三十、たった1人も守れない!
フィアのファイアウォールが消え始め、ジェーンの作った光の壁の明るさが際立ち始める。男は何度か透明な壁を叩いて割れないと分かると舌打ちしながら回り込むために走り出した。
無我夢中で直線を走る。
少女は腰が抜けてしまったようでヘタレこんでしまった。
「大丈夫か!?」
間に合った……! 少女に肩を掴んでもら――――
「クソが……何だこの壁は!」
声をした方に顔を向けると男は悪態をつきながら立っていた。
さすがに離脱まではいかないか……!
だが、一対一なら……!
「もう許さねぇ……《ストップ》!」
うっ!?
体が……動かなくなった!
この前の奴だ!
「死に晒せぇ!!」
やばい刺される!!
この前みたいに動け――――!!
乾いた金属音が響く。懐のナイフを取り出せた!
「な……てめぇ魔法剣士かよ!?」
「生憎魔法剣士だとかなんだとかは知らないが……全ステータスカンストなんで……ねっ!」
男の腹を強く蹴る。男は奥の暗い林の中まで見えなくなるほど吹き飛んでいった。
死ん……ではない……かなぁ……?
ちょっと自分でも自信が無いな。
「お父さん……」
少女は小さくその言葉を呟いた。
もう大丈夫だ。お父さんの所へ帰――
「あぁぁっ……!!」
少女は呻く。痛みに。
喉に赤い印――!?
「フィア! ジェーン! 来てくれ!!」
仲間に助けを求めたその横顔に何か液体がかかる。指でそれを掬い取って何気なく光の壁に照らすと、赤い、何かだった。
赤い、液体。
――――血?
それに気が付いた時、時間が止まっていたかのように少女は絶叫を上げた。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
え……なんで?
敵は倒した。居なくなった。何故?
それは、見たことのない人の姿だった。
「痛い!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
何かが吹き出す。飛び散る。失っていく。
俺は……俺はどうすればいい?
「《ストップ》・《スロー》・〈スラッシュ〉!? なんて悪趣味な……!!」
「《ヒール》! 《リジェネ》! 《ヒール》! 《ヒール》!!」
仲間が来て処置をしていたことにすらしばらく気がつかないほどのショックを受けていた。
結果として少女は生き延びた。致命傷の攻撃を時間差で与えられた少女に対してジェーンが必死に回復呪文を唱えてくれたからだ。その間にフィアは火の壁を周りに放って残党を寄せ付けないように見張っていた。気づけば残党も姿を消していた。
その間……俺は何も出来なかった。雑魚を蹴散らすことは出来ても特殊な方法で攻めてきた相手に太刀打ちできない事を何度も反芻した。
もっと俺に力があれば……単純なパワーじゃない力。
魔法の使い方、いや、回復の魔法の使い方。強化魔法。
人を守る力があれば……こんなことには……
俺は……勇者に選ばれた……か。
これもまた呪いだ。
慢心した。
力だけが全てじゃないみたいだ。
調子に乗っていたかもしれない。この世界に来た時のように。




