表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第4章「欲しいものが貰えないからプレゼントというのだ」
83/91

第83話「空おぼれ」

「なんで?」


「菫さんと永君の関係は、まるで犬養さんと狼谷君だった。そして永君と綾崎の関係も……そこに一つの感情が芽生えた。でも狼谷君、それは私情だよ」


「陽正だって私情だらけじゃん。俺に言えんの?」


「狼谷君は言ったよね。『愛されて生きてきた陽正に〝持ってない者〟の気持ちは絶対に分からない』って。でも狼谷君も知ってる筈だよ。〝愛情〟ってやつを」


「そんなものは知らない」


「知らないなんて言わせない」


「そんな風に言えるのはアンタが愛されてるからだ」


「あなたが言ったんじゃない。私は家族に愛されてるんだね、って。愛が分かるのは愛されたことのある人間だけよ」


「アンタが愛されてるのは誰が見ても分かるよ。俺は誰にも愛されてない」


「犬養さんに愛されてるじゃない!」


「明日香は親じゃない!」


「血が繋がってないからなに!? 犬養さんはあなたを愛してくれたでしょ!?」


「親に愛されてたアンタには分かんない」


「あなただって私の親のこと知らないじゃない! どれだけ理解がなかったか、どれだけうるさかったか! でも親との思い出って、いいことばかりじゃない。そういうマイナスな言葉だって、私を……子供を愛してくれてるから出てくる言葉なのよ! あなただってそうでしょ!? あなたが嘘吐きなのが悪いんじゃない! あなたが自分に嘘を吐くから悪いのよ!」


「そんなことは綺麗事だ!」


「綺麗事だっていいじゃない! これは美しい真実よ! あなたは親に愛されてた! 愛を知ってた! 愛してくれた人に理解して欲しかったから悲しかったんでしょ? 愛されてると思ったから親が大好きだったんでしょ? 愛されてたから助けに走ったんでしょう? 殺されて悲しかったのは愛していたからでしょう? ほら、あなたは愛を知ってるわ。嘘を吐かないで。自分に嘘を吐かないで。それはあなたを苦しめるだけでしょう? 真実は一つ、あなたは愛されてた。今も愛されてるのよ」


「俺は……!」


「だから大丈夫だよ? 狼谷君が話しても、誰もあなたを責めない。ねぇ、私に協力してくれない?」


「こんなところで何をしているんですか?」


 アパートにはまだ遠い。声の聞こえた方を振り仰ぐと、綾崎が胡乱な眼差しで此方をジッと見据えていた。


 昨日の今日では、まだ警戒心が抜けないらしい。自身を繕う余裕すらないらしい狼谷君は、彼から目を逸らし、唇を真一文字に引き結んでいた。


「また来たんですか。今日は新人刑事さん?」


「もう新人、なんて感じではないですが」


「今日はあの美人さんはいないんだね」


「そうですね。今日は私がお話を伺いに参りました」


「どうしてそんなに拘るんです? この事件はよくあるようなことでしょう? 判決が出たにも関わらず、今から何をしようと言うんです? 犯人が私ではいけないんですか?」


「永君の為です。子供の語る〝本当〟を私達大人が信じなくてどうするんでしょうか」


「いつになったら諦めてくれます?」


「真実を話してくれるまで」


「真実はあなた方が書類に記した事項ですよ。それではこれで失礼致します」


 線の細さが顕著に表れた楚々とした背中が遠ざかっていく。女性のような淑やかさを携えた彼は、鋭利な口調で捨て台詞を吐いていった。


「今日は帰ろうか。狼谷君も、よく考えてみて」


「陽正は!」


 半ば叫ぶように引き止められる。瞳の奥の世界は揺れ、私を惹きつけた。


「俺にどうしてなって欲しいの?」


 どうなって欲しい、とは、どういう意味なのだろう。けれども、この世界が彼に優しく在れば、と思う。


 偽り、繕い、仮面を象る。それらはどう足掻いても辛苦を伴うのだ。〝本当〟だけで生きていけるほど人は強くない。それでも〝嘘〟だけで生きている彼の世界を変えたいと思った。『あなたが本当の姿で生きてもいいんだよ』と。


「幸せになって欲しい」


「幸せ……?」


「そう。普通の人が得られるような幸せを、狼谷君にも味わってほしい」


 きっと、それは砂糖菓子のように甘い筈だから。


 私の言いたいことは二人(・・)に届いただろうか。私は、そうして家路を歩んだ。敢えて、彼を置き去りにして。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ