第二十話 実はノーコンです
俺の目の先には、全身が燃えている男の姿があった。言うまでもなくその男は二人目の生贄だ。
赤く燃える火の中で、男の顔から少しずつ灰色の毛が生えてきている。黒い髪の毛は抜け落ち、灰色の毛に変わる。初めは顔だけだった毛はしばらくして全身に生えた。
それから瞳が金色になり、顔がだんだんと狼に似た獣の顔に変わっていく。と同時に身体が大きくなり着ていた衣服は全て破れ、縛っていた紐がちぎれる。
最後に、鋭い爪と牙、黒い角が生えた。
変貌した男の姿は、一昨日の夜に出会った獣にそっくりだった。
グヴオォォォーーーーーー
獣は呻き声をあげて身体を燃やしていた火をかき消した。
「おいおい、面白いもんなんて言ってる場合かよ! こっち見てんぞ!」
おっさんがコップを放り投げ、立ち上がった。それにつられて、俺も血を飲みながら立ち上がる。
「なあ、あれはなんだ?」
俺は村長を指差しながら言う。
村長の身体とその周囲の空間が上下左右バラバラにズレていた。そのズレはより酷く細かくなり、村長の身体は周囲の景色と同化し完全に消える。
その後空間のズレは、まるでルービックキューブの面を本来の姿に戻すように、元通りになった。ただ空間のズレは戻ったものの、村長の姿は完全に無くなっていた。
俺はその光景を、血を飲みながらただ驚くだけだった。
「すごいな。人間が消えた」
「んなことどうでもいいだろ! 戦闘準備しとけ。死ぬぞ」
そう言ったおっさんは既に短剣を構えていた。俺は血を飲み干し、獣の顔に空のコップを投げつける。が、かすりもせず奥へと飛んでいった。
「今お腹いっぱい。一人で殺って――」
俺の声に被せてくるように獣の呻き声が聞こえた。だが獣は口を開いていないし、声は別の方向からだった。
聞こえた方向を見ると、燃えている十字架の前に立つ獣の姿があった。
あの十字架には一人目の生贄を縛っていた。今はその姿がないことから、あの獣は一人目の生贄だと予想できる。
「残念だったな。サボりは無しだ」




