第七話 聖者の涙
陽は落ち完全な暗闇となる森。だが村には暗闇がほとんどなかった。家の前に置かれた灯りが地面をはっきりと照らしている。さらに村長の家の近くで炎を囲む男達の姿がチラリと見えた。何をしているのか気になりはしたものの、関わりあいたくないという気持ちの方が強く俺は村を出た。
村から離れれば足元は見えなくなる。足元と周囲を懐中電灯で照らしながら、村へ来た時の道のりを辿る。
村に来た時よりも感覚的には倍くらい時間がかかったが、なんとかおっさんを見つけることができた。
寝てるのか、うなだれてるのか。懐中電灯で姿を照らされているにも関わらず、ピクリとも反応せず顔を下げたまま座っている。
「あぁ、あんたか」
「できたか?」
「ハハッ、当然のことを。見た方が早いだろう」
おっさんが指さした場所を懐中電灯で照らすと、肉塊になった獣の頭部があった。ほとんど原型が残っていない。
「これはどういうことだ?」
「説明するまでもない。見りゃ分かるだろ」
「俺は頼んだはずだ」
「あぁ、頼まれた。だがな、『作れる』と『成功』はイコールじゃねえ。毎回上手くできると思われちゃ困る」
「確かにそうだな。だが俺は前払いをした。その分はどうするつもりだ?」
「あんたは私にどうしてほしい?」
その白い狼の被り物を譲れ、と言いたいところだがオッサン臭い被り物貰うのはさすがに嫌だな。
「……どこまでなら俺の頼みを聞ける?」
「何だろうと構わない。が、あんたの損失に見合った頼みに限る」
「そうか。なら……」
俺はポケットから小瓶を投げ渡す。
「何だこれ? 水?」
「違う。怪我が治る液体だ」
数秒間の沈黙の後、おっさんは驚いたように声を上げた。
「おいおいおいおいおい! こりゃ聖者の涙だろ? そんな高ぇもん投げんじゃねえ」
「は? 聖者の涙?」
「あんた知らないのか。……ほとんど出回ってねえ品だぞ、こいつは」
「希少だということは分かる。……その液体は聖者の涙とかいうダサい名前で呼ばれてるのか?」
「ダサいか? 私にとっちゃリンゴをリンゴって呼ぶのと同じもんだが」
「そういうものか」
正直名前なんてどうでもいい。ダサいが。
俺はおっさんから聖者の涙を奪い取り、ポケットからびしょ濡れになったお札を六枚見せた。
「その聖者の涙ってやつが、こんな紙六枚になった。だが俺はお金の価値なんて分からない。それに聖者の涙の方が俺にとっては大事なものだ」
「話が見えねえな。つまり何が言いたいんだ?」
「貴重な物が俺の手元から離れた。誰のせいか。分かるな?」
「あぁ、そういう事か。なら、それを含めた上であんたは私に何を望む?」
俺が望むものは一つ。
「お前の人生」




