第三十九話 服を寄越せ
大きな音を立てて視線を集めた割にはこれといった特徴のない、つまらない人間代表のような男が立っていた。その男は俺を睨みズカズカと部屋にあがってきた。
誰だこいつ。
「師匠、これ誰です?」
それは俺が聞きたい。
「こいつは、まあ、支配者殺害の協力者かな」
「そうなんですか」
男は俺の前に手を出してきた。
「よろしく。僕はサクヤ。仕事中はそう名乗ってる」
何がよろしくなんだ?
サクヤが俺に向けて手を差し出した。握手する気のない俺はその手を叩いた後、ソファの肘掛けに座った。
「俺はお前と仲良くするつもりはない。それから一つ訂正だ。俺とこいつは主従関係だ。俺が従え、こいつが従う。対等な立場ではない」
そう言った途端、サクヤが俺の胸ぐらを掴み顔を殴った。が、九発ほど殴ったところで手を止めた。
もう気が済んだのか、疲れたのか。どうでもいいが殴られたままなのは気分が悪い。殴り返そうと拳を引いた時、おっさんに腕を押さえられた。
「何をしている?」
「あんたこそ何しようとしてんだよ」
「少し腹を殴るだけだ。問題あるか?」
「大問題だ。どうせあんたのことだから殺すんだろ? 服貸してやるし仕事も私がやるから今は何もするな」
ただ腹に穴を開けるだけであって、別に殺す気はない。が、今は止めておくか。
服も仕事も、本人の口からやると言った以上、何を貰おうが、どんな仕事をさせようが長々と文句を言うこともないだろう。
殴り返すくらい今じゃなくてもできる。
「服を寄越せ」
「あー、これでいいか?」
「どんな服だろうと着られれば問題ない」
おっさんはさっきまで俺が手にしていた服やズボンを投げつけてきた。
白いシャツに薄茶色のズボン、水色の薄い上着。
サイズは、特に問題ないだろう。
おっさんから受け取ったズボンに写真と空間転移の玉を突っ込み、ゆっくりと着替えを始めた。
「師匠、なんであんな奴の言いなりなんですか! 一回絞めて上下関係分からせた方がいいですよ! 師匠の方が絶対強いですから!」
「だとしてもだ。人手が減ってる今、戦力になる人間は必要だ。あいつも同じ殺害屋。即戦力だろ? それにサクヤ、あんたよりは強い」
「それでも、師匠より弱いなら従う必要ないじゃないですか! なんでこんな奴を。こいつよりまともな性格で即戦力になる奴なんて探せばいくらでもいますよ」
「確かにそうかもしれない。でもな、そんなこと言い続けてたらいつまで経っても――」
「分かってますよ! でもこいつは今までの奴とは違うんです!」
おっさんとサクヤの会話を黙って聞いているつもりだったが、ふと気づいた時には口が開いていた。
「怖いのか」




