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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第二十節 (章題未定)
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2-20 断節 ミディア・アバディア.2








「よわ……」


 思わず知らず、本音が漏れた。


 見上げたけど、セーラも感想は大きく変わんないみたい。張り巡らせた魔法の網の操作に集中してるかと思いきや、私の無意識かつ紛れのない正直な感想を、うんうん緩やかに頷きながら聞いている。


 高さ八メトリ程の大岩の上、更にそこに乗る一メトリちょっとの大きさの岩の陰に隠れながら、立って戦況を隅々まで見詰めているセーラ。這い蹲って必死に頭を低くしながらこそこそ景色を眺めている私。見えるものがどれくらい違ってるのかはわかんないけど、感じていることはそう大きくは離れてないって、何となく伝わってくる。


 だからこそ、何で私がここにいるんだって疑念が、むっくむっくと容赦なく膨らんでいく。


「……やっぱりあの倉庫の壁、邪魔ですねぇ」


 ぼそり呟くセーラの愚痴は、愚痴って言うより私への会話の切り口。そんな風に聞こえてイラついて、私はすぐには返事してやらないことにした。


 白い壁に囲まれた倉庫跡。二つの軍勢が集まったのは、壁の大穴の前辺り。


 攻める連中は五十人って聞いた。あれで五十人くらいなのかと、人影を眺めて感心する。守る黒布のヴォルハッド団は、その倍くらいいるように見えるので、百人くらい? 百二十いるかな。まぁ、とにかくたくさんよ。


 考え足らずにツッコんだように見えた攻城連中は、実際は考えが足りないっていうよりそもそも無かったみたいで、黒布たちに誘い込まれるように囲まれて後は一気に劣勢になった。


 圧倒的劣勢のこの状況。それでもこの考えなしの雑魚たちが、まだ潰滅の憂き目にあってないのは、ひとえにこの大岩の上で魔法の風を操っているセーラのおかげ。剣を構え、弓を引き絞る黒布たちに実に細かく風を浴びせ、砂粒を吹きかけて邪魔をしてる。


 やっぱコイツ。すごいんだわ。


 湧き上がった感嘆を、けどすんなり口に出してやるのもなんか悔しい。なので結局、聞かせる言葉は憎まれ口になる。


「……やっぱり、あんた一人でどうにかなったんじゃないの?」


「どうにもなりませんよ」


 即答された。


「私一人ではどうにもなりません。今できているのもちょっとした時間稼ぎ程度。ゼノンたちが内側から敵を攻略するまでの余裕を作るのは難しいでしょう」


「連中が弱すぎるから、ってこと?」


「それもあります。それに、ヴォルハッドの方々も、このままの状況が続いたとしたら何かしらの策は打ってくるに違いありません」


 そう語るセーラは、まるで目線をこっちに向けない。いつものようにふわふわした雰囲気を背中からは発しているくせに、その目は、いやその五感全てを眼下の戦場に注ぎ、ほんの少しの状況の変化も見逃すまいと集中している。


 それに気付いてみると、いつものほわほわした雰囲気さえ、油断させて返り討ちに遭わせるための罠、のように思えてきて嫌らしい。


「けど、結局そこは私がいてもいなくても変わんなくない?」


「そこについては、ですね。ミディアさんにお願いしたいのは、もっと別のところですから」


 戦場から目を離さなかったセーラが、私の皮肉にちらとだけ目をよこした。


 別に笑いかけてきたわけじゃない。うん、あの顔は、むしろ私に圧力をかけようとした顔だった。


 油断があったんだろうか。


 その一瞬、私に圧力をかけようと目をこっちによこしたほんの一瞬の後、セーラの横顔が今まで見たことないくらいに強張るのがわかった。


 反射的に、私も戦場を見る。


 けど、私が覗き込むのを許さない勢いで。


「隠れてくださいっ!」


 セーラの声が、背中に降りかかった。


 隠れるったって……。私は慌てて、辺りを見回した。


 セーラの立つ場所から離れろって意味なら、他に隠れられる場所はすぐには見つからない。小高い岩場。下手に動き回ったら足を滑らして落ちちゃうかも――。


「え。なにあれ」


 覗き込んだ岩場のふもと。ひょいひょいと身軽な動きで、凄まじい速さで登ってくる奴がいる。


 見覚えがある。ひょろ長い手足。金の短髪。……あれ、あのヤバい奴じゃないの?


「早く、こちらへっ」


 身を隠せずにいる私を見かねたか、セーラが私に手を伸ばす。


 背筋を弄ぶ焦燥感に体を震わせながら、それでもどうにか立ち上がって、セーラの手を取った。


 ようやく握ったセーラの手。けど次の瞬間には、その手を離され胸を弾かれて岩の上に転がされた。


「な……っ!」


 何すんのよ、と叫ぶ言葉は、伸ばされたセーラの腕に走る二筋の傷を見て霧散する。


 私とセーラの間、鋭い鎌鼬が走っていったみたいだ。


「ちょ、ちょっと大丈夫っ?」


 反射的に声が漏れた。


 大丈夫です。セーラは一言、答えてくれたけど、目線は依然下の方。負傷した腕の甲を擦りながら、本当に珍しい、苦い表情を顔に貼り付けている。


「逃げた方がよくない?」


 震えた声で聞く私。


「ええ、ですが……」


 答え淀むセーラの、言葉の最後を待つことなく、耳をつんざく破裂音が辺りに響いた。


 岩の破片が足許に飛んできて、びくりと体を震わせる。


「ケけ。いたネいたネ! こんなトコから狙ってる覗き屋がいたネ!」


 言葉の後から、視界に指先が現れた。




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