第三話 折るだけで得られる信用
二、三時間は平気でかかると思っていたが、三十分もかからないうちに村が見えた。木で建てられた小さな家と人影がちらほらと見える。
「おい、ここで一番偉い奴は誰だ?」
俺は近くにいた若い男に声をかけた。何故か怯えた顔で後退りする若い男の胸倉を掴み「答えろ」と迫る。
「そ、その、村長は……」
「彼を放してやってくれ。儂が村長だ。お主が何の用でここに来たのかはさておき、村の者に手を出すことは断じて許さん」
村長と名乗った背の高い筋肉質の男が突然会話を遮り、俺の腕を掴んだ。俺は若い男から手を離し、村長の手を振り払う。
「俺は質問しただけだ。手は出てない」
「しかし彼の胸倉を掴んだ。手を出そうとしたのではないのか?」
「そんな事して何の得がある? 俺は用があってここに来た。それだけだ」
「用? この村にあるものを強奪にでも来たのかね?」
その言葉で村長のそばにいた男達が俺を囲み、一斉に銃を構えた。
俺は仕方なく両手を上げる。
「別に危害を加えるつもりは無い」
「その言葉が真であるとどう証明する?」
「知るか。逆に聞く。どうすれば俺を信用する?」
「そうだな。お主、両腕を折れ。さすれば先の言葉は真であると証明できる」
俺は右手で左腕を握って骨を砕いた。それからすぐ、左膝をついて右腕を右かかとの下に潜り込ませる。そして、そのままかかとを落とし肘を逆方向に折った。
「これでいいか?」と俺は折れた両腕を村長に向けて突き出した。
「よろしい、お主を信じよう。着いてこい」
村長は背を向け歩き出し、俺もそれに続いた。
両腕を折って信用を得た。そのはずなのにまだ男達は俺を囲んで銃を構えてる。目の前にいる奴なんて後ろ歩きでずっと俺を睨みつけている。
外から来た人間を嫌っているのか。くだらない。
「……やめなさい。彼は立派な客人だ」
村長は突然立ち止まり、銃を構えていた男達にそう言う。
「し、しかし我々はこの男から村長の命を護らねば……」
「護衛はいらん。お主らは自分の持ち場に戻りなさい。これは命令だ」
村長の最後の一言で男達は銃を下ろし、どこかへ去っていった。
「帰らせていいのか?」
「構わんよ。あのままではお主も息苦しかったろう」
「そうか」
「……お主は何の用でここに?」
「水が欲しい」
「どれだけ?」
「この顔と服の血を洗い流せるくらい」
俺がそう言うと、村長は川まで案内してくれた。
「私は村で待っとる。ごゆっくり」
そう言うと村長は村へ帰っていった。
村の少し外れに流れる綺麗な川。
俺はリュックをそばに置き、折れた腕を無理矢理動かして中から残り少ない液体の入った小瓶を出す。腕をまくり、液体を左腕の折れた部分に三滴ほど垂らそうとする。が、手が滑りほぼ全てこぼれた。
「……最悪だ」




