第二十五話 相性最悪⑤
何も言えなくなった。何故俺が手を犠牲にしなければならないのだろうか。そもそも聖者の涙は残り一つしかない。こんな無駄なことに使いたくない。
「さっさと殺れ!」
急かしてくる。というか別に俺が殺る必要はない。おっさんが自分の手を犠牲にすればいい。
「俺は両手が塞がっている。お前が殺れ」
「は?」
「は?」
「……その死体を置けばいいだけの話だろ!」
「無理」
「無理なわけねえだろ!」
「無理なものは無理だ」
「ふざけんなよ」
「それは俺のセリフだ。元々そいつはお前の獲物だろ。俺が殺る理由はない」
「待てっつったのに勝手に手出したのはどこのどいつだったっけか?」
「だとしてもお前が殺れ。俺は既に一体殺している」
「はぁ? 一体殺ったあんたは私より偉いのか?」
二体いたのだから一人一体が普通の考えだろう。それに偉い偉くないの話で言えば、主人である俺は偉い。奴隷のおっさんは偉くない。
奴隷のくせに何故俺に命令ばかりするのだろうか。腹が立つ。
「その空っぽの頭を交換してやる」
俺はガキの頭をおっさんに投げつけた。が、おっさんではなく獣の方へと飛んでいき「あ……」と思わず声が出てしまった。
獣の頬に頭が直撃する。このまま溶かされなければ獣の頭は吹き飛ぶ。
このまま死んでくれと願ったが、ガキの頭はドロドロに溶けた。ついでに獣の頬の毛も溶けてなくなっていた。
これなら手を犠牲にしなくても殺せるな。
おっさんから俺にターゲットを変えた獣は、鋭い爪で引き裂こうとする。それを避け、俺は素早くガキの両足を両手で持ち、大きく振りかぶって獣の顔に叩きつけた。
焦って攻撃したから大した威力は出ていないはずだ。それなのに獣はガキを溶かした。
ガキの胸、腹の辺りが溶けている。肩周辺も溶かされたことで、溶けていない腕はかつて体の一部だった液体の溜まりに落ちた。
本当ならその腕も武器として振るいたいところだ。が、変な病気にかかりそうな気がして、手に取るのはやめた。
俺の手に残ったのはガキの下半身だけ。しかも獣の顔の毛は思っていたよりも多く残っている。だが、ようやく勝利のビジョンが見えてきた。




