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オオカミ少年の真実【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
第3章「殺害の理由はいつだって生首に口づけするようなものだ」
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第57話「深戯れ」

「当たり前でしょ。意味不明な謝罪をぶつけられた方の身にもなってよ」


 確かにその通りだ。彼からすれば勝手に近付いて来て、勝手に離れた人間なのだから。


「それで離れてどうだった?」


「どう、だったのかな。でも懐かしいと思えないあたり寂しかったんだと思う」


「寂しい?」


「うん、狼谷君の嘘が恋しくなっちゃった」


「馬鹿じゃない」


「もうそれは聞き飽きたよ」


「それで? 俺とは、どう付き合ってくつもり?」


「……協力して欲しいの。本当は知ってるんでしょ?」


「何を?」


「犯人」


 狼谷君は気付いていた。そして言えなかった、ということは……そう考えると自ずと答えが出てくる。私に言えない相手、彼が言いたくない人間の名。本当は私だって疑いたくなどない。それでも、これはいけないことなのだ。


「嘘を吐いてくれてたんでしょ? 優しい嘘を」


「違うよ。〝言わないで〟って言われたから言わなかったんだ」


「なら良かった」


 彼の口にしている言葉は真実なのだろうか。真偽のほどは定かではないけれども、一つ分かったことがある。狼谷君は犯人を知っているのだ。


「お二人さん、そろそろ戻ったらどうかしら?」


 部屋から出てきた女将さんが私達に声を掛ける。話に夢中になっていた私は扉の開閉音に気付くことが無かった為、少しばかり驚いた。


「あ、はい。中の様子は……?」


「犬養様が猿島様に話をして納得してらっしゃいましたよ」


 莞爾として笑う彼女の顔には人柄の良さが表れている。礼を言う私に頭を下げたかと思うと数歩歩み、思い出したかのように此方を振り仰いだ。


「あの、こんな時に申し訳ないのですが……」


「何かあったんですか?」


「あったと言えばあったのですが一応……昨日、財布を失くされたと、お客様から届け出がありまして。従業員で探してみたのですが見つからなかったので、もし見つけたらお声がけくだされば、と」


「分かりました。窃盗の疑いは?」


「それが……お客様が大変お怒りでして。昨夜の騒ぎがあったことで、なぁなぁになっていたのですが、本日中に見つからない場合は窃盗で訴えてやる、と」


「此方でも探してみます。騒ぎが大きくなっても大変でしょうから、何かありましたらお声がけください」


「助かります。犬養様には言い出しにくかったもので」


「あんなことがあったら言えないですよね」


 曖昧に笑む女将さんが深く頭を下げる。楚々とした背中が去っていく様は、同性の私から見ても感嘆を漏らしてしまうほどだった。やはり着物を身に付ける人は姿勢がいい。


「陽正、コレなんだと思う?」


 革の財布を取り出した狼谷君が妖艶に笑む。一瞬、疑問符を浮かべたものの、状況を理解するには十分だった。


「なんでさっき出さないのよ!?」


「コレが俺の計画だったんだよね」


「計画?」


「そう。昨日の猿島の騒ぎに乗っかって野次馬から拝借したんだ。コレを返すから俺の話聞いてくれる?」


「それ窃盗罪だよ!? 犯罪!!」


「証拠は? 証拠がないと俺を捕まえられないでしょ?」


「今ならさっきの猿島警部の気持ちが分かるわ!! 警察にはね!? 現行犯逮捕って手があるのよ!? その手に持ってるものは紛れも無い物的証拠なんだから!?」


「チッ……」


 舌打ちを決められ、青筋を浮かべる。けれども、すぐに彼の口舌が矛盾していることに気付いた。


 ああ、そういえば彼はオオカミ少年だったのだ、と口端を吊り上げる。そんな私を見止めた彼は艶やかな眼差しをしていた。


「いいよ。聞いてあげる」


「急に上から目線」


「教えてください」


「いいよ。教えてあげる」


 彼はそうして、また嘘を吐いた。

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