第二話 狼頭のおっさん
今日も天気はよく、薄暗いながらもはっきりと物が見える。
リュックを背負い、入り切らなかった獣の頭を抱えてあてもなく森の中を歩いた。
夜、獣に付けられた傷は全て綺麗に治っているが、服は破れ血で汚れている。
服もそうだが、手や顔に付いた血を洗い落としたかった。
しかし川を探すもどこもかしこも木ばかり。水溜まりすら見つからず、無駄に体力だけが削られる。
「あんた、迷ったのか? それとも自らの意思でここに来たのか?」
生えていたキノコを採って食べていた時、突然誰かが声をかけてきた。声の聞こえた方に顔を向けると、石に座る男の姿があった。
狼のような形をした真っ白な被り物。手書き感のある雑な目と口が特徴的だ。服装は何かの動物の毛皮が特徴の灰色のフード服。さらに手袋を付けているせいで肌が全く見えない。
見ただけじゃ男性なのか女性なのか分からないが、声は野太いおっさんのものだった。
「もし後者ならお節介ってもんだが、この先はやめた方がいい」
俺の戸惑いなんて気にもせず話を続けている。面倒くさそうな人だと思ったがようやく森の中で会えた人間。話くらいは聞いていこう、と近づく。
「何故やめた方がいいんだ?」
「この先には村がある。それだけだ」
「そうか。助かる」
部外者は歓迎されないってことか? それならそれで別に構わないが。ってか、この先ってどっちだ?
「どっちに行けば村に着く?」
「ほう、警告したにも関わらず村に行くのか。だったらその頭は置いてけ」
「……食べたいのか?」
「いいや。その獣を村に持ち込むなっつーだけだ」
「持ち込むとどうなる?」
「あんたに不幸が降りかかるだろうな。運が悪けりゃ死ぬ」
死ぬのは流石に嫌だ。不幸、というのもどの程度か分からない。指の一本で済むのか四肢切断か。
俺は仕方なく獣の頭をおっさんに差し出す。
「一つ頼みがある」
「何だ? やるやらないは別として、話くらいは聞いてやろう」
「こいつの毛皮で帽子を作りたい。できるか?」
「ハハッ、運がいいな。私なら今日中にでもあんたの望むものを作れる」
「なら頼む」
そう言うと、おっさんは鼻で笑った。
「おいおい、何言ってんだ? 普通の奴なら帽子一つ作るだけで数ヶ月かかんだぞ。それを一日でやろうってんだ。言葉より出すものがあんだろ?」
おっさんが手を伸ばして早く寄越せと催促している。「ほい」と言って俺は食べかけのキノコを手渡した。
「こりゃ何だ?」
「キノコ」
「見りゃ分かる」
「美味い。毒もない」
「そりゃ初耳だ……じゃねえよ! 人にもの頼むときゃ金だろ?」
「悪いが今は金がない。今夜、受け取る時までには用意する」
「まあいいだろう。となると、これは何だ? 前払いか? それともただゴミを押し付けただけか?」
「ゴミじゃない、キノコ。村の情報の礼だ」
「あ? あぁ、ありゃ単なる忠告のつもりだったんだがな」
「なら前払いとして受け取ってくれ。……そろそろ村に向かいたいんだが、どっちに行けばいいんだ?」
「そうだったな。右だ。私から見て右に真っ直ぐ行けばいい」
「助かる」
「ああ、言い忘れてたが、あの村の連中は狂ってる。気をつけろ」
俺は一言「分かった」と返事をし、村を目指した。




