第5話~真相的なアレ~
「ん、んうううう。ここは?」
まるでホテルのような部屋のベットの上で寝ていた咲良は目を覚ました。
「目が覚めたか、咲良」
ジャージ姿の若い男が部屋に入ってきた。
「...!真希くん?どうしてここに?」
目の前にいた男はなんと、同級生"縁川真希"だった。
「ごめん、少しの間ここにいて欲しい。」
咲良は状況が理解できなかった。ただ、普通ならここで大声で助けを呼んだり、逃げ出そうとしたりするが、咲良はそれをしない人間だ。
もし、出てきた相手が知り合いでなければ間違いなく叫んでいただろう。ただ、相手がクラスメイトだということと、真希の表情を見て咲良は何か事情があるんだと察した。
普通なら恐怖で焦りだしてもおかしくない状況下で焦らず冷静に判断することが出来るのは、咲良特有の能力である。
しかし、実際のところいくら咲良が冷静な判断ができようと今自分は、誘拐されたわけで今まさに監禁状態だということを忘れてはいない。多少の恐怖はあるだろう。
「少しの間って、どれくらいなの?」
咲良は落ち着いた様子で質問した。
「......わからない。でも、早く終われば、今日中にでも帰すよ」
「終わればって、一体何が終わればなの?」
咲良は少しキレ気味に聞いた。
「大丈夫!君に何か危害を加えようってわけじゃないんだ。君のお兄さんに用があるんだ」
「お兄ちゃんに?」
「そうなんだ、、、僕の妹が用があるって言ったらわかるかな?」
「!!」
咲良は全てを理解した。自分を攫った理由も真希の妹がこれから何をするのかも。
「でも、どうして私を誘拐したの?」
「君は、凜と君のお兄さんのことを思い出されるためにわざと恋人の振りをして、凜が呼んでいた呼び方で接してくれてたんでしょ?凜のために、、、」
そう。咲良は最初から彩を恋愛対象として見ていない。凜と彩は昔両想いだったのだ。しかし、忘れてしまった。だから、咲良は自分自身を犠牲にしてまでこんな事をし続けたのだった。
2人は深刻な顔で話し合っていた。
「お兄ちゃん、ちゃんと思い出せるかな?」
「それは、君のお兄さん次第だよ。」
「お兄ちゃん、凜ちゃんとの思い出あれのせいで全部忘れちゃったもんね。」
「うん、でも、あの時は仕方なかったことだと思う。お兄さんは悪くないよ」
「お兄ちゃんには本当のことを知って欲しい。そして幸せになってくれるのが1番だよ」
「僕も、そうなることを願うよ」
2人はどうすることも出来ずただ何かを願っていた。
彩は今、せっかくの日曜日なのに何にも気が向かないままぼーっとしていた。一方で凜は、何かを決心していた。
「お兄ちゃん!凜ね、行きたいところがあるんだけど、連れて行ってくれないかな?」
凜は、ぐうたらしている彩を動かそうと声を掛けた。
「行きたいところ?」
そう彩が言うと「うん!すぐ近くだから、ね?」
お願い、と幼げにおねだりしてくる凜は凄まじく可愛かった。
「分かった。でも、どこに行きたいんだ?」
すると、凜はイタズラな笑顔で「ナイショだよ」と、そう答えた。
言われるがままに彩は家を出て、凜の目的地へと向かった。行く先々が行ったこともない道を通っている。
家を出て10分程歩いた時にはもう、町外れの方に向かっていた。
それから、5分くらいだろうか。凜に引っ張られ見えた先には1つの階段があった。かなりの高さがあった、軽く50段以上はありそうだ。
「なぁ、これを今から登るのか??」と聞くが、当たり前だと言わんばかりに「そうだよ」と言った。
彩は凜と50段以上もある階段を登った。
登っていく最中、彩はふと一度ここへ来たことがあるんじゃないか、と思った。しかし、詳しく覚えていないため、どこか別の場所と間違えているんだろうと思い込んだ。
一方凜は、これまでの笑顔は消え真剣な表情で階段を一つ一つ登っていた。凜は内心こんな事を思っていた。「もしかしたら、この場所を見せれば、私の事思い出してくれるかもしれない」と...、、、。
2人がそんなことを考えているうちに階段はもう登りきっていた。2人が目にした光景は、ただただ美しい夕焼けだった。現在の時刻は丁度16時30分を回っていた。
彩はこの光景にどこか懐かしさを感じていた。
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「ねぇ、知ってる?あの丘の上で祝いの日にキスをした二人は結ばれるって話」
「--------------」
「もう…!女の子にとってはすごい憧れの場所なの!」
「---------」
「はぁ、君だっていつかは分かる日が来るよ」
「-----------」
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「!! そうだ。たしか俺は、ここで誰かと話してた。君によく似た女の子と」
その言葉を聞いた凜ははっとした表情で彩を見た。
恐る恐る凜は彩に話した。
「もしかして、思い出してくれたの?私と私との思い出」
すると、彩は笑って言った。
「うん、思い出したよ。何もかも全、どうしてこんな大事なこと忘れてたんだろ。。。
凜、ありがとう。」
凜はこれまでにないくらいの笑顔で笑った