第十五話 よし、元通りだ
「ひとつ聞く。俺から獣の左手を盗んだのは誰だ?」
見渡す限り絶望の底まで落ちた顔だらけだ。この状況で嘘を吐く人間はそういないだろう。何も言わなかったがほぼ全員がハゲを指差した。
「お前か」
「は、はぁ? 俺が盗みなんてすっかよ! こ、こいつらが見間違えただけだろ。俺はやってねえからな! お前なら信じてくれるよな? ……な?」
「知らない。が、お前が人のものを盗むクズなのは知っている」
「お、おいおい冗談はやめようぜ? 俺の事疑ってるって言ってるような……なあ? 平和的にいこうや」
ハゲが焦った表情で俺にわけの分からないことを言ってくる。殺されるとでも思っているのだろうか。
別に盗みを働いたから殺す、だなんて物騒な事は考えていない。誰が盗んだのかが知りたかっただけ。特に深い意味はない。だから何を言おうと無駄だ。
ハゲの口の中に手を突っ込んだ俺は舌を引きちぎった。
「んんんーーーーー!」
ハゲは叫び声を上げて尻もちをつく。それから慌てて俺から盗んだ聖者の涙を口の中にかけた。
中身が半分以上無くなった。もったいない。使うのならもっと大切に使ってほしいものだ。たった一滴であっても治るというのに。
俺は聖者の涙を奪い取ろうとしたが、異様な光景に手を止めた。
仰向けに倒れた。それだけなら何も思わない。異様なのはハゲの頬や下顎が溶け落ち、喉辺りも溶けかけているところだ。原因は分からない。突然のことだった。
元々下顎だったものが、今では原型のないドロドロな液体になっている。触れればよく分からない病気を伝染されそうだ。
俺は気味の悪い液体に触れないようにそっと聖者の涙を取る。
俺は聖者の涙を右腕の傷口にかけた。それからすぐに俺の右腕を男から取り返す。
聖者の涙をかけた右腕の傷口に、取れた右腕をくっつける。それからしばらく、右腕が繋がるまで待つ。
しばらくして切断面の傷が治った。肘を曲げて動くことを確認し、手を開いたり閉じたりして完全に治ったことを確認する。
よし、元通りだ。
それから辺りを見渡し、昼間に聖者の涙を売った老人に近づく。老人が何か言おうとしていたが、その言葉を聞く前に首を握り潰した。
痛みを感じる間もなく殺した老人の死体を漁り、聖者の涙を奪い取る。
中身は減っていない。俺は安心し、聖者の涙をポケットにしまった。




