第十九話 食事会じゃありません
俺は一度立ち上がり、村長の腹を蹴りながら「やれ」と言う。すると慌てた様子で立ち上がり、腹を抑えながら適当な枝を手にして十字架の前に立った。
俺はおっさんの隣に座り、血を飲みながら一緒にその様子を観る。
村長は手にしていた枝に火を移す。そして十字架の足元に燃えた枝を置いた。
ゆっくりと燃えていく。縛った男の足が燃え、少しずつ火が身体を上る。苦痛に歪む表情と、その奥に宿る憎悪の目がまっすぐ俺に向けられている。
ただ観るだけのつもりでいたが、俺はほんの少し口角を上げて手を振った。
頑張れ、とでも声をかけておこうか。気合い入れろ、の方がいいか? いや、どっちでもいいか。どうせ何を言っても恐らく結果は変わらない。
俺はコップに口を付け血を飲もうとする。が、数滴しか流れてこない。
二杯目を飲みたいところだが、今座っている位置から手の届く範囲に死体がない。仕方なく立ち上がり血を汲みにいこうとすると、おっさんが「私も頼む」と空のコップを差し出してきた。
俺はコップを受け取ったものの、「少し待て」と言ってコップをおっさんに返す。そしてまだ手をつけていない中から、あまり時間が経ってない死体を二体拾う。
状態は良いが、腹部には穴が開き腸が飛び出している。
コップを口で咥え、片手に一つ死体の頭を掴んでおっさんの横に持っていった。
「この方が楽だ。わざわざ動かなくていい」
「そりゃそうだ」
「好きな部位の肉も食える」
「……そこまでいくとお血会じゃなくてただの食事会だな」
「お血会だ」
俺は肝臓を引きずり握り潰す。そして流れた血でコップの中を満たした。
おっさんも同じようにして血を注いでいる。もう汚れることは気にしていないようだった。
「なああんた、面白いものってのはまだ見れないのか?」
そう言われ縛られた男を見ると、全身が火に包まれていた。このままだと獣になる前に死にそうだ。
「残念だがこの男は失敗作だ」
呆然と立ち尽くしていた村長に向かって「燃やせ」と命令する。
反抗する態度を見せず黙々と枝に火を付け、その火を燃えていないもう一つの十字架に移した。
「これがダメなら面白いものは見れない」
「そうかよ。つーかこの儀式大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。手順通りに進めている」
「そういう話じゃなくてだな。あまり火が大きくなると周りの木に燃え移るって可能性もあるだろ?」
「近くに木はない。大丈夫だろ」
燃え移るかもしれない、という不安はある。だが、そうなった時はそうなった時だ。その時の俺が解決策を見つけるはずだ。それを今考えても仕方ない。
一旦血を飲んで頭を空にしよう。
そう思っていたが、待ち望んでいたことが起こりコップが口から離れる。
「おい、始まった。待ちに待った面白いものだ」




