第71話「トリチェリの真空」
「真空に訊いたら、今はスマホで事足りるし当たり前だろ、なんて言ってたんだけどね。残念ながら永はスマホを持ってなかったんだ」
「でも一緒に遊んでたんですよね?」
「ああ、それも『ゲーム』をしていたそうだ」
「ゲームの内容は聞かなかったんですか?」
「どうやら〝超能力〟に関わることは教えられないみたいでね。ゲームの内容に関しては教えてくれなかったんだ」
「超能力……犬養さんは使えるって信じてるんですよね?」
「いや、真空にも訊いたけどアレは嘘らしい」
「嘘!? どうして分かるんですか?」
「陽正にも憑いてるだろう」
「守護霊?」
「そういうこと」
「じゃあ、その人に聞けば事件の真相が……!」
「それがね。犯行時刻は夕方ってことで永は、まだ下校途中なんだよ。つまり守護霊も犯人は見てないってわけ」
「でも永君は自分の犯行だって言ってたんですよね!?」
「それも無いって。当時見たのは血みどろの綾崎だけみたい」
「じゃあ、どうして自分が殺したなんて……」
「そういうこと」
「え?」
「子供が嘘を吐くのには意味があるんだ。つまりアタシ達がしなくちゃいけないのは、真相を突き止めること」
「でも捜査は……」
「そう、もう終わった事件を蒸し返すことは出来ないし、永の証言だけじゃどうにもならない。だからココからはアタシ一人で捜査する」
「どういうことですか?」
「どうしてもこの部屋を見ておきたくてね。アタシ一人じゃどうしようもないから今回は陽正に手伝って貰ったんだけど、これ以上アタシの我儘に付き合わせるわけにはいかないからね」
「犬養さん……」
「助かったよ。他の奴らにだけ黙っててくれたらいいからさ。頼んだよ?」
肩を軽く叩かれ、優しい笑みを向けられる。彼女の気遣いは有り難かったが、片足を突っ込んだ手前『はい、そうですか』と頷くことは出来なかった。
既に法は犯している。冤罪だというのなら、尚更、見過ごすわけにもいかなかった。
「いえ、私にも手伝わせてください」
「陽正?」
「私も真実が知りたいんです。刑事として冤罪は見逃せません」
「今回は、被疑者が犯行を認めている。真空に協力して貰っても自供はさせらんないよ」
「はい。なので刑事らしく足で稼ごうかと」
「陽正に頼んで良かったよ。じゃあ、これからよろしくね」
「はい!」
握手を求められ快く応じる。ギュッと握られた手は力強く、痛いくらいだった。
「陽正は何か見つけたかい?」
「いえ……」
「アタシは一つ見つけたんだ」
「携帯ゲーム機、ですか? ……さっきゲーム機はないって!?」
「ないとは言ってない。それに、これに映画を入れて見ている奴は多いんだよ。大人のゲーム機ってやつだ」
「そう、なんですか?」
「陽正の世代はスマホにタブレットだからな。こういうのに縁もないだろう」
ああ、こういうところで猿島警部を怒らせていたのか。苦笑を漏らす犬養さんに内心反省していれば、電源を入れている彼女がいた。
「あー、やっぱり充電が切れてるな」
「どうしますか?」
「家に行って充電をしてくる。ゲームの内容を教えてくれなかったってことは、これを見せた瞬間、悪い方向に転がる可能性があるからな」
透明な袋にゲーム機を入れジッパーを閉める。それを鞄に入れた彼女は僅かな間、動きを止めていた。




