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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第3章「殺害の理由はいつだって生首に口づけするようなものだ」
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第60話「戯言」

「そういえばココって……」


「泊まる予定だった部屋だ。荷物は近くにあるから何か欲しいものがあれば取るぞ」


「すみません」


「謝るな」


「はい。今は大丈夫です。でも……少し……」


「ああ。ゆっくり休め。猿島と蟹江は部屋に戻ってくれ、お前らがいると陽正が休めないからな」


 緩やかに身体を横にし瞼を閉じる。突き刺すような痛みに顔を顰めていれば「貧弱だな」との言葉を投げ捨てられた。一方の蟹江君は苦笑しながら「お大事に」と言ってくれる。それに目礼すると、彼も踵を返し部屋を後にしていった。


「まったく……アイツはいつもああやって」


「すみません。私がどんくさいから……」


「陽正が謝ることじゃない。それで二人は犯人を知っているんだろう?」


 ぎくり、と肩が撥ねる。狼谷君ではなく私を見つめてくるあたり流石だ。犬養さんは口端を吊り上げ、次いで狼谷君に目線を向けた。


「分かってるよ。でも協力してよね」


「言われなくても」


「犯人は分かってるけど証拠はない」


「知ってる。早く教えてくれないか?」


「待って……!」


「陽正?」


 疑問符を浮かべた犬養さんが、狼谷君と私の顔を見比べる。その様に犯人の目処を付けた彼女は深い溜息を吐いていた。


「本当にアンタって馬鹿正直だよね」


「うっ……」


「自分でバラしてたら世話ないね」


「だ、だって……! 証拠がないなら……」


「陽正、言いたいことは分かるが、その続きを口にすることは真空への侮辱にあたるぞ」


 気付きたくなかった。彼の嘘に、どんな意味があるのか。彼の真実に、なにが込められているのか。改めて気付かされてしまえば、思いを口にすることなど出来なかった。


 唇を噛み締め、喉に張り付いた言葉を吐き出そうと嘔吐く。けれども唇から、それが零れることはなく、にも関わらず胃酸に溶かすことも出来なかった。


「協力してくれるよね。二人とも」


「勿論だ」


 こたえなければいけない。答えなければ。応えなければ。堪えなければ。


 私は刑事なのだから。


「分かってる」


 絡めた眼差しが熱い。涙痕は紅く、私を彩っていく。それが痛くて、情けなくて、弱虫な自分に嫌悪を覚えざるを得なかった。それを咎めない二人は優しくて残酷だ。


 優しい嘘とは何だろう。救出とは何を指すのだろう。答えはいつも宙を舞い、簡単には触れさせてくれない。まるで掌で溶ける立花の如く、私を嘲笑している気がした。

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