第三十話 相性最悪⑩
右の眼も左同様見えるようになった。まぶたも動く。頬も唇も鼻も治っている。ほぼ完全に治ったと言ってもいいだろう。
ようやくまともに話せる。
「これが最後だ。獣を殺せ」
「…………分かった」
「やけに素直だな」
俺はおっさんの背中から足をどける。
「まあな。ただし、武器はあんただ」
「は?」と聞き返そうとした瞬間、俺の視界に映る天地は逆さまになった。
気付けば俺は足を掴まれ担がれていた。
「俺を投げつけるつもりか」
「ああ。あんたは私を何度も殺そうとしたんだ。おあいこだ」
逃げようと足をバタつかせるが、しっかりと掴まれていて離すどころか力を緩める気配もない。
死ぬ。このままだと本当に。
「俺が獣を殺す。だから下ろせ」
「……仕方ないな」
おっさんが俺の身体を投げた。それもこちらに向かって走ってきている獣目掛けて。
溶かされるだろうと思い覚悟を決めていた。だが身体が溶かされるなんてことはなく、爪で腹を刺されただけで済んだ。
そしてゴミのように俺は捨てられた。
溶かされなかったということは、俺は小石程度の存在だということなのか。それに俺のことは眼中にないようで、獣はおっさんにしか興味がないようだった。
死ななくて済んだのは良かったが扱いの差に腹が立つ。
傷口に聖者の涙を垂らす。それからすぐ、治るのも待たずにおっさんの方へ走った。
「おい、あれを使え」
「は? あんた何言ってんだ?」
「だから空喰だ。それなら一瞬で終わるだろ」
「何だそれ?」
「俺に向けて投げたやつだ」
「…………ああ、空喰か。んな貴重なもんをこいつに使うかよ。もったいねぇ」
俺を木から落とすためだけに使ったのに、か? そんなふざけたことよく言えたな。
「さっさと終わらせるためだ。使え」
「嫌だな」
「俺はお前のせいで聖者の涙を失った。それに獣の頭もただの肉塊に変えられたんだが」
「その話を今持ち出すかよ。……仕方ねえな。じゃあこれで奴隷の件は白紙ってことでいいな?」
「ああ」
「決まりだ。その言葉、忘れんなよ?」
そう言いながらおっさんは黒い何かを獣に向かって投げた。それは獣に触れる直前で消え、同時に獣の体の大半が消えた。残ったのは足先と頭の一部、それと角だけだった。
「初めからやれよ。なんで今になって使った?」
「こっちにも事情があんだよ。まあ、もう何をどうしようと意味はないが」
面倒事の匂いがする。
関わりたくはないが、ここで別れる気はない。
あんな程度で貸し借りを無しにできると思っていたら大間違いだ。
利用できるだけ利用させてもらう。
月をまたいでまで主人公とおっさんの喧嘩をお見せする気にはなれませんでした。すこし無理矢理ですが喧嘩を終了させ、次の話へと進めることとします。
読んでくださった方々、お見苦しい喧嘩をお見せして申し訳ございません。
来月は投稿をお休みしますので、三十一話は十二月投稿予定です。




