第四十話 痩せた?
挑発しようと思ったわけではない。怖がっているように見えた。ただそれだけだ。
だが、サクヤは挑発と受け取ったようだった。
「どこが! あんたのどこに怖がる要素があるんだ?」
「俺がお前より強いから」
「ふざけるな! 黙れ! 今すぐにでも僕はあんたを殺せるんだぞ!」
サクヤの袖口から出てきたナイフが俺の喉元に突きつけられた。
刃が肉に食い込み血が流れる。
「図星か?」
「黙れ!」
「……殺せるのか?」
「決めるのは僕だ! あんたじゃない!」
殺せるはずがない。
ナイフを出した時俺を殺せなかった。殺すことを躊躇った。それが証拠だ。
俺の命を握った気でいるのだろうが、実際には何も握ってなどいない。
俺はソファに倒れ込むと同時にサクヤの股間を蹴り上げた。
「っ……!」
苦しそうな表情をしたサクヤは膝から崩れるように倒れた。俺はすぐ起き上がり、サクヤからナイフを取り上げる。
「殺すならこうするべきだ」
逃げられないようにサクヤの胸ぐらを掴み、ナイフを喉元に突きつける。
ゆっくりと首の肉に刃を入れていく。
股間を蹴られた痛みからなのか、ナイフを突きつけられた恐怖からなのか、青ざめた顔をしている。
「もう止めろ」
もう少しその真っ青な顔を見ていたかったが、おっさんに腕を掴まれ仕方なくナイフを自分のズボンにしまった。
「おい、包帯はどこだ?」
今着ている服の襟元で血を拭きながらおっさんに声をかける。すると、返事のかわりに包帯が飛んできた。
ズボンから先に着替えておいて正解だったな。血で汚れるとこだった。
包帯で適当に巻いて傷口を塞いだ後、ボロボロのシャツを脱ぐ。
「なーんか痩せたんじゃねえの?」
おっさんがくだらないことを言ってきた。が、相手にする気はない。
無視してシャツを着ると、おっさんがまたくだらないことを口にした。
「似合ってんな。やっぱり私の持ってる服はどれもこれもセンスがいいって事だな」
自分のファッションセンスを自画自賛しているが、どこがいいのか全く理解できない。俺が着たのは白い無地のシャツだ。似合う似合わないの問題ではない。
「……それ、僕の……服です…………」
今にも消えそうなサクヤの声が聞こえた。
滑稽だな。
上着を羽織り、ズボンのポケットから写真を出す。それら四枚をおっさんに見せながら俺は聞いた。
「誰からだ?」




