第三十六話 死へ
「おい、ふざけんなよ! 勝手に行動しやがって」
まともに動けない俺に、おっさんが駆け寄って怒鳴り声をあげた。
これは俺自身の行動が引き起こした俺への結果だ。怒鳴られる筋合いはない。
言い返したいが声を出す気になれなかった。
「ようやく使える仲間を見つけたんだ。死ぬんじゃねえ」
さっきまで殺し合って言い争って最悪な関係築いた相手に「死ぬな」なんてよく言えたな。こんな状態じゃなければ笑っていたかもしれない。
少し、意識が遠のいたのを感じた。視界はほんの少し霞んでいる。
そんな俺の状況を知りもせず「どこだ?」と言いながら、おっさんは俺の衣服をまさぐっていたがようやく止めた。
紙のお金が欲しかったのか? それなら上着のポケットにある。それとも……
霞んだ視界でおっさんの姿を捉える。手には聖者の涙を持っている。そして、聖者の涙を一滴残らず穴の空いた俺の腹にかけた。
そんなことをしても無駄だ。傷口は綺麗に治るだろう。だが、恐らくそれよりも先に俺の命が尽きる。
何故か、おっさんは俺の身体を担いで走り出した。木々の中へ。
もう少し丁寧に運んでくれないか? 下手に扱われると、上と下が分離しそうだ。
「近くの街には医者がいる。それに、聖者の涙があるかもしれない。だから、それまで耐えてくれよ」
無理だ。そこまでにどれだけ時間がかかる? 恐らく間に合わない。
もしも聖者の涙が未使用だったなら。一つ全部使い切れば命が尽きるよりも先に傷が治っていたかもしれない。だが、無駄遣いをしすぎた。
「おい、生きてるか?」
ああ、生きている。
返事はできない。する体力が残っていない。
「あんたの人生をこんなとこで終わらせはしない。絶対に」
視界が何も映さなくなった。いや、目は開けているのだから何かを映してはいるのだろう。だが何も見えない。
「森を抜けた。もう少しなんだ。耐えてくれ」
自分の身体が自分のものではないような感覚にまで意識が遠のいた。きっともう限界は近い。
「街はもう目の前なんだ。もう少しだけ…………」
最後に俺に残ったのは、かすかに揺れる身体の感覚だけ。
さっさと死ななかったせいで迷惑かけたな……
それから程なくして俺の意識は完全に途絶えた。
第一章終了です。




