ホクホクとしている。大変機嫌が良さそうだった。


この話は、俺が初めて聞くものだった。まさか、あの縦ロール先輩がそんなことしてたなんて。

素直じゃないにも、程があるだろう。


「まあ、結局人数が集まらず、遥先輩を合わせても3人がやっとでしたね」

「悲しいことになぁ。―――今だったら、檜や葵も呼べば5人でちょうど認められるのに!」


先輩は、残念そうにプリプリと怒っている。きっと楽しかったに違いないと‥‥。

けれど、先輩が幽霊にならなかったらおそらく、葵や檜達とは知り合わなかっただろう。それとも、なんだかんだでつるんでいたのかな。


それは、誰にも分からないことだけど少なくとも、今とは大分違った関係になっていただろうな。

俺は、あり得たかもしれない未来と今を比較してどちらが良かったのか考えてみるがどうにも、自信を持った答えに辿り着かなかった。

俺は、今の先輩との関係に慣れてしまったせいで、上手く判断できないんだと思う。


故に、今はどれだけ考えても答えなど出ない。俺は、先輩の言っていたお母さんの事について踏み込み事にした。


「先輩―――さっき言ってた、お母さんに伝えたい事って―――やっぱり‥‥‥」

先輩は、大きく息を吸うとたっぷりの時間を、つかって吐き出した。思考をその間に整理しているようだった。


「‥‥‥小学校から、幽霊になったあの日まで‥‥ずっと、言えなかったけど‥やっぱり最期くらいは、娘の本当の姿でお別れしたい‥‥だから、そのために‥‥らっくんに会いに来たの‥」


「それって、どういう‥‥。俺の所なんかじゃなくて、直接会いに行けばいいじゃないですかッ⁉‥‥そうすれば、きっとッ‥‥」

先輩は、小さく首を振った。「もう試した」と、短く、力なく呟いた。


「あの日‥‥私は、目が覚めると自分の体が血だらけで横たわっているのを見つけた。ひどく驚いたが、近くの車のミラーに映った、私の姿を見て全て理解したんだ‥‥。

私が、もうこの世にいない事を―――

その後は、冷静だった。自宅に戻ってお母さん達に、私の姿が映らない事を確認したあとは、らっくんの家に行ったんだ」


あの時、それで先輩は玄関の前にいたのか。

俺は、ここへきて納得した。


「それでも、らっくんにさえ見えなかったら、私はどうなるのかなって‥‥とても心細かった。もしかしたら、誰にも気付かれないまま永遠に、この世をさまようのかなって‥‥

でも、らっくんの驚きようを見たらそんなの吹っ飛んじゃったよ。今思い出してもおかしいな!」

「思い出し笑いなんてしないでくださいよ、自分も一度やられてみたら分かります!玄関の前に、人型の何かが、無言で浮かんでるのは最凶に怖いんですよッ‼」

「それなら、らっくんも一度死んだら分かるぞ?どれだけ私が嬉しかったか!

ちょっとくらい、喜びを表現してもいいだろう⁉」

「先輩、そういうツッコミ辛い返しは、やめて下さい。反応に困りますから!

それに、まだ肝心な話をしていません。

‥先輩が直接両親に、伝えられないのは分かりました‥‥でも、どうして俺が享楽に生きることに繋がるんですか⁉」


先輩は、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに鼻の穴を大きくして答えた。

女子じゃなければ、鼻の中に尖らせたちり紙を差し込んでやりたい顔だった。


「今の私が、筆談をしても、何かの仕掛けだと思われる、それくらい真面目な親だからな。

普通に代弁をしてもらおうにも、ふざけてると一蹴されてしまうだろう!

そこで、私は閃いたのだ!‥‥私の事を、素の私の事を誰よりも知る人に、私の想いを託そうと」

「それが‥‥‥俺ってことですか‥‥‥」

先輩は、微笑みながら頷いた。そしてそれは、先輩の事が見える理由なのかもしれなかった。


本当の先輩と、向き合った時間が一番長い人間が俺だった。

でもそれは、たった3ヶ月だ。俺は、先輩の事をそこまで知っているわけじゃない。もちろん、普通より濃い時間を過ごして来たのかもしれないけど、そんな大役を、任されるほどではない。


「俺には、無理ですよ‥‥。先輩の両親には、会ったことないですし、いきなり俺が高城先輩の事を語るなんて、突飛すぎます!」


俺は、まるでなんの取っ掛かりもないナゾナゾを前にした時のように、混乱して停滞した。

そもそも、他人の家の事情に首を突っ込んでもろくな事にはならない。自分だって、順風満帆と言うわけではないのだから。

―――だけど―――


「頼む」


だけど、先輩はまるで答えがわかっているみたいに、上目遣いでお願いをしてくる。それは、檜が時々宿題を忘れた時、俺にノートを移させてくれと頼むような、「わりいィ!」とでも、言うような、親愛のお願いだった。


こういう、調子がいい所は本当にどうしようもないですね‥。

俺は、あいつらのお願いを断ったことはない。そして―――この人は、放っては置けないほど、ポンコツなのだ。

最初から、答えは決まっていたのかもしれない。―――こうして。


「‥‥分かりましたよ!やればいいんでしょう!!

このまま、ずっと先輩に憑き纏われたらそれこそ、そのうち取り殺されそうですし」


「らっくん!!ありがとう٩(๑òωó๑)۶」

「その代わり、俺の言うことは何でも聞いてもらいますよ?」

「え?」

俺は、この機会に悪乗りをする事にした。享楽の第一歩である。


「それは、そうですよね?わざわざ、先輩の望みを叶えてあげるのだから、それなりの対価は支払ってもらわないと?」

「えーと、それは私達の切っても切れない絆の力で、無償でやってくれるんじゃないのか⁉それに、私は‥あまり大きくないし‥」


先輩は、どうせろくでもない想像を膨らませているのだろう、もじもじと顔を赤くしてイヤイヤしていた。

しかし俺も鬼ではない。そこまでじゃなくとも、今までのちょっとした意趣返しくらいはさせてもらおう。


「先輩、観念してください‥少し恥ずかしい思いをしてもらいましょうかぁ?」

「らっくん!言っておくが幽霊になって色々試したけど、この服は取り外しが出来ないのだッ!

だから、らっくんが望むことは私には叶えられないのだ!どうか、我慢してくれ!!」

「あ~ッ‼何でもそういう方向に持っていこうとしないでくださいよ!実は先輩下ネタ大好きっ娘じゃないでしょうね?」

「そ、そんなことないし、らっくんがむっつりスケベなのが悪いんだし」


この透明女め。

俺は、予め考えていた黒歴史の一つや二つ発表して貰う案を、変更する事にした。

―――その結果を想像すると、俺の中のゲスい部分が珍しく騒ぎ出すのを感じる。


「そんな事言って良いんですか?言っちゃいますよ?」

「むぅ〜ん‥‥。いいだろう!!覚悟は出来ている!」

「それでは、今日から明日家に帰ってくるまでの間―――せ、先輩は、俺のメイドになることぉぅ!!」


ぉぉぉぅ‥‥‥。

先輩はポカンと口を開けたまま停止している。

辺りのあまりの静寂に、俺の少し緊張して上擦った声がこだましているのではないかと思った。

そうではないと分かっていても、こんなバカみたいな事誰にも聞かれたくないので、心臓に悪い。

しかし、言ってやったぞ。

先輩は、呆けて口を、阿呆みたいに開いていた。


「‥えーと?それだけで、いいのか?」

「え?」

「らっくんだったら、もっと凄いこと要求されそうだったから、これでいいのかなって?」

な、なんだと?これでも、生ぬるいとでも言うのか。どんだけ、先輩の中の俺は変態なんだ!というよりも、先輩の頭の中がピンク色なだけか。


俺は、先輩のバイタリティに慄いていると―――

「何だか、失礼な事思われてそうだが、要するにらっくんのお手伝いをすればよいのだろう?」

「そうです、ですけどちゃんと呼び方も代えますよ。ご主人様と言ってくださいね?」

「うわ、らっくん趣味特殊ぅ〜」

明らかに、ドン引きしていた。さっきまで貴方が想像していたものより何倍もマシでしょうよ!

しかし、俺はここまで来たからには引くつもりはなかった。それに、あの先輩がしおらしくなる姿を、無性に見てみたくなったのだ。


「良いんですか?そんな事言ってると、協力しませんよ〜、ん〜ん?

俺は別に良いんですけどね」

「ぐぐぅ、し、仕方がないな‥‥」

「さあ、言ってみてくださいよ〜、ご主人様と言ってみてください!出来るだけ可愛い声でねえぇ!」


俺は、悪役になりきっていた。先輩の悔しがる顔が、普段翻弄されている鬱憤を晴らしてくれる。


「‥‥‥ご‥ご主人‥様?‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥なんか反応してくれないと、流石に悲しいのだが‥‥」


俺は衝撃を受けた。

―――正直に言おう、舐めていた。

どうやらギャップ萌は先輩にも適応されるようだった。普段、奔放な先輩がしおらしく恥じらいながら、俺をご主人様と呼んでくれる。

こんなシチュエーションは、お店かゲームの中だけだと思っていた。しかし、リアルに直面すると―――ましてや、知り合いにされる破壊力に―――俺の理性は為すすべを持たなかった‥‥。


「先輩の癖に、奇跡的に可愛いです。もう一度言ってください、録音するので!」

「らっくん、それが物を頼む言い草か!誠意がまるで感じられないぞ!」

「一度も二度も同じですよ!さあ、次は定番の、お帰りなさいご主人様でよろしくお願いします。あんた、演劇部なんだからこれくらい余裕でしょう!

個人的には、さっきよりもうちょっと語尾をあげる感じでどうぞ!」


俺は、いい感じにテンションがあがり、趣味の押し付け―――もとい、演技指導までし始めた。

先輩は、困惑しながらも答えてくれるようで、どうすればいいのか一度やってみて欲しいと、言ってきた。


「仕方ありませんね。いいですか?あまり、キャピキャピしない感じで、恥じらいを残しつつ、相手の目を見上げながら‥‥‥‥」


『‥お帰りなさいませ‥‥ご主人様‼』

「おーー!」


ぱちぱちぱちぱちと、先輩が喝采を鳴らす。

自分の部屋ということもあり、割と全力でディレクションをする。羞恥心という概念は、忘れ去られた化石のように頭の片隅に追いやられていた。


―――では、次は先輩の番‥‥‥‥。


そう言おうとした刹那―――足元に人影が二つある事に気付いた。

一瞬俺と先輩のものと思ったが、よく考えれば先輩は幽霊で影はない‥‥。

嫌な予感を覚え、俺は部屋の入り口に目を向けた。そこには‥‥‥


「‥‥‥兄ちゃん‥‥何やってんの?‥‥」


一切の感情が抜け落ちた茉莉が、じっと俺を見つめていたのだった。

よほど、ショックだったのだろう、泣き笑いのような、声音で確認してくる。

―――そう、どうしてしまったの?と‥‥。


俺はない頭を絞り出して、音速で言い訳を検索した。このままでは、最悪家族会議に発展する恐れがあるからだ。

議題は、【兄が自分がメイドになって、仮想ご主人様にお仕えしている妄想を、部屋で繰り広げていた!?】だ―――控えめに言って、精神的な死だった―――


「茉莉ッ⁉‥‥これは‥違うッ!‥‥これは、演技指導というか、何というか‥‥」

「え、でも兄ちゃん一人じゃん‥‥」


―――そうですよね。

このシチュエーションを上手く説明する解なんて、俺の頭の中には存在しなかった。

もし、逆の立場で茉莉が部屋でそんな事、やってたら―――そういう個人的な趣味があるんだな、としか思わないよな。


「お前の言いたいことも、だいたい何を考えてるかも分かるが落ち着け!

決して俺の倒錯的な嗜好では‥‥」

「うん、分かってるよ。私は家族のプライベートには深入りし過ぎないようにしてるから。それじゃ」


茉莉は、隠すつもりの全くない棒読みで、素早くその場をあとにした。

俺はその去っていく背中を、何も言えずに見送った。膝から崩れ落ちるなんて、経験を人生で初めて味わった。

―――すると、目の前にふわりと先輩がしゃがみこんだ。―――そして‥‥


「ご主人様、元気出してください!」

「ご主人様禁止だぁッー‼」


夜の住宅街に奇怪なセリフが飲み込まれて、やがて消えた。

隣の部屋では、「ひッ⁉」というおそらく、恐怖から生まれた短い悲鳴が、あげられた‥‥‥。

ネテミでした!(^^♪

お疲れ様です!

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