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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 砂漠の塔 第一節 最初の依頼
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2-1-5.「跡目争い? この盗賊団の?」







「跡目? この盗賊団の?」


「そ。さっきあたしの父さんに会ってもらったでしょ? 髭の大男。あれが今のミルレンダインの頭領で、あたしと、その幼馴染が戦って、勝った方が次の頭領になるって話なんだ」


 ああ、あれはこの盗賊団の頭領だったのか。確かに貫禄がものすごかった。


 そういう話なら、俺があの男に検分されたのは、まあわかる。それで一から十まで納得がいくかって言ったらそりゃまた別の話だけど、とりあえずあの男の前に出された理由は理解はした。


 今最優先でわからないのは、もっと別のこと。


「それで、なんで俺が戦うんだ?」


「しきたりだから」


「だからどんな!」


「怒鳴らないでよ。普通に言ってくれれば聞こえるって」


 ……怒鳴らせないでくれよ。


「ミルレンダインをまとめるのは、ミルレンディアとダインの二つの血筋。それぞれの次期頭領候補の二人が、団の外で信頼の置ける相手を見つけてきて、二体二で勝負して決着をつける。そんで、勝った方が頭領、負けた方が副頭領になるってしきたりってわけ」


「団の外から? 信頼の置ける相手を? なんでそんなめ――、……複雑なやり方を」


 面倒なやり方、と言いかけて言葉を代える。実際面倒だと思ったけど、他所様のしきたりに口出すなんて行儀のいいことじゃない。


「外の風を入れるため、らしいよ。あたしもめんどくさいと思うけどねー」


 あははと笑って片目を瞑る。あ、しまったごまかせなかったか。


 まぁでも、確かに外に出るにはいいきっかけだったかしらね、なんて。大きな胸を揺らしながら、シーラはけらけらと朗らかな声で笑う。出不精だからなかなか街まで足が伸びなくて、と言い訳っぽく話してくれたけど、そもそもここの連中がどれくらいの頻度で外に出るのかがわからず、頷くのも笑うのも、フォローするのも難しかった。


「その、ええと幼馴染か。そいつが連れてくるのが女だってのは、決まってるのか?」


「……え?」


 何気なく聞いたこと。どうやらその、アグロとかいう幼馴染は男らしいので、筋力差のバランスを取るためとかで必ず異性を選ばなきゃいけない決まりがあるのかな、とぼんやり湧いた質問だ。


「あ、……あたし、女だとか言ったっけ? あはは、思い込みかも。アグロって滅茶苦茶女好きだからさ、どーせ女連れてくんだろーなってね」


 だって言うのに、受け応えるシーラの様子はどこか言い訳がましい。俺はそいつのことは何も知らないし、シーラの勘違いなら別に構わない。ツッコんで聞くのはやめておいた。


「と、とにかく! そんなわけで、あたしがこの団の次期頭領になるために、あたしと一緒に戦ってほしいんだよ」


 話を戻してシーラはむんと胸を張り、立った姿勢からこちらを見下ろしてくる。


 随分偉そうな態度を取られ、ちょっと苛立ちを覚える。雇用主と被雇用者、契約関係なんだから立場は対等? こいつは俺を下に見てるのか、どうせ大した実力じゃないって舐めてんのか。だとしたら、そもそもなんで俺を選んだんだよ。


「もう一度聞くけど、俺に声をかけた理由はなんだ?」


 どうにも釈然としなくて、つい理由を問い質しちまった。


 シーラはその質問の意図がわからなかったらしい。ぽかんと口を開け、なんでそんなに拘るの?とばかりに眉間に皺を寄せている。


「なんで、そんなに拘るのさ?」


 あ、口にも出された。


「俺の実力も人柄も、全くなんにもわかんないんだろうに、何で俺にこの仕事を任せようって決めたのかなって。例えばほら、ハナから負けるつもりで勝負に臨むつもりだとか?」


 ただ思い付いただけの例え話。だったんだけど、聞くやシーラは鬼神のごとき形相でこっちを睨み付けてきた。腕組みをし、ぐっと顔をこっちに近付け、まるで人ではない扱いを受けたかのような、我慢の余地のない怒りを表情に乗せて。


「ふざけないで? あたしが、真剣勝負でわざと負けるような犬畜生に見えるっての?」


「あ、や、例えばだよ例えば。何かそんな、勝負を投げ槍にする事情でもあるのかなって」


 どうやら俺の不用意な発言は、彼女の中にある怒りの感情線を大きく弾いてしまったらしい。わざと負けるってのは、盗賊たちにとって有り得ないことなのか、それとも彼女にとっての確かにタブーか。


 あたふたと焦っていると、シーラは大きく溜息一つ。まだ感情的には沸き立ったまま抑えきれない部分もあったみたいだけど、とりあえず表情を緩めて話を続けてくれた。


「投げ槍になんかしてない! グァルダードでも言った通り、あたしは、あたしの直感に従ってあんたを選んだ! あんたは腕が立つ。それに性格も普通にいい。人を見る目には自信があるんだ。それで失敗したら自分の責任、だけど。今の段階で失敗した、なんて欠片も思ってないよ」


 今度はしゃがみこんで。俺の顔の、すぐ目の前に微笑んだ顔を寄せて。


「あたしは勝負に勝つためにあんたを選んだの。あんたはアグロより強い。なんなら、あたしが街で見かけたどのレルティアよりも強い。あたしがそう見立てたの。あんたはあたしの目にケチ付ける必要はない。ただ黙って、証明してくれりゃいいんだよ」


 息のかかる距離で、垂れ気味の目を細めて、挑発してきやがる。


 ああそうかい。心の中で答える。じゃあ、お前のその偉そうな態度は、要は俺を見下してるわけじゃなくて、ただの性格ってだけかい。


「ったく。まぁでもそこまで買ってくれてんなら、俺も期待に応えないといけないな」


「当然。金は払うんだから、あたしに損させないでよね?」そして立ち上がり、人差し指を立てて簡単に付け足す。「前金十万、成功報酬プラス五万。さらに出来高で追加報酬も検討するよ。どぉ?」


 この国の通貨単位は確かエニ。一ランス五エニだから、十五万なら三万ランス。サリアの物価でも一か月は暮らしていける金額だ。相場は知らないけど、自分の懐に入ると想像したらちょっとした大金。額については問題ないと、俺は二つ返事で了承した。


 立ち上がって、シーラの手を握る。契約成立。その印だ。




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