第十三話 即座には使えない止血法
「おい、ふざけるな。服が破れた。責任を取れ」
俺の言葉が届いているはずなのに誰も何も返事をしない。俺は文句を言う気が失せた。
切断面から血が流れる中、落ちた右腕を村長の後ろに立っていた男が回収した。
俺の左側の火で焼きコテを熱していた男が、村長から大鉈を受け取り、代わりに焼きコテを渡している。
何をするのか。聞こうとする前に村長はその焼きコテを俺の傷口に押し当てた。
「これは何だ?」
「……焼灼止血法と言ってな、お主から流れる血を止める技術だ。血液不足で死なれては困るからな」
「瞬時に使えない辺り、なんとも言えないな。今後、聖者の涙節約のためにその止血法を活用しようかと思ったが、正直いらない知識だ」
「安心しろ。お主に未来はないのだからな」
傷口から焼きコテが離される。既に血は止まっていた。
次は何をするのだろうか。あとどれだけの工程を経れば俺は獣になるのだろうか。
村長は焼きコテをそばにいる村人に渡す。そして小さな器に獣の左手から絞り出した血を注いだ。村長は血の注がれた器を俺の顔に投げつけた。
「これも必要なことなのか?」
「ああ、大切なことだ。そしてお主を囲む火。この火に身を包めば晴れてお主は知性のない獣だ」
「すぐに獣になるのか?」
「それは分からない。獣化は相性もあるからな。死の間際まで変わらない者もおるし、すぐに変わる者もおる」
「他はないのか?」
「それだけだ」
つまらない。儀式と言うからどんなものかと思っていたが拍子抜けだ。
俺は紐で縛り付けられている手と足を軽く動かそうとする。だがどれだけ動かしても緩む気配がない。
「逃げようとしても無駄だ。キツく縛ったからな」
「くだらない」
俺は腕を前に突き出すような感覚で左腕に力を込める。
少しずつミシミシと音を立てていた紐がゆっくりと千切れた。両足を縛り付けている紐も手で引きちぎる。
手首と足首に縛り付けられた跡が残っていることから、相当キツく縛られていた事が俺以外の目から見ても分かるだろう。
俺は近くに立っていた大鉈を持った男の腹部を殴る。男の腹の肉が潰れて拳が腹中に入った。そして腸を掴み一気に引きずり出す。
村人達に拳を突き出してその腸を見せた。
「動くな」
動けば内臓を引き抜く、という警告のつもりで言った。だが言葉の意味を理解していない一名はその場から逃げ出した。
全力でそれ?
もう歳だからなのか、逃げたジジイの足の速さは絶望的に遅かった。これで逃げ切れるとでも思ったのだろうか。俺はすぐに追いかけて首根っこを掴んだ。
「おい離せ!」
「少し待て」
「今すぐ離せ、この余所者!」
逃げようとしているのか、必死に暴れまわり暴言を吐いている。
それを見て、内臓を抜くという行為は見せしめとして無意味だと気付いた。
しっかりと見ていなかったのか、印象が薄すぎて記憶に残らなかったのか。このジジイには何が起きたか理解できなかったのだろう。
本当の見せしめをどうやるか。何も浮かばなかったが、ふと面白いことを思いついた。




