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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第4章「欲しいものが貰えないからプレゼントというのだ」
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第88話「空嘘」

「遺言を無下にも出来ません。遺産は有り難く頂きましたが、贅沢をする気にはなれず、このアパートに引っ越しました。

 もう誰とも関わらないで生きていこう、そんな思いで過ごしていた夏の日、ハルに会った。鍵を忘れたらしい彼を放っておくことは出来なくて、次の日まで家に置いてあげたんです。施設で育ったせいか、子供の相手は割と得意だったので、すぐ懐いてくれて彼の話を聞きました。

 父親が母親を殴っていること。菫さんが夜働いている為、家ではいつも一人でいること。貧乏だからゲームを買って貰えないって嘆いてて、俺達はそのまま話疲れて眠りにつきました。早朝に玄関の開閉音が聞こえたので、俺は慌てて隣の家を訪れました。誘拐騒ぎになってもいけない、説明しなければ、しかし扉を開けたのは男で、そいつは昔、俺を買った男でした。

 頭が真っ白になったところで、彼は思い出したみたいで……それから俺は脅されました。幸い金はあったので大した問題ではなかったのですが、その後帰ってきた菫さんと話をして心配になりました。自分も苦労して生きてきたので、他人事とは思えなくて。ああ、裕一郎さんはこんな気持ちだったのかもしれない。そんな考えが芽生えて、俺はあの親子に肩入れしました。菫さんが頼ってくれることは無かったんですが、仕事をしている間、俺がハルを預かっていました。

 あの日は休みでした。……ハルがゲームが欲しいって言っていたので、買って行って『菫さんが買ったことにすればいい』って言うつもりだったんです。だけど、彼女は夫を殺してしまった。

 もっと強く言えば良かったんです。妻の妊娠中に男を買うような男ですよ? 幸せが望めないことは分かりきっていたのに言えなかった。親のいない俺には、親の大切さが分からなかったから。でも、ハルを想っている菫さんを、犯罪者にしてはいけないと思ったんです。なのに彼女は首を横に振った。『優しいあなたに罪を擦り付けることなんて出来ない』って言ったんです。だから『俺は、あの男と関係を持ったことがありました。汚い男に唾がついたところで気にしませんよ。あなたは俺にストーカーをされていた。ストーカーの嫉妬が引き起こした事件ということにしましょう。あなたが穢れないのなら、あの子が笑って生きられるのなら、俺は喜んで罪を被ります』そう言った。

 一気に色々と告げられて、彼女も混乱したんでしょうね。俺はハルとの繋がりになりそうなものを処分して、彼女から受け取った写真を部屋中に貼って、家から持ち出したナイフで遺体を刺した。犯人の自供ともなれば警察も詳しくは調べないだろう、そんな思いで嘘を吐いたけれどバレなかった。……これであの二人を救えたと思ったのに」


 諦念と悔恨が入り混じった吐息が色を成していく。なんとも言えない気持ちが渦巻くのは同じらしい。私に泣く資格はないのに、落涙してしまいそうだった。


「後悔しないでくださいね。貴女に後悔されたら、俺達はどうすればいいんですか?」


「すみません。綾崎和眞、貴方を逮捕します」


 思わず告げた謝罪に掌で口を塞ぐ。彼は少し笑って『貴女が馬鹿正直だと言われるわけが分かった気がするよ』と言った。


「ゲーム機は空っぽでしたね」


「なんで知って……」


「アレは、これから作られる絆の証だったんですよね」


「……ハルとは、もう関わることもないでしょうね」


 これは事件解決と言っていいのだろうか。永君の為に、と思っていたのに。結局、幼い双肩へ重たすぎる錘を乗せてしまったような気がする。


 誰かを守りたいと思う気持ちは罪なのだろうか。罪を憎んで人を憎まずと言うが、今回の事件はまさにそう記すに相応しい。


 ——私は誰かを傷付けるだけだった。


 今更になって狼谷君の言葉が重く圧し掛かる。〝普通〟に生きてきた私には、綾崎の気持ちを全て理解する脳漿を持ってはいなかった。

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