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二十二、1発だけでも殴らせろ!

「イ、イチさ……っ……!」


「落ち着け! 落ち着いて対処するんだ!」


「無理、無理、無理、無理」

「詰みなんだよキミら。詰み。そろそろ立場って奴を分からせるか」


 一人の男が俺に近づいて拳を握った。

 殴るつもりか……!


 くそ、確か魔法力が高ければ拘束してる魔法だとか呪文だとかを何とかできんだろ……魔法よ解けろって念じたら解けねぇか……!


「歯ァ食いしばれ!」


 やばい! 来る!

 !! 腕が動く! 間に合え――!!


「へぇ、生意気じゃん」


 息が詰まる。拳を受け止めた。

 躊躇がない。俺が死ぬ寸前に見たあのチンピラ共を思い出す。あいつらも俺を殴り殺すことに何の躊躇もなかった。俺が死んだ時、()()()()()()としか思ってもないんだろう。それすら考えていたかも怪しいが。


 ……なんで俺は今、死ぬ前のことを思い出してんだ。もう過去のことなのに。


 そうか、悔しかったんだ。

 あんな理不尽を擬人化したみたいな奴らに殺されたのが。

 こんな理不尽みたいな状況が。


「クソが!」


 自分の声とは覚えないドスの効いた濁った、だが高い声。

 今はそんなのは関係ない。目の前にいる理不尽を殴り倒すだけ!!


「!? は――――」


 ベッドの毛布から拳を飛び出させる。毛布を吹き飛ばしながら、身体を強く起こしてその勢いで目の前の理不尽な相手の顎を殴り抜けた。

 ガクッと崩れ落ちる男。

 これが人を殴る感覚……いてぇ。


「っ、てめぇ!」


 背後から声がしたので上体を逸らす。

 目の前を男の腕が通り過ぎる。その腕を掴み、片足をずらして向き直し、もう片方の腕を男に向けて突き出す!


「ぅぐ――」


 一撃。腹に受けた衝撃はその男が今までに受けた攻撃や呪文の威力を遥かに越えていた。意識を手放すのに一秒もかからない。


 なんだ……?

 何故か身軽に動けている気がする……

 奴らがさっき言っていた「得意ステータスと不得意ステータスの逆転」……まさか全てのステータスが不得意な俺のステータスを全部得意ステータスに変えてしまったのか?


「お前俺のダチに何しやがる!」


 ダチ……? そもそもお前らが俺らに何してるんだって話だっつの。

 あいつ何か手に取って……俺のナイフ!?

 さすがにナイフは危険だぞ! 近くに俺の装備の盾もあるはず……手に取れれば……!


「〈ファイア〉」


「なっ――ぐぁぁぁぁ!!!」


 フィアも動けるようになっていたのか!


「うぅぁああ! あぁああぁ!」


 男は……宿屋の主人は体を燃やす炎をかき消そうともがいた。ナイフを捨て体を掻き毟った。命に危機に過呼吸になってしても火は無情にその身を焼き尽くそうとしていた。

 もう何でもいいから命だけは――男がそう感じた時、炎はふっと消えた。

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