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不死者  作者: 紫崎 蒼
第二章 殺害屋
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第三十八話 写真

 丸められた写真を広げると、三十代くらいの男がローアングルで写っていた。特徴は整えられた髭、目つきが悪い顔、灰色の髪、くらいだろうか。

 当然ながら俺はその男を見たことはない。だが、二枚目は俺の腹に穴を開けた獣の写真だった。少しブレているがあの獣だとはっきり分かる。

 そして三枚目も俺の知っている顔だった。これといった特徴のない若い女。強いてあげるなら、幸の薄そうな顔。

 この女は俺が依頼を受けた殺害対象と全く同じだ。

 俺以外にも依頼を受けている奴がいるということは殺害対象の奪い合い、あるいは殺害屋同士の殺し合いが起こる可能性が少なからずある。

 早急に殺してほしいのか、複数人でかからなければ殺せない相手なのか、多くの人間から怨みを買っているのか。

 どれが理由であっても、こちらとしては迷惑だ。

 俺の依頼者はもう死んでいるとはいえ、報酬は予め受け取っている。早急に見つけて確実に殺すとするか。

 にしても三枚中二枚が殺害の対象とは。一枚目の男も殺害対象……なのか? まあ、殺されても仕方ない悪人面をしているが。

 そう考えるとこの写真の撮り方に合点がいく。三枚とも顔も目線もこちらを向いていない。まるで隠し撮りしたような撮り方だ。

 となれば、四枚目も殺害対象が写っているということになるか。

 たった一件の仕事で手こずってる奴がこんなに引き受けて大丈夫なのか?

 なんて思いながら四枚目の紙屑を広げた。

 何だこれ……?

 これまでの写真よりもブレが酷い。どこかの街中を撮った写真だろうが、何の建物なのか歩いている人間が誰なのか判別ができない。

 これだと殺害対象が分からない。依頼者も引き受けたおっさんも仕事を舐めてるとしか思えない。


「他人のもん勝手に見るなんて感心しねえなぁ」


「っ……!」


 おっさんが突然声をかけてきたことで身体がピクリと反応した。

 心臓に悪い。


「服からはみ出していたから気になって見ていただけだ。ところで、お前が俺を担いで無様に逃げたあの日からどれだけ経った? それと、ここはどこだ?」


 ベッドから起き上がったおっさんは俺の頭を掴み、顔をグッと近づけた。

 被り物で距離感が掴めていないのか、鼻先が俺の鼻に押し当てられている。


「謝らないどころかあんたを助けた私への礼もない。人間のクズか?」


「その話は今関係ない。あの日からどれだけ経ったか、ここはどこかを聞いている。答えろ」


 ため息をつき、俺の頭から手を離したおっさんは「まだ一日。ここは私の部屋だ」と答えた。

 残り十二日。まだだいぶ時間はある。だが、


「ここの名称を聞いている。お前の部屋かどうかは興味がない」


「名前なんてねえよ。まあ旧都市って呼ばれてるくらいだがな」


「そうか」


 ならここにいるのか。あの殺害対象の女は。


「ありがとうくらい言ったらどうだ?」


「お前は礼を言ってほしくてやったのか? 違うだろう。ならわざわざ言う必要はない。違うか?」


「あのなぁ、何かをしてもらったら一言でも礼を言うのが普通だろ。あんた、常識ねえのか?」


「お前の常識を押し付けるな」


「世の中の常識だ」


「お前の見ている世の中と俺の見ている世の中は違う」


「本当にブレないな。……あんたが今生きてんのは私のおかげだってのに」


 恩着せがましい。何故そこまでして感謝の言葉を欲しがるのか理解できない。それに、


「俺は助けろだなんて一言も言っていない。お前が勝手にやっただけだろう」


「あんたはあの場で死んでもよかったと? んなふざけた話があるかよ」


 何故そうなる?

 呆れ、ため息をつく。


「……お前と話していては時間の無駄だ」


 四枚の写真はソファに置く。それから、とりあえず穴が空き血に塗れた服から着替えたかった俺は、クローゼットから適当に服を取った。


「おい、待て。何勝手に盗ろうとしてんだ?」


 おっさんが俺の腕を掴み、持っていた服を取り上げた。


「俺の服は破れている。だから着替えるだけだ」


「これは私のものだ。許可くらいとったらどうなんだ?」


 一々面倒だ。これだと一向に前に進まない。


「……なら早く行こう」


 俺はおっさんの手を払い、写真を手に取ってドアへ向かう。


「行くってどこにだ?」


「決まってる。仕事だ」


「仕事って……そいつは私への依頼だ。あんたには関係ないだろ!」


「いや、関係はある。俺への仕事依頼と同じものがあった。ついでに他の仕事もやるってだけだ」


「手伝ってくれるのか?」


「そのつもりはない。俺への依頼以外は全部お前がやれ。ただし、報酬は俺が八、お前が二だ」


「なんでそうなんだよ。ふざけてんのか?」


「お前は、奴隷が労働の対価を受け取らないことに疑問を持つか? ……それと同じだ」


「奴隷の話は私の空喰(うろぐい)でチャラになっただろ――」


 言い争う中、突然勢いよくドアが開いた。

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