第四十三話 銃
想像以上に疲れた。何十分か歩いて階段を上っただけで息が乱れかけている。寝起きだからだろうか。
ゆっくりと呼吸し息を整えている俺の横で、おっさんは拳銃を取り出した。
「一応持っとけ」
一応、と言われたので一応受け取る。使う機会はないと思うが。
「自動式か」
「使ったことはあんのか?」
「ない。使う必要がない」
「そうか。ま、引き金引きゃ弾が出るようにはしてある」
「弾数は?」
「八発。弾倉は持ってきてねえが気楽に使ってくれ」
「持ってこられても装填の仕方が分からない」
「教えるならまた今度だな」
「これはお前から一時的に借りてるものだ。別に知らなくてもいい」
「くれてやるよ。大事にしてくれんならな」
大事に、か。
使いやすいものがあれば、元々持っていた使いにくいものは捨てる。そうやって生きてきた。だから『大事』という言葉は縁遠い。
無理だな。
そう思いながらも貰っておくことにした。
その貰ったばかりの銃の口をおっさんに向け引き金を引く。
狭い空間に銃声が響く。放たれた弾はおっさんの服にかすりもせずエレベーターの壁に埋まった。
「うおっ、危ね! 人に向けて撃つんじゃねえよ。っつーか、弾も少ねえんだから無駄撃ちするな」
「無駄撃ちではなく試し撃ちだ。それにお前はさっき気楽に使えと言っただろう」
「確かに言ったが無駄撃ちしていいとは言ってねえよ。必要な時は必要になった時は残弾数なんて気にせず撃ってくれって意味で言ったんだ」
「そうか……」
無駄撃ちではないと言い返したいところだが、そんな気は起きなかった。自分自身の行動に少し後悔をしていたから。
今までは、基本的に自分自身の肉体を使ったやり方で誰かを殺してきた。だが武器――拳銃というのも悪くない。撃った瞬間、言い表しようのない気持ちよさがある。
相棒、というのも悪くないかもな。
早く的を使った試し撃ちをしたいが……
「まだ着かないのか?」
おっさんに問う。これだけ会話していたにも関わらず、まだ八階に着かない。
「悪いな。三階であんたを拾うってことばっか考えてたから、八階のボタン押してなかったわ」
呆れる。本来の目的は八階にあるだろうに。
「押したか?」
「ああ、今ちゃんと押した。……っと、忘れるとこだった。もう一個渡しとくわ」
おっさんからホルスターを受け取ったが、付け方が分からない。今聞くべきかどうか、と考えているうちに八階に着いた。
「んじゃ仕事すっか」
歩きながらおっさんは被り物の耳に帽子を引っ掛けた。
後で聞けばいいか。
銃をホルスターにしまい、手に持ったままエレベーターを出た。




