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第9話 出会ったときから‥‥

ネテミです(^^♪


楽しんでいってください!

その時の事を、俺は忘れることなど出来なかった。


当時俺は、仲間内で自分だけ帰宅部である事に、ある種の疎外感を感じていた。

檜は剣道部で、葵はオカルト研究部に所属しており、二人共打ち込む対象をちゃんと持っていたのだ。


そこで、俺は一大決心をして、部活を始めようと思ったのはいいものの、やりたい事などまるで無かった。

運動系は苦手だし、やるなら文化系で探していたが、縛られるのも嫌だった。

そんなふうに考え事をしながら、ふらふらと校舎を彷徨っているところ、あの奇怪なポスターを発見したんだ。


【部員募集中‼】


大きく書かれた文字の下に、蠢いているウサギを吊るしたような生き物と、そのウサギの口元から吹き出しみたいなのが付いていて、そこに「私と一緒に演劇を始めよう!」と書かれているポスターを―――


一瞬葵の部活と勘違いしそうになった。どちらかというと、そのイラストがオカルトチックだったからだ。

けど、同時にいい考えかもしれないとも思った。

演劇部だったら裏方に入ってしまえば、そこまで時間を取られる事も無いだろうと―――

こうして俺は、先輩がいた部室の扉を開いた。


―――しかしそこにいたのは、噂に聞くところの清楚でクールなお嬢様ではなく、地べたを子供のように転げ回り、怪声をあげている謎の生き物だった―――


俺は、入る教室を間違えたのかと思ったけど、勇気を出して、その生物に声をかけた。


「高城先輩?‥‥ですか‥‥」

「ッッッ⁉‥‥‥‥」


先輩は時間を止めたみたいにびたりと動きを止めて、俺を凝視していた。


「‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」


お互いに無言のまま、まるで動物同士が牽制するように目線だけは外さずに様子を伺い合う。―――やがて、最初に行動に移ったのは―――。


「‥ッ君ぃ⁉部室に入る前はノックしたまえよ!今は、その、‥演技中です!」

苦しい言い訳だった。

俺は、なんて声をかけたらいいか分からず、しばらく何も言えずにいた。―――すると、だんだん先輩の顔が赤くなっていき、ついには泣く一歩手前のような情けない状態になっていったので慌ててフォローした。


「あ、あぁそうだったんですね!すいません、いきなりだったので驚いてしまいました。流石演劇部ですね、迫真の演技でした!」

「そ、そうだろう!私も、初めてやったのだが、上手くできたと自負しているッ!」


先輩は、地獄から天国とでも言うように表情を一転させた。俺は、そんな先輩のドヤ顔がムカついて少し意地悪をすることにした。


「やっぱり、高城先輩は勉強も出来るし運動も出来るのに、芋虫の演技も出来るんですねぇ!」

「いや〜後輩君、そんな褒めても何も出ないぞ‥‥‥‥ん?‥‥芋虫?」

先輩は、呆けたように返した。


「え、違うんですか?まるで、本物のよう、いえ本物以上でした!」

「そ、そうだろう!‥私は、芋虫の演技をしていたのだ!やはり、人間だけを演じる訳ではないからな、研究としてだ!」

ズゥビシッ!?と、俺を指差しながら「分かってるじゃないかと」と大変得意気だった。そろそろかな?


「先輩をみて、改めて先輩の凄さを再確認しました!‥‥明日クラスメイトに自慢出来ますよ!」

「ん〜‥‥‥ん⁉」


先輩は、一度納得しそうになったが聴き逃せない、単語を発見し驚愕に目を見開いた。


「先輩の、芋虫の演技はめちゃくちゃリアルだったと。あそこまで、忠実に再現出来るなんて俺尊敬しますよ」

「き、君!気持ちはありがたいが、クラスの子達に話すのは、ちょっと‥‥」

(やめてくれ!そんなこと、されたらもう生きていけない!)

「え、何でですか?練習してたって事はいずれ発表するんですよね?だったら宣伝も兼ねて、学校の裏掲示板にでも張り出しておきますよ?」

「ぇうッ⁉‥‥‥どうしよう‥‥‥ぇぇー‥」


先輩は、顔面蒼白になりながら小刻みに震えていた。

少しやりすぎたかな?と、そろそろ冗談ですよと言おうとした時‥‥。

急に先輩の震えが止まり、悲壮な運命を覚悟した、勇者のような表情を浮かべながら、俺の右手をその柔らかな両手で包み込み、耳を真っ赤にしながら俺を見上げた。

そして―――


「頼む、この事は誰にも言わないでくれ。‥‥そ、その‥君のして欲しいことを何でもッしてあげるから‼‥‥駄目か?」

「ちょッ⁉、先輩‼」


先輩は、泣きそうになりながら、両手をバイブレーションが如く震わせながら、懸命に言葉を伝えて来た、つまりは―――何でもするから黙っていてくれ、なる―――、18禁創作物にありがちな超展開だった。


しかし、俺は薄い本の主人公みたいに「え?いいんですか?じゃあ取り敢えず、その邪魔な服を脱いでもらう事からですかねえ?ぐへへへ‥」とか、言える程度胸もないのである。

だから俺は、さっさと悪ふざけを謝ってこの場を離れる事にした。―――それを伝えるべく、口を開こうとした刹那―――


「後輩君‥‥分かっている。私も、全く知識が無いわけではないのだ。男子が女子としたい事等、ち○ちんに関する事くらいだものな」

「ごふッ⁉」

俺は、口から魂がぬける思いだった。それは、確かな破壊力を持って俺の体を突き抜けていった。


その先輩のあまりに極端な暴論と言う名の真実にか、先輩の可愛らしい口から発せられた別名犬のしつけに用いられる用語にか、今もなお吸い込まれそうになるほど見つめてくる先輩の瞳にか、俺にはそれの正体は分からなかった。

だが、俺にも女の子にそこまでさせるわけにはいかないというヘタレ主人公くらいの矜持は持ち合わせているのだ。


「先輩ッ⁉待ってください、冗談ですから誰にも言いませんから!だから、いったん離れてッ⁉」

「‥ほ、本当か?」

尚も、疑わしい様子で半目で覗き込む先輩。(まずいですって。童貞に、その上目遣いからのジト目は反則級必殺コンボですからッ⁉)


俺は、必死に先輩に説明した。

「信じてください!俺は今日見たことは、誰にも言わないしもう記憶にありません。もう、忘れてしまいましたから!」

「うーむぅ。君がそこまで言うなら信じてみるかな。頼むぞ、絶対言うなよ!」


そう言うと、先輩はやっと俺から離れてくれた。ただ、軽い気持ちで見学に来ただけなのにえらい目にあってしまった。


それにしても、先輩凄いいい匂いしたなぁ。俺は、先ほどの密着を思い出して少し勿体無いことをしたかなと、一寸の後悔に見舞われた。


すると、少し落ち着いた先輩はなにやらじーと俺を見ているようだった。

「えーと、高城先輩?どうかしたんですか」

「あの、後輩君。何故先程から、前かがみになっているのだ?」

「‥‥‥‥おぅ」


女子には、縁もゆかりもない悩みだろうが、美人にあそこまで急接近された童貞が行き着く境地は―――とどのつまりは、下半身への過剰血流放出と言う現象―――つまりは、健全な反応だった。

しかし、それをそのまま説明することなぞ出来る訳もなかった。

押し黙るしか無かった‥‥


その時、キュピーン!?と、高城雅は自分の中に天啓が走り落ちた音を幻聴した。その結果としての、とんでも結論を口走る。


「弱みキタコレッ!?」

「え、どうしたんですか?何で低い体制でガバディみたいに手を構えてるんですか?」

「私は、頭がいいのだ」

「そうみたいですね、部室の扉を開けるまではその認識でしたよ」

「このまま、君を取り逃がした場合いつ秘密を盾に、脅されるか分からない」

「俺はそんな鬼畜な事はしませんよ!」


しかし、今の俺の体制からは、なるほど説得力という概念は存在しなかったが、それでも俺は懸命に弁解を重ねるしかなかった。


「言っただろう、私も無知ではないと、性欲に侵された男は頭ではなく、別の頭で行動すると、しっかり予習済みだ!」

「誰ですか!その、歪んだ性知識を先輩に埋め込んだのは!」

「ネットだッ‼」


いっそ清々しいほどに、ドヤ顔で言い放つ。おかしいな、俺も同じようにネットでこれまで多くを学んできたが、ここまで歪んだ偏りにはならなかったぞ。


つまりは、先輩自身に偏りがあると、俺は断じた。だが、そんなことよりも一番重要な問を、先輩にしなければならない。


「先輩、色々とツッコミたいですけど、取り敢えず今何をしようとしてるか、聞いてもいいですかね?」

「こ、後輩君ッ⁉私に突っ込める所などそんなにいっぱいはないぞ⁉」

「他意はないですよ!!」

驚愕にのけぞる先輩の発言を、俺は力の限り否定した。

分かった、この先輩は耳年増だ。


「ほぅ、良かったぁ。‥‥安心したぞ。そして、何をするかだったな。知れたことだ、私と同じように恥ずかしい姿を晒して貰うのさ。これで、弱みを握れるし部員も増える、一石二鳥ではないか!」

「アホだ‥‥‥」


俺は、あまりの戦慄についに言葉に出していた。あまりにアホらしい、結論に頭が痛くなるが、依然としてピンチな自分の状況を考えると更に心臓までもが痛くなる。


「先輩、女性でもセクハラは成立しますよ?たかが、先輩の自業自得恥体を見せられた挙げ句、セクハラを受けなければならない道理が何処にあるんです!」

「貴様、ついに私を怒らしたな⁉たかが、とはなんだめちゃくちゃ恥ずかしかったんだぞぅ!美少女に恥をかかせた罪を天井のシミと一緒に数えろぉ‼」

「キャァーー〜〜〜ッ‼‥‥‥」


自由に動ける先輩と、及び腰の俺とでは機動性に致命的な差があった。俺は、ホロリと涙を流し先輩の思うがままにされるのだった。

ネテミでしたʕ•ٹ•ʔ


お疲れ様です!

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