第二十九話 相性最悪⑨
俺は地面に埋まりかけた顔を上げる。が、何も見えない。
とは言え、だいたい感覚で分かる。それに顔に触れれば自分が今どんな状態になっているかも分かる。
眼は完全に潰れている。それに顔面の肉は全て落ちて無くなっている。鼻も無い。
自分の状態は分かった。次に知る必要があるのは獣の位置だが、俺を殺そうとしたおっさんの言葉など信用できない。
地面に両手をついて、とりあえず真っ直ぐ歩く。必ず顔よりも前に手が出てる状態で。
傍から見れば多分無様な姿だ。
十歩近く歩いたところで、木の根のような感触が手に伝わった。
よし。
すぐに立ち上がり、幹に指をめり込ませて登る。高さは分からないが、ある程度登ったところで俺は指を深くめり込ませた。
片方の指で木にぶら下がった状態で、残り一本しかない聖者の涙を顔にかけて治るのを待つ。
もっとかければ早く治る。だが、いつまた大怪我をするか分からない。節約だ。
「無様すぎて笑えねえな。まあ、私に獣を押し付けといて高みの見物なんてしてた罰ってこった。自業自得だな」
「は? あのけおの、けお……けお!」
顔の肉が無いせいでマ行が上手く言えない。このままじゃまともに会話ができない。
「治るあであってろ」
治るまで待ってろ。そう言ったつもりだったが、やはり上手く言えない。
「面白いな。しばらくそのままでいいんじゃないか?」
「だあれ」
黙れだ、黙れ。何故マ行ばかり……不便だ。
だが仕方ない。しばらくはこのままで我慢するか。そう思っていた時、眼が完治した。まだ左だけだが。
どれだけ登ったか、飛び降りれる高さか。
下を見るとおっさんと獣の姿が目に入った。俺の真下で獣の攻撃を避け続けるだけのおっさん。
何俺の下で遊んでるんだ?
「さっさと殺れ」
「あんたが木に登るまで私は獣の攻撃を抑えていた。私に感謝しながらあんたが殺すべきだ」
「は? 俺が殺るよりお、殺す手段をおってるおあえが殺るべきだろ」
「? おれがやるよりおころすしゅだんをおってるおあえがやるべきだろ、って何だ? 新しい呪文か何かか?」
雰囲気とか文の流れで分かるだろ。馬鹿にしてるのか?
幹から指を引き抜き飛び降りた俺は、おっさんの腕を掴み獣のいない方へ向かって投げ飛ばした。それからすぐに俺も投げ飛ばしたおっさんを追いかける。
そしてうつ伏せになって倒れているおっさんの背中を踏みつけた。
「理解しろ」




