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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第二十節 (章題未定)
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2-20 断節 ゼノン・エイド=エンポリル.2







 剣を構える。右手一本、仁王立ち。


 対する女はゆるゆると腰の剣を抜き、まだにやついた口許で、それでも敵意を俺に集約させてしっかりと構えた。右足を前に出して腰を落とした、隙の無い、特徴もろくに無い構え。


 同時に、床を蹴った。


 俺の剣は大振り。


 大上段から大きく振り下ろす。


 右側に避けたデリダ。俺の背中を取ったつもりか。


 ニヤと笑って突き出す剣を、瞬時に引っ込め防御の姿勢に変えた。


 振り下ろした大剣を横薙ぎに振る俺の二撃目が先。


 ただこいつの判断も早い。守りが成功、俺の攻撃はデリダの体を三カイル程吹き飛ばしただけに終わった。


 今度はデリダの攻撃。吹っ飛ばされた着地の足、その足で即座に俺との距離を詰め直し、今度こそ剣の切っ先を俺に向けて突っ込んでくる。


 けど、甘い。


 弾くのも面倒、ほんの少し肩を竦めてその軌道を避け、デリダの懐に潜り込む。


 剣の柄を左手に任せ、握った右手をがら空きのどてっ腹に打ち込もうとして。


「――っ!」


 こっちも反射にゃ自信がある。


 避けられた突きを振り上げ、今度は肩に振り下ろそうとしてくるデリダの剣。


 俺は右手の予定を変更し、腹を諦めて振り下ろされるデリダの左腕の肘辺りを殴り上げた。


「くっ」


 表情を歪め、距離を取るデリダ。


 追撃しても良かったけど、正直、そこまで気が乗ってない。


 一度離れて、意気を整える間を、与えてやることにした。


「偉そうなこと言ってた割に、全然じゃねーか。その程度で俺の足止めができると思ってんのか? 番犬よぉ」


「……あんた、ウェルと同じくらいの力量じゃなかったのかい?」


「あ? ふざけんなよ。俺のが強いぜ? ……まぁ、ウェルの野郎も俺といい勝負ができるくらいにゃ強いけどな」


 反射的に声を荒げ、一つ落ち着いてあいつのフォローを入れてやる。優しいなぁ、俺。


 そんな俺の気遣いがどう映ったか。デリダの野郎、焦燥を隠し潰すような強張った笑みをその面に貼り付けてくる。いちいち癪に障る女だ。


「ち。そんなら今度はこっちから行ってやるよッ」


 舌打ちをできるだけ大きく一つ。両手で剣を構え、右の(はぎ)に力を溜め。


 床を蹴って、まっすぐデリダに大剣を振り下ろした。


 左に身体を投げ出し、一撃を避けるデリダ。


 剣圧で床が砕け、細かい礫があちこちに散る。


 デリダはそこからさらに二、三度跳び退って距離を取り、体勢の立て直しを図ってゆっくりと腰を上げる。


 そしてもう一度剣を持ち上げた俺のところに、また駆け寄って剣を突き出してきた。


 素直な足取りだが、そのまま真っ直ぐ打ち込んでくるとも思えない。どこかできっと奇を衒ってくる。そう警戒しながら、ひとまず正面を守った。


 拍子抜けするような策。


 デリダは近付けるだけ近付いてから、左手に隠し持っていた石を俺の顔目掛け投げつけてきた。


 ふざけんじゃねぇ。俺は頬に当たる石礫を無視して、デリダの剣だけをしっかりと追う。石の後を追う角度に直った片刃の剣。投石で視界の隅を赤く染められたが、俺は気にせずその刃を手持ちの柄で受け止めた。


 虚を突かれたような表情を見せ、デリダはまたすぐに距離を取る。


 こいつ、つまんねーな。改めて感想した。


「……一瞬も隙ができないなんて、あんたどういう顔面してんの」


「別に顔面だけじゃねぇ。石が当たったくらいの打撃なら、いちいち避けたりなんてしねーよ」


 愕然としてるデリダに涼しく言ってやる。


 そういやウェルやシーラも驚いてやがったな。魔法の火が全然利かねぇって。俺からしてみりゃ、あの程度の攻撃なら避ける方がめんどくせーんだけど。


「で? まだやんのかよ」


 剣の背を肩に乗せ、とんとんと叩きながら、デリダに聞く。


 デリダは苦々しく笑った後、観念したように首を横に振った。


「これ以上やっても無駄だね、降参だよ。全く、ウェルとだったらもうちょっとまともに戦える自信があったんだけど」


 冗談のつもりだったか、でも俺には面白くなかった。あいつの肩なんか持つつもりなかったけど、俺が認めた男がこの程度の女に甘く見られるのは腹立たしい。


「あいつだって、俺に匹敵するくらいにゃ強くなってるぜ。テメェが弱いだけだ」


「嘘。前にやったときはいい勝負くらいはできてたのに」


「あいつは強くなるためにここに来たんだ。半年前とおんなじわけねーだろ」


 はぁ、そっか――。溜息交じりに呟く言葉は、どこかに自嘲が混ざっているように感じた。自分が怠けてたことに対する嘲りか。聞いてて嫌な気にはならなかった。


「さぁ、聞かせてもらうぜ?」左手で右頬を拭い、手の甲を赤く塗る。そしてその拳を強く握り締めながら。「力尽くなら喋るって言ったのはテメェだ。これ以上だんまりなら、こっから先は勝負じゃなく拷問だぜ?」


「物騒な奴だね。誰も言わないなんて言ってないだろ」


 脅したつもりも、涼しい顔で躱される。胆力は大したもんだ。




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