第二十七話 相性最悪⑦
地面にある土や小石を手に、こちらに近づいてくる獣の顔に投げつける。すると獣は足を止め呻き声をあげた。
投げつけた土や小石は跳ね返される。溶解液は出していない。
だがそれでいい。その位置に立っているだけでいい。
…………ん?
そろそろおっさんが落ちてきてもいい頃だ。それなのに落ちてこないどころか、上を見ても姿がない。
土や小石を投げるのをやめて近くの木を蹴った。
既に落ちているなら音がするはずだ。だがそんな音は聞こえなかった。ならば上に投げ飛ばされた時、どこかの木に掴まって高みの見物を決めてるに違いない。
それにおっさんの身体はボロボロだ。まだ近くの木に隠れて俺と獣の戦いを眺めているのだろう。
獣から逃げながら周辺の木を手当たり次第に蹴る。何度も何度も。
周辺の木は全て蹴った。木の葉は落ちてきても肝心のおっさんが落ちてこない。
「おい、今すぐ降りてこい」
「んな危険なとこにのこのこ行くかよ」
俺の呼びかけに、意外にも早く返事が返ってきた。だがその言葉の内容に俺は呆れ果てた。
言っている意味は分かるが、自分の手で殺せないからといって俺に獣を押し付けるのは違うだろう。
「なら動くな」
おっさんの声はそう遠くない、はずだ。だから俺は近くの木を登った。指圧で木の幹に指をめり込ませて。
獣の手が届かない範囲まで急いで登り、そこから先はゆっくりと登る。
適当な高さまでで登るのをやめ、幹から分かれた太い枝に飛び移った。
上からなら少しは探すのが楽になるだろう。
自分を中心に周囲をぐるりと見渡すと、思いのほかあっさりとおっさんを見つけた。
思っていたよりも下の方にいる。俺が今立っている木とは違う木におっさんが座っている。だが違う木とは言っても届かないほど離れているわけではない。むしろ、軽く前方にジャンプして飛び降りればそのままおっさんを下敷きにできてしまうほど近い。
このまま飛び降りておっさんの顔を地面に叩きつけるのも悪くない。
足をぶらぶらとさせてお気楽な気分になっているであろうおっさんを見て俺はそう思った。
だが奴隷にしてからまだ何もさせていない。よく考えてみると、このまま殺すのは勿体無いかもしれない。
いや、今までも殺そうとしてきた。今更こんな事を考えても無意味だな。




