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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第4章「欲しいものが貰えないからプレゼントというのだ」
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第78話「膂宍の空国」

仁科(にしな)さん」


 たった一言。たった一言で綾崎は狼狽した。見るからに蒼褪め、瞳を泳がしている。片手に持っていた鞄を両手で抱いた彼は、胡乱な眼差しを私達に向けていた。

「……誰ですか?」


裕一郎(ゆういちろう)さん、と言った方がいいですか?」


「だからなん……」


「貴方がやったことを全て聞きました。悔いているなら彼女達に真実を話してください。そうじゃないと永君が悲しみますよ」


「あの男を殺したのは私です! あの二人は関係無い!」


「そうですか。明日、また来ます。帰るよ、明日香、陽正」


「待って!」


「何?」


「綾崎、さんはやってないんでしょ?」


「俺は、そうは言ってない。そしてそれを語れるのは、この人だけだ」


「どうして? 真実を知ってるなら早く……」


「陽正には分からない」


「どういうこと?」


「愛されて生きてきた陽正に〝持ってない者〟の気持ちは絶対に分からない。だから黙ってて。黙ってて欲しいと願ってる人がいるんだ。でも全ては本人(・・)が決めること。綾崎さんが自分の言葉でちゃんと伝えられるなら、それでいいって言ってたんだ」


「……分かった。今日は帰ろう。綾崎さん」


「なんですか?」


「永の〝超能力〟を貴方は信じてあげたんですか?」


「サイコキネシス?」


「信じてあげたんですね。じゃあ、これを。ご連絡を待っています」


 名刺を取り出した彼女が、綾崎のポケットに突っ込む。納得いかないことだらけの私を引っ張ったのは狼谷君。無理矢理、後部座席に押し込められた私は怒りの矛先を彼に向けた。


「霊と話が出来たんでしょ!?」


「出来たよ」


「真実が分かったんでしょ?」


「そうだよ。綾崎さんはやってない」


「そんなの……菫さんが犯人だって言ってるようなものじゃない!?」


「そうだね」


「どうして嘘を吐かないの……?」


「言ったでしょ。普通の人間に、普通じゃない人間の気持ちは分からないって」


「何を今更……蟹江君の時だって真実を……!」


「陽正は、自分が辛い想いをしたからって、他の人にもさせるの?」


「真実に勝るものはないって犬養さんは言ってた! 私の仕事は真実を暴いて……」


「暴いてどうするの? 誰も救われない結末に何があるの? 明日香は誰かを守る為に刑事をやってる。陽正の正義はどこにあるの? 真実を暴くこと? ねぇ、それって……」


 ——猿島と変わらないね。












 呪詛のような口舌が纏わりつく。嘘じゃないからこそ血の気が引けた。


 彼を糾弾した自身が同じことをしていただなんて笑い者だ。吐き気が込み上げる胃を押さえ、シートを見つめる。その後、動き出した車内で、誰も言葉を発することはなかった。


 私は変わってしまったのだろうか。麻痺する心胆が刑事になることの証なら、立派な刑事じゃなくていいと思った。


 悲しい思いをする人間がいない世界へ。そう思っていたのに。今の私には、ただの夢物語に他ならない。


 痛めた心は何が為?


 自問自答に、有り触れた呼気を吐き出す。答えは、やはり分からなかった。

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