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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第4章「欲しいものが貰えないからプレゼントというのだ」
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第86話「絵空事」

「君は知っているんだよね?」


「はい」


「じゃあ、いいか。高校生には酷だったんじゃない?」


「酷な人生を送ってきたと自負していますから」


「自負って言うのは、自分の才能・知識・業績などに自信と誇りを持つことを言うんだよ」


「俺の能力は人生そのものなんです。だから多少の意味は違えど〝自負〟でいいんですよ」


「君は、その歳で人生に誇りを持っているのか。いいね、羨ましいよ。

 俺はね、誰かに語れる過去なんてない。生きる為に捨ててきたものの方が多いから」


「今回も何か捨てたんですか?」


「そうだね、今回〝綾崎和眞〟って人間を殺した。自分の人生を捨てたんだよ」


 言葉を失う私に、彼が双眸を撓らせる。それがなんだか恐ろしくて、目を逸らしてしまいたくなった。


「俺が施設育ちだったのは知っていますよね」


「はい」


 首肯、沈黙、そして開口。暫くは、これが度々繰り返されることだろう。そんな予感に身を投じ、私は綾崎の言葉に耳を傾けた。


「施設を出てから、俺は工場で働いていました。しかし、それはすぐに終わりを迎える」


「倒産してしまったんですよね」


「はい。食うのにも困って、行く当てもなくうろついて、俺は援交の女子高生を見掛けました。寂しそうに練り歩くOLもいましたから、すぐに邪な考えを思い付きました。でも女の人は妊娠してしまうリスクがある。ホストは怖いし、なにより女性を騙して、お金を巻き上げることに抵抗があったんです。諦めてその場を去ろうとした時、一人の男性に声を掛けられました。そして俺は身体を売って生活することにしたんです」


 衝撃だった。男が男に身体を売るだなんて信じられない。けれども、これを口にしたらいけないことは分かっていた。


 込み上げる吐き気を呑み込み、なんともない顏で続きを待つ。それでも咽頭を上下する感情が、早く外に出して欲しいと哭していた。


「その時、客として出会ったのが裕一郎さん……仁科裕一郎さんでした」


「仁科さんは亡くなった後も、あなたを心配して憑いていましたよ。優しく見守っているので、肉親なのかと思いました」


「あの人、本当に心配性だったから……」


 綾崎が上ずった声で語調を弱める。無理矢理口角を持ち上げる様は痛々しく思えた。


 それが彼に憑いていた人物か、と溜飲を下げる。傍らを伺うと、狼谷君が開口していた。


「客としてだったのに、あの人はいつもドレスコードの必要なお店に連れて行ってくれたりしたんだ。男娼としての仕事はさせて貰えなくて、はじめは『別にいいかな』って感じで流されてたんだけど、罪悪感に耐え切れなくなってね。ある日、言ったんだ。『どうしてこんなに良くしてくれるんですか?』って。そしたらあの人『私が買った身体を、どう使おうと私の自由だろう』って笑ったんだ。

 お人好しなあの人は俺の話を聞くと、自分が働いている会社に入れてくれた。普通に生きられるのが幸せで、お礼に何か出来ないか必死に探した。でも何もさせてくれなくて……暫くして彼が倒れたことを聞いた。慌てて病院に駆け込んだ俺に、彼は初めて我儘を言ったんだ。『死ぬまで傍に居て欲しい』って。裕一郎さんは末期の癌で、もう助からなかった。山奥の別荘に行きたいって言うから、重い身体を支えながら、二人で、そこに行って余生を過ごした」


「失踪期間って、もしかして……」


「まだ失踪してたなんて噂があるんですか?」


「はい。一応、会社側の書類には有休を取ってたってありましたが」


「本当に人間って噂話が好きだよね」


 足が痺れたのだろう。正坐を胡坐に変えた彼は、苦笑を零し終えると続きを紡いだ。

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