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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第4章「欲しいものが貰えないからプレゼントというのだ」
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第76話「乞食の空笑い」

「何食べてるの!?」


「パンだ。食べるか?」


「うん!」


 犬養さんにミニクロワッサンを貰った永君が美味しそうに頬張る。それを眺めていると頬が緩んだ。


 服の上からでは痣の有無が確認出来ない。けれども線の細さは伺える為、虐待の疑いを晴らすことは出来なかった。


「お母さんは今日も仕事か?」


「うん」


「そういえば今までも夜にコンビニに行ったりしてたんだろう? 何をしてたんだ?」


「それお母さんに言った!?」


「言ってないよ。安心しな」


 先程まで綻んでいた表情が焦燥に変わる。目を剥いて食いつく様には恐怖を感じた。


 知られたくないということは内緒だったのだろう。食す手を止め、逡巡しているかのような姿に私は息を呑んだ。


「……お腹が空いて」


「でも何も買わなかったんだろう? それにあんな時間に、あんな遠いコンビニまで買い物って感じじゃないよな?」


 身を竦めた彼が唇を引き結ぶ。どうやら口に出来ないわけでもあるらしい。その様に苦い表情を浮かべた犬養さんが視線を前へ向けた。


「お母さん好き?」


「なんでそんなこと訊くの?」


「昨日、話出来なかったから。俺はね、お母さん好きだよ。優しいわけじゃないけど好き。永君は?」


 狼谷君の言う〝お母さん〟とは誰のことなのだろう。静かに耳を傾けていれば、僅かな沈黙後、永君の声が空気を震わせた。


「俺も好きだよ」


「どこが好き?」


「お母さんの作る物は何でも美味しんだ」


「何が一番好きなの?」


「唐揚げ!」


「へぇ、俺も唐揚げ好きなんだ。食べに行っちゃおうかな」


「来てよ! 凄くおいし……あ、でも今はお仕事が忙しいから……」


「怒られる?」


 眉尻を下げた永君が首肯する。狼谷君の「そっか」という声を最後に車内は沈黙に包まれた。それに居づらさを覚えたらしい永君が降車する。「またね」と去っていく背中は、とても寂しそうだった。


「虐待、なんでしょうか。でも愛情って見えませんよね。永君はお母さんが大好きみたいですし……」


「少なくともまともに食べてないんじゃない? あの細さなら」


 犬養さんと似たようなことを言う狼谷君に目を瞠る。私に向かって「何?」と繰り出す様は不機嫌そうだった。


「どう見えるかって言ったら、あの怯えた様子からは虐待を疑わざるを得ないよな。ましてやあの部屋に料理をするような痕跡はない。どんなに酷い親でも子供は大好きなもんさ。全て自分が悪いと思い込んで庇おうとする。健気で、いじらしくて、だからこそ愛しい。だから……」


 犬養さんは、その先を告げない。私達はそうして綾崎が現れるのをジッと待ち続けていた。

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