第八話 ほぼ間違いなく奴隷だろ
おっさんが「何言ってんだ?」と言い、人差し指でこめかみ辺りをトントンと叩きながら馬鹿にした態度を取る。
「村の連中に頭でも弄られたか?」
「何故?」
「私の人生と聖者の涙一個が釣り合うと思ってんのか?」
「当然。あと三十年もすれば寿命でくたばるだろ?」
「……あんた、私をいくつだと思ってんだ?」
「五十後半」
「あんたの目は飾りか? 私はまだ三十四だ」
顔は被り物で見えない。指は手袋で見えない。上着が厚くて体型が分からない。
こんな人間のどこを見て年齢を判断すればいいのか俺には分からない。少なくとも飾りだと言われる筋合いはない。
「歳なんてどうでもいい」
「……あぁ、そうかい。ま、あんたに歳をどう見られようと、例えあと三十年しか生きられないとしても私の人生は私のものだ。くれてやるつもりはない。他を望め」
聖者の涙ひとつで人間の人生を買えるとは思っていない。当然の返答だ。だから、次に望むものも既に決まっている。
というよりも俺が望むのはこっちだ。
「なら一年で構わない」
おっさんの表情は見えないが、おそらく驚いてるだろう。たった一年でいいのか、と。それが狙いだ。
初めに無茶な要求をし、それが通らなければ本当に望んでいたものを要求する。すると大体の場合望んだ結果になる、はずだ。
「一年か。まあいいだろう」
上手くいった。
そもそも聖者の涙を売ったのは俺の判断だ。原因がおっさんにあるとはいえ、おっさんが責任を取る必要はない。
俺からの依頼の失敗。この責任だけを取ればいい。
その程度の責任なら、その辺から動物を捕まえてまた帽子でもなんでも作ればそれで終わる話だ。
それを、俺は一年間この男を自由に扱える権利を手にした。
「なら今から一年間お前は……あれだ。……俺にとって都合のいい人間」
「あぁ、従者みたいなもんか?」
「あぁ、奴隷だ」
「は?」
「え?」
「…………」
「…………」
不穏な空気が流れる。
何故無言になる? 分からない。お前は今何を考えてる?
「言いたいことがあるなら言え」
「いいや、ないな。あんたの好きにしてくれ」
「そうか。なら早速だが、森から抜ける最短の道を教えろ」
「悪ぃが知らんな。ただ、あの村の連中なら知ってるかもしれねぇな」
「なら明日の朝、村に来い」
おっさんは頭を抱えながら弱々しい声で「あ、あぁ……」と返事をした。
明日本当に村に来るのか。不安しかなかったが、来ると信じて俺は村に帰った。




